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あやかしのなく夜に

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あやかし異能ミステリー、「あやかしのなく夜に」まとめ 創作大賞のミステリー小説部門に参加しています
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2024年5月の記事一覧

あやかしのなく夜に 17話

17話 会いたい人 店内はカウンターに六つの椅子、壁にそって四つのテーブルとひとり掛けのソファーが向かい合って置かれた小さな店だった。
 そして、お店の隅にはアップライトのピアノが置かれている。
 メニューにはコーヒーや紅茶、それにパンケーキやサンドウィッチなどが書かれている。
 僕たちはカウンターの席に座り、リモもそれに倣う。
 カウンター席に座る狸……なかなかシュールな光景だ。
「飲み物、何が

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あやかしのなく夜に 16話

16話 ともだち 外に出ると風が強く吹いていた。
 枯れ葉が舞い、人々は背を丸め足早に歩いていく。
 明日から十一月。寒さは日々強くなっていく。
 時刻は九時四十分。
 自転車の前かごにリモを載せ、それを押しながら臨と並んで歩き、天狐の山に向かった。
「えー、何あれ狸? ちょーかわいー!」
 などと指さされたリモは、手を振り愛想を振りまき時折写真など撮られている。
「知らないところでバズってそうだ

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あやかしのなく夜に 15話

15話 うらやましいよ 今わかっている事。
 猫が襲われているのは満月の夜。
 襲っているのは、耳と尻尾が生えた女の化け物。
 それはあの山に住んでいる可能性が高い。
 リモは、あの化け物が怖い、と言っている。
 山にある社がもしかしたら関係があるかも?
 朝食の後、僕は今わかっていることをルーズリーフに書きだしてまとめた。
 ……あんまりなんにもわかってねぇ……
 化け物の正体がまず分かってない

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あやかしのなく夜に 14話

14話 朝が来て 朝起きると、臨の姿はすでにベッドになかった。
 スマホで時間を確認すると七時前。あいつ早っ。僕はまだ寝ていたいくらいなのに。
 リモは僕の隣で寝息を立てている。
「リモ」
 欠伸をしつつ、僕はリモを呼ぶ。
「うにゃ……ママさんもうたべられないですよ~……」
 などと寝言を言うので、僕はベッドから起き上がるとリモを抱き上げた。
「おおう?!」
 驚いた様子でリモは辺りを見回し、僕の

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あやかしのなく夜に 13話

13話 その夜に 臨の家に泊まるのは初めてじゃないけど、こいつの家には客用の布団、などというものが置いてない。
 無駄に大きな臨のベッドで一緒に寝るのは正直嫌なんだけど、だからといって床で寝るのも嫌なので、僕は臨と並んで寝ることになった。
 臨にジャージを借り、リモを挟んでベッドに横たわる。
 常夜灯が付いた薄暗い室内。
 僕は背中にリモの寝息を感じ、何度目かの寝返りを打った。
 眠れない。
 今

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あやかしのなく夜に 12話

12話 山を下りて 暗い山を下り、自転車を止めたところまで戻る。
 僕はリモを籠の中におろすと、彼はふう、とため息をついた。
「よかった……」
「え? 何が」
 自転車のロックを外しながら尋ねると、リモはでん、と籠の中で座り縁に手を掛けた。
「おぞましい気配がしたのであのままあの場所にいたら紫音さんたち、危なかったかも……」
「え、おぞましい気配って何?」
 臨が声を弾ませリモに問いかける。
 そ

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あやかしのなく夜に 11話

11話 幽霊
 どれくらい歩いただろうか。
 最初は枯葉や枯れ枝を踏む音に驚かされたけど、分かれ道に着くころにはいちいち気にもならなくなっていた。
 まっすぐ行けば山頂。左に行けば社がある。
 社のある方は余り人が通らないためか、かなり道が細くなっている。
 幽霊が出るのはこの辺りだと、臨は言っていた。
 見た感じ特に変わった様子はない。
 ただ暗い、森が広がっているだけだ。
 僕はリモをぎゅっと

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あやかしのなく夜に 十話

あやかしのなく夜に 十話

10話 幽霊を捜しに その週の土曜日の夜十九時。

 僕は自転車で、臨との待ち合わせ場所である大学病院近くのコンビニに向かった。

 あいつは日中撮影があるとかで、十九時の約束もぎりぎり間に合うかどうか、とかなんとか言っていた。

 来なかったら来なかったで、ひとりで行くか……?

