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カタヌキ勝負の末生まれたのは愛

マンボウの名前はスカイサンダー

夏が終わりは寂しくなってきます。
少しずつ日が短くなっているのに気づくからかもしれません。
日照時間が短くなるとセロトニン分泌が少なくなるらしいですから、なおさらですね。

鬱屈した気分のときは、鬱屈した自分を見つめないことにしています。
身体がしんどいときもそうなのですが、押し返しても同じ力で押し返されるだけなので、できるだけアホなことを考えます。
鬱屈としたことを考えると、そういう神経がひたすら強化される感じがします。
だから楽しいことやくだらないことを考えるのは素晴らしいことだと思います。

鬱屈としたときはうんちネタなどを考えると落ち着きます。
「あの動物園で見た蛇のうんち想像絶するほどでかかったな…」とか考えます。
いや、でも私は鬱屈としてないときでもウンチグッズがあると買ってるのであまり関係ないかもしれません。

うんちグッズを筆頭に、置物とかぬいぐるみとかなんか変な形の壺とか…。
私が買うものは大体周りが「いらね~!」と言うものなのですが、「いらないもの」を必要としている自分が面白いみたいなところもあります。
いらないものを眺めていると、「いるもの」を眺めているよりも充実した気分になります。

誰かに見せたい訳でも、知ってほしい訳でもないのでゴソゴソと集めて眺めています。
ただ自分が「大事に思っている」という愛情のようなものを再確認できる感じがします。

カタヌキを制すものは世界を制す

駄菓子屋さんに行ったらカタヌキが売っていました。

昔地元のお祭りでお駄賃目当てに必死にカタヌキしていたのを思い出しました。
割らずにカタぬけると、難易度によって何百円かもらえたシステムだったと思います。
カタぬけた記憶は一度もありません。

無性にやりたくなったので購入。
ひと箱で6枚入りで、内2枚は友人とカタヌキしました。
私はうまくカタぬけず心残りだったので残りの4枚を持って帰らせてもらいました。

!試合開始!

第一回戦 ぶどう

優しい顔をしている

手始めに選んだのはぶどうです。
理由は「ヘタ以外のところは簡単だから」です。
尚且つ画鋲でカリカリと削っているので、ようじより力をかけなくて済んでいます。勝機がある。

順調ってやつ

手先の器用さについては少し自信があります。
今でも切り絵やペパークラフトが好きで制作しますし、細かいところをちょこちょこ描きこむのも好きだからです。

ヘタ周りはあらかじめ深く掘り、周りをポリポリ仕上げていきます。

何?

ヘタが折れました。
折れる時は本当に一瞬です。

指の置く位置が悪かったのか、ヘタ周りを削っていない時に急に取れました。

第二回戦 電話

今でも黒電話を使っています

次は昔の電話です。
先ほどのぶどうのヘタのように細い部分はないですが、形が少し複雑です。

大きな図形ごとに取っていく戦法

先ほどの反省を生かし指は遠くに置きます。
そして変な力がかかった時もそこで折れてくれるのではないかと、青い点線部分にあらかじめ掘っておく作戦を考えました。

江戸時代の利根川工事のことを考えていました。
川の無かったところに線を作って川にしていっちゃう大規模工事です。
江戸の街が洪水になるからということで利根川の流れを変えた結果、江戸に経済的利益をもたらしたとか。
私が今やっていることも同じなのではないかと思います。

想定通り

大きな図形としてカタ抜けました。
単純な形にして大きな部分から順番にカタ抜くのがマストなのかもしれません。
デッサンでも最初はおおまかに、少しずつ細部をやる方が安定しますよね。

上部の大きな部分もポリポリし続けます。

どうして?

