京都 徘徊つれづれ 6日目 その2

■京都国立博物館に冷たくされて、ぷりぷり

豊国神社のとなりには京都国立博物館がある。10年以前に来たときは、たしか入館してなかったような気がする。ところでここの本館の建物はレンガ造りで格調高く、なかなか色っぽい。なので今回は入りたいなと思っていたんだけど、その理由は東京国立博物館の年間パスをもっているからだ。これをもっていると京都、奈良、九州の国立博物館の平常展に自由に入ることができる、という仕組みになっているからだ。ところが京博は現在、平常展は行ってなくて、企画展のみの興行中。そのことは事前に把握していた。とはいえ、敷地内に入ってレンガ造りの本館を近くでじっくり見たい、という思いがあったので、正門前で係の男性に意向を話してみたんだけど、企画展の入口に別途改札をとくに設けていないので区別できなくなるからダメ、とそっけなく断られてしまった。別に企画展にもぐり込もうというつもりはないし、敷地内に入るだけ、なのに、なんだそのつれない態度は。けっ。勝手にやってろ。融通の効かない石頭のサービス精神のない連中め。

というわけで外観だけ撮ってきた

■京都駅に向かう道すがらあれこれ

この意地悪な京博の前の通りは七条通りで、向かい側には三十三間堂がある。でも、かつて行ったことがあるのでとくに食指はそそられず。なのでそのまま京都駅のある西に向かうと おくむら という定食屋が目に入った。だらだらと店を探していてもどうせ昼飯難民になるだけだから、ここはもう妥協である。おばんざい の店らしいけど、食べたのはアジフライ定食で、別に京都でなくてもどこでも食べられるような昼食。でも、こういうのが安心できるのだよな。と、貧乏人の強がりを少しばかり言っておこうかね。

とはいえ、あれするな、これするな、の注意書きがうざいのだった。

空腹感も満たされ、てれてれ歩いていたら小さなせせらぎがあった。首を伸ばして下を覗いてみると、流されてきた枯葉がコンクリの底にこびりつき、秋でもないのに紅葉みたいで乙だね、などと見ていたら向かい側からやってきた上品な感じのオバサンが、少し離れて同じように覗き込み始めた。おやおや。なので顔を向けると目が合った。
「何があるのかなと思って…」と言われて
「あ、いや、葉っぱが…」と返すと
「あら、そうですか」と。
まあ、それだけの話ではあるけれど、見ず知らずの人と言葉を交わすのはなぜか楽しいことではある。

■東本願寺で少し休憩

そのまま鴨川を渡ると、京都駅から北に走るメインストリート烏丸通りに出る。同志社のある今出川、2連泊した宿のある烏丸御池、トイレも土産もお世話になった大丸が近い四条烏丸と、どれもみな烏丸通りにあってずいぶんなじみ深くなった。左に曲がればすぐ京都駅だけど、右斜め向かいには東本願寺が文字通りずど〜んと巨大に立ちはだかっている。せっかく近くにきたのに挨拶もせず通り過ぎるのは失礼だろ。というわけで、まずは門をくぐってご不浄をお借りして小水。それから真っ正面にある、あれは本堂なのか、に近づいていくと、寺が「上がれ」と呼んでいるような気がして、靴をレジ袋にいれて段を上り、大きな広間へと。なかでは読経の最中で、前方に10数名、喪服姿で椅子に座っているのが見える。なにかの法要なのか。順番に焼香していくなかには母親に抱かれた幼い子供もいたりする。まったくの他人が他家の法事を覗いているような不思議な空間がそこにあった。読経が終わり、椅子は片づけられ、彼らとこちらを隔てる簡易柵も取り払われ、静寂がもどってくる。こちらもすることがなくなって、立ち上がり、堂内をぐるりして、再び境内へと階段を降りていく。先ほどの法事にいた老女が、日傘を差して歩いているのが見えた。

少し座って休憩したせいか、まだ歩けそう。なんてったってまだ時間も早い。すでに京都駅は目と鼻の先だけど、時間はまだ2時過ぎ。だからといって京都タワーを覗いてみる気持ちにはさらさらならないし、タワーの裏にあるヨドバシカメラは、なにをわざわざ京都に来てまで、な感じしかない。とはいえまだすこし後ろ髪を引かれるので、時間をつぶせそうな喫茶店を探してあたりをうろうろすると、京都タワーとヨドバシカメラの間の小路に「miwaku」という、ひと目では喫茶店とは判断がつかないような店をみつけた。商業地の、忙しいサラリーマンが時間を盗んでちょいと一服、な素っ気ない店。だけど、チェーンのカフェよりよっぽど面白そう。なので入ってコーヒーとカスタードプリンを注文した。疲労回復に糖分注入。ところが、近くの客が煙草を吸い始めた。全面喫煙OK。文字通りちょいと一服の店だったようだ。少し離れてれば気にならんのだけど、長居できそうもない。なので30分ばかりで切り上げ、自然と足は京都駅へ。ちょっと、追い立てられてるような気分だよ。

■そして、新幹線の人となる

5時ぐらいまでうろうろしててもよかったんだけど、いま喫茶店を逃げ出してきたばかりなのでもうお茶はいい。別にお腹も空いていない。駅ビルも興味ない。むやみに歩いても疲れるだけだし。ああ、これで京都とお別れか。と駅構内でただずんでいたら、ピアノの生演奏。フロアに置いてある誰でもピアノで、男の人が楽しそうに弾いてた。知らない曲だった。

新幹線の切符は券売機で購入し、とりあえずトイレにむかい、個室へ。お腹の調子は悪くないんだけど、昼飯の後だからね。食べると上から押されてしたくなるのですよ、わりと。そういう体質。でも、結局、気体が出ただけだったかな、たしか。と、近くから子供の声が聞こえてくる。
「あんな、すぅ、て書いたるボタンあるやろ。それ押すねん。…漢字の後ろに、すぅ、て書いたるやろ。それ、ながす、て書いたるねん。分かるかぁ。それ押すねん」
個室の外から、まだ漢字の読めない弟にでも教えてるのかな。ちゃんとつたわってるかな。このボタンだぞ。分かるか! と、隣から念を送ってやった。

このボタンだぞ!

乗ったのは3時16分の のぞみ。帰りも2人がけの座席で、でもやっぱり富士山は見えなかった。どころか曇天で、睡魔に襲われることもなく2時間。ただ漫然と車窓を眺めながらボーッとして過ごした。からっぽの時間。いつしか名古屋、横浜も通り過ぎて、都内に入ると品川あたりの空は厚い雲に覆われていた。かすかに陽射しも見えていたけれど、明日は晴れるかな。ただいま東京。

どんより


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