 まあ正確にはひとりじゃないが。

 僕が肩にかけているショルダーバッグの中で、もぞもぞと蠢くものがある。

 狸の

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あやかしのなく夜に 九話

あやかしのなく夜に 九話

9話 狸の妖怪 せっかく病院に来たのに、僕は狸を抱えて家に逆戻りすることになった。
「あら、もう戻って来たの?」
 母親にそう言われたが、僕は苦笑だけしてさっさと自室へと向かった。狸を抱えて。
 ていうかこの狸、虫とかいねえだろうなあ……
 僕は部屋に入ると、狸をゆっくりと床におろした。
 狸はきょろきょろと辺りを見回し、鼻をひくひくさせている。
「ここなら安全!」
 と言い、なぜか狸は胸を張った

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あやかしのなく夜に 八話

あやかしのなく夜に 八話

8話 狸の妖怪 翌日。
 僕は欠伸をしながらふらふらと登校した。
 朝日が眩しくて辛い。
 枯葉舞う通りを歩いていると、後ろから肩を叩かれた。
「紫音、おはよう」
「あぁ、臨、おはよ……」
 答えながら、僕は大きく欠伸をする。
 僕たちの本業は高校生だ。
 平日は毎日学校がある。
 臨は時々仕事で休むが僕はちゃんと毎日学校に通っている。サボることはまずない。
 なので例の丘に調査へ行くのは週末、と

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あやかしのなく夜に 七話

あやかしのなく夜に 七話

7話 幽霊の噂 臨に引っ張られるようにして、僕は通りを歩いていた。
 家まで帰るのはつらいし、臨の家まで行くのも辛いから僕は病院の仮眠室で休むことにした。
 もちろん真梨香さんと院長に一言メッセージを送ってからだ。
 臨が壊した電子錠は直されており、僕は持っているIDでロックを解除して中に入る。
 臨は室内の灯りをつけ、僕をベッドの上に放り投げたあと言った。
「紫音、飲み物いる? 買ってくるけど」

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あやかしのなく夜に 六話

あやかしのなく夜に 六話

6話 別の目撃者 臨が、不審な人物を目撃したという女性にメッセージを送って約束を取り付けた、と言うので翌日の夕方、僕たちはその女性に会うことになった。
 相手はモデルとしての臨を知っている人で話は早かったらしい。
 夕暮れの中、約束の場所である目撃現場に向かう。
 時刻は五時を過ぎたところだった。
「普段から、オカルト好きだって言っていて良かった」
「その情報初めて聞いたぞ僕」
「だって紫音、そう

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あやかしのなく夜に 五話

あやかしのなく夜に 五話

5話 吸い上げた記憶 吸い上げた記憶が消える前に、僕は見たものを書きとめておくことにした。
 今までいくつもの記憶を消してきたけど、こんなことをするのは初めてだ。
 いつもの仮眠室でベッドに座り、ルーズリーフに見たものを書きこんでいく。
 満月の夜。若い女、たぶん二十代半ばくらい。大きな白い獣の耳。白く大きな尻尾。
 ルーズリーフ一枚使い、僕は絵を簡単に描いてみる。
 服はどうだっただろう?
 ワ

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あやかしのなく夜に 四話

あやかしのなく夜に 四話

4話 化け物 街路樹の葉はすっかり色を変え、銀杏の葉が風に舞い踊る。
 僕は秋の風に吹かれながら、大学病院へと自転車を走らせた。
 駐輪場に向かう途中、駐車場に一台、パトカーが停まっていたことに気が付く。
 僕は自転車をおいて、真梨香さんの所に行く前に猫の頭が発見されたらしい現場に向かった。
 大学構内の中庭、と言ってもだいぶ広いけど。
 土曜日であるにもかかわらず人が集まっているので、現場はすぐ

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