『THE SECOND LIFE』宝塚歌劇団宙組公演

 宝塚歌劇団、宙組公演『THE SECOND LIFE』を観た感想と評論。

最初に『THE SECOND LIFE』のあらすじとキャスティングを紹介する。この作品は、2007年11月10日から19日の9日間、バウホールで公演された。私は、この時実際に見に行っており、非常にコミカルで楽しい印象だった。再度見る気になり、今に至る。

 この作品は、大切な女性と再開すべく、2人の正反対の性格の人間が混ざってしまった男の愛に奮闘する物語である。アメリカで、ピアニストをしている男マークと、その恋人ルシアがいた。ある日、マークはマフィアに襲われ、ルシアの前で命落とす。ルシアは、マークの死を悲しんでいたが、友達のケイトに、旅行に誘われ気晴らしにイタリアへ向かう。 

 一方、シチリアでマフィアをしている主人公ジェイクという男が存在した。ジェイクの所属するマフィア団は、ホテル・ヴィンセントを拠点とし、このホテルは、ルシアとケイトが宿泊するホテルだった。女たらしなジェイクは、ルシアを口説くが、そんな態度が気に食わないルシアは、ジェイクのことを嫌っていた。

そんなジェイクの元に、敵対するマフィアが現れ、敵の罠に引っ掛かり死亡する。その死体の傍を、通った死んだ霊のようなマークが登場し、ジェイクの体の中に入り込んだ。体は、ジェイクだが、中身や性格はマークとなった。

ジェイク(マーク)は、早速ホテルに帰り、愛しのルシアに「僕は、マークだ」と言うが、全く相手にされない。ジェイク(マーク)は、姿が違うから、どんなに説得しても彼女にはマークだと認識できないのだと悟る。マークではなく、ジェイク、として生きることを決め、ジェイクとして好きになってもらうこと、そう考えた。ジェイク(マーク)は、得意のピアノで、生前よく彼女に弾き語りをしていた曲を弾く。それに気づいたルシアは、マークなのかもしれない、と気を許す。ルシアは、ジェイクの姿と、性格と、マフィアである立場と、マークの性格が混ざった1人の男性として理解し、愛した。

その後、敵対するマフィアが、ジェイクが生存していると知ると、ジェイクを呼び出し、殺そうとする。この闘争により、命を失うが、すぐに自分の体に戻り、ルシアは自分の体に生まれ変わることができた。もう離れないと愛し続ける、というハッピーエンドで幕を閉じる。

以上が『THE SECOND LIFE』のあらすじである。

この作品のメッセージは、愛し抜く力を信じること、をテーマにしているのではないだろうか。同作品では、生き返る、転生がテーマとなっている為「人は必ず終わりがある」「人は必ず死ぬ」という台詞がよく出ていた。ルシアの台詞の中に「人はいつか死ぬのに、なぜ生まれてくるのだろう」というものがあるが、ジェイクは、「人を愛すためだ」と返している。

人を愛す、喜びや優しさ

何があっても相手を思い続ける強さ

マークは実際に、死んでから1年間ずっとルシアのことを考えていたことからも、人は死んでしまって、夢や希望がなくても、誰かを思い続けることが可能だとわかっていた。ルシアに会いに行く、それは彼にとっての生きる渇望を生み出していた。

人は生きていく間、楽しいことだけではない。苦労や、挫折を経験する方が多い人もいる。その中でも、「人を愛し続けること」は死後も想いが残り続く。「人を愛すること」は、何にも代えがたい生きる活力となる。このことをマークを通じて表現していたのだろうと考えられる。

他にも、もちろん、命の大切さや、与えられた人生をしっかり生きる、というテーマを含まれているだろう。

舞台演出について

一見すると、「生死」がテーマの作品は、重くなりがちである。しかし、この作品は、「生死」の重たさを感じさせない、シリアスな場面が少なく、コメディに振っていた点が良かった。

コメディ要素としては、

・マークの天使のわっか

・マークの歩き方に大きな特徴

・マフィアのボスがぬいぐるみの犬を抱いている

・I Will Always Love Youの曲を歌う

が見受けられた。また、主役の北翔海莉のアドリブもよく、客の笑い声もよく聞こえていた。

演出として、特に、マークの歩く癖は重要だと考えられる。舞台では、ジェイクとマークが入れ替わる場面はダンスで表現されており、ジェイクの体にマークが入った瞬間に、マークの歩き方に変わる、という演出になっていた。これは、言葉にしなくても、視覚だけで、はっきりと客席に「ジェイクとマークが入れ替わった」ことを見せることができる。

足の動きだけでなく、声の高さ、目の開き方、眉毛のつけ方と、表情をがらりと変えていることもわかる。北翔海莉さんの演技の上手さが際立った瞬間だ。

気になる点としては、2幕が長いということ。流石に、ルシアが一旦死ぬ必要はなかったと考える。そもそも、1幕は、割とコミカルで、複雑な場面は少ないので、気楽に見れる。2幕になると、天使や、敵対するマフィアの登場など、物語は複雑化する。いわば、2幕の方がボリュームが大きすぎる。だから、2幕で、長く引き伸ばすよりかは、2人とも助かった、ハッピーエンドと続けた方が良かった。また、単純に考えて、ルシアが一旦死ぬ必要性も感じられないのだ。

もう1つ、ジェイク、ルシア、マークの3人だけで物語が進んでしまうことだ。あらすじでも書いたように、この3人と、敵対するマフィアくらいが登場人物として重要で、後は作品にほとんど絡まない。見ていて0番中心の舞台だなと感じてしまった。

主役がよく話す代わりに、周りの2番手や台詞の少ない役があまりにも目立たない。これは、作品としてもう少し工夫が必要だろう。観客を退屈にさせないこと、広い視野を持って作品を見てもらうこと、舞台の空間作りが足りない気がした。

総評として、「愛を貫く」というわかりやすいメッセージ性と、コメディで楽しい作品で、見やすかった。なにより、この作品は曲が1番好きだ。







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