ポリポリしていただけなのに想定外の部分に亀裂が入りました。
そういえば利根川の治水工事も、江戸は利益があったけど、いろいろしてくれた千葉には不利益が残ったとか…。つまりは江戸が氾濫しない代わりに千葉が…ということです。
いついかなる時も想定外のことが起こることを意識せねばならないということでしょう。

第三回戦 りんご

焦りが生まれてきた

次はりんごです。
ここらで焦りが生まれてきました。
難易度は上がっているのにここまで一枚も成功させられていないからです。
でもここまできたらやるしかない。

きちんと分析しよう

電話の時と同じように、大きな図形ごとにカタ抜いていくのが良いのではないかと考えました。
そしてこの素材はもしかしたら、紙の目みたいなものがあるのではないかと思いました。

紙には向きがあります。
繊維の方向のことで、Y目・T目なんて言われたりします。
コピー紙でも折り目がつきやすい方とつきにくい方があるのです。

つまりこの素材も何かそういった繊維の流れのようなものがあるのではないかと考えました。

ポリポリ2週目

無理に取ろうとせずに、全体をまんべんなく掘っていく方法をとることにしました。

ポリポリ4週目

4週目あたりに入ると、かなりクッキリとしてきました。
穴がところどころに空いていて、しっかり掘れているのが目に見えて分かります。

そろそろ外側の方からカタぬいていきましょう。

嘘だ!

かなりしっかり掘れていたはずなのに、左側の部分に画鋲を軽く刺したら割れました。
しかも掘っていたところじゃない部分が割れています。
ここでしっかりと理解したのは、この素材に紙の目のようなものはなく、ひたすらに「硬い」ということです。
つまり半分以下に薄くなったとしても素材自体が大分「硬い」ために折れるほど弱くなっていないのだと思います。
建築資材に使えるのでは?というくらい薄くしても割れない時あります。

第四回戦(最終戦) カニ

一枚だけおかしい

最後の最後に超高難易度「カニ」がきました。
泣いても笑ってもこれが最後です。

今までのことから、自分が大きな勘違いをしていたことに気付きました。
何かテクニックを使ってカタ抜こうとするのではなく、ひたすらに丁寧に掘ることがカタ抜きの本質ではないかと思ったのです。

小さい頃は「友人を待たせている…」とか「早くカタ抜けたらヒーロー!」とかそんなことを思って時間をかけられずにいただけなのではないか?
いつの間にかゆっくり時間をかけて丁寧に向き合うことを忘れてしまっていたのです。
自分の驕りによってカタヌキと見つめ合えなかったのではないでしょうか。

カニと向き合う

今までと違い、ひたすら丁寧に掘っていきます。

つまり自分と向き合う

6週目くらいになりました。
ハッキリとバランスよくカニの姿が浮かび上がっています。
心が急いてくる時は一旦画鋲を置き、星を眺めます。

クラムボンってカニなのかな?

10週目超えたあたりで穴がポコポコ空きはじめました。
ここまでで45分ほどかかりました。なんて硬い素材なんだ。これを消化できる人類って最強ですね。
クラムボンはカニなのか…クラムボンはプカプカ笑ったのかカプカプ笑ったのか気になり始めたため、10分ほど休憩をはさみます。

~再開~

カプカプ笑ったらしい

クラムボン問題の正解はカプカプでした。
正体は分からないままですが、泡みたいな意見もあった気がします。
私はカニ派です。

もう何週してるかわかりませんが、時間としては1時間を超えました。
ここらへんから雑念が晴れてきて急に心が静かになります。

悟りの入り口

手塚治虫の「火の鳥」で、彫師の話がありましたね。
「火の鳥」は幼稚園の時に読んでから私に絶大な影響を与えた作品です。
いがらしみきおの「SINK」はもう少し後だったかなあ。

ポコッと下部が取れてビクッとする

カタヌキに対して、幼き日の雪辱を果たそうと思ってきたけど、どうでもよくなってきました。
カタヌキって自分自身との向き合い方なんじゃないかな。

ゴルゴ13と同じ呼吸法を開始
掘る前に息を長く吐く
……
カニ完成

やった………!!!

合計1時間半の戦いを制し、人生初カタヌキ戦勝利を収めました。
最後の30分は脳がハイ状態になっていたのか一瞬でした。

小手先で誤魔化すよりも、目の前のことひとつひとつをコツコツやることが大事だということが身に染みて分かりました。

最終結果、一勝三敗

素早くカタ抜けたらカッコいいな、とか、そういう雑念は最後には吹っ飛び、清々しい気持ちになりました。
ここ10年間で一番自分に誇りを感じています。
なんだろう、満足感がすごい。

自身に溢れた日々を過ごせそうです。
自尊心の低い人こそカタヌキをやるべきだと思います。

勲章

完成したカニちゃんは作業場の目の前の壁に飾られています。