京都 徘徊つれづれ 1日目 その1

■さあ出発だ、一路めざすは、まずは大阪
当日はフツーに起きて9時過ぎに東京駅に到着。電光表示板を見てホームに立つと、数分後に出る“のぞみ”が停まってる。えっと、自由席はどっちだったっけ。なんてうろうろしてるうちに、その“のぞみ”はするすると出発してしまった。くそ。駅員がわりの警備員に聞いたら前3両だという。そうか、後ろじゃねえんだ、前だったか。で、ホームの反対側を見ると次の9時30分発“のぞみ”が停車していて、こんどはスムーズに自由席へ。客席はぱらぱら埋まっている程度なので、右側2人席のテキトーなところに座った。時間が来れば音もなく列車は動いていく。いやほんと。新幹線はもう特別な乗り物じゃなくて、10〜15分おきに淡々と出発する列車になってるんだな。
こんな具合に無感動に旅はスタート。でもって最初にしたのは、途中まで見て、残りをDLしておいたネトフリ映画をスマホで見ること。でも、なんか落ち着かない。それではガイドブックで予習、という気にもなれず。なので車窓をボーッと見て過ごした。これが、不思議に飽きないのだよね。薄曇りで残念ながら富士山は見えずだったけど、富士山探しだけでも結構時間を使ったりした。
新横浜、名古屋と客は増えていくけど、隣に人が来るほどではない。まだまだ新幹線利用客はこんなもんなのかね。で、いつになったら検札が来るのかと思いきや、来ないんだね、いまは。昔みたいに白い制服の駅員がドアを開けて最敬礼し、ひとりひとりスタンプ押していくのかと思って身構えてたのに、やってこない。その代わりになのか、たまに駅員がわりの警備員が通路をさっさか通過する。ありゃ何のためなんだ? そして、たまに売店娘がやってくる。静かなもんだ。
とくに気になるような美しいお客さんも周囲におらず、しゃべりまくるうるさいグループもいない。2時間はあっという間で、京都駅をでると左手に東寺の塔をながめ、新大阪到着は12時。大阪駅への乗り換えも単純明快だった。

■まずはモディリアニのチケット、そして昼飯だあ

数10年も前のことだけど、初めて大阪駅に降りたときのこと。駅前に、丸首の下着みたいなままの恰好でふらふらするオッチャンが何人もいて、ぶつぶつ言ったり度鳴りまくってたんだよね。大阪って、その印象のまま止まってたんだよ。ところがどっこい、大阪駅から通じる地下街の様子は川崎とか横浜の地下街みたいな感じで、なんだこの垢抜けた感じは! 地域色がひとつもないじゃないか! と上から目線で文句を言いたくなるような、どこといって変哲のないオシャレな21世紀の都会だった。つまんないね。
でその地下街には、数件のチケット屋をがあることを事前にGoogleマップで調べておいた。とはいえ初めての場所なので、地図はあってもどっちがどっちやら分からんぞ! とうろついていたら運よくチケット屋の看板が目に入ってきて、大阪中之島美術館で開催中の『モディリアーニ』展のチケット、前売1600円のところを1580円で確保。当日なら1800円だからね。これは大きい。
地下街のハズレまで来て、なにやらセールスで勧誘していたお兄さんに、「中之島美術館はどっからでればいいですか?」と聞いたら、なんと「ええ? なかの、しま美術館?」と知らない様子。もう1人、なにか作業しているおっさんにも尋ねたんだけど、すかさず返事を…してくれない。なんだよ。大阪じゃ、中之島美術館は知られてないのか?
さて、地下街から地上に出ると周囲はフツーにビル街で、中之島はこっちかな、な覚束なさ。これまで2度、大阪には来たことがあるけど、いずれもかすったような立ち寄りだったので、まともに街を歩いたことがなく、大阪は不案内なのだ。しかたなく、なんとなく、引き寄せられる方にふらふらと。で見つけた飯屋の看板。でも値段が書いてない。でも法外なことはあるまい。で、看板が示す路地奥に行ってみた。

値段のないメニュー

カウンターだけの、サラリーマン御用達のような店で、みな淡々と飯をかっ込んでいる。値段は相変わらず分からんけど、妥当な線でイワシフライを頼んでみた。でもって、カウンターの下にスペースがあるならリュックのケツを突っ込もうかな、と手を差し込んだとたん、指先がふにゃりと生温かい毛皮にふれた…ではないか。げげ。な、なんなんだ。おそるおそるスマホのライトを当て覗き込んでみたら、とたんに黒いモノが音も立てずに飛び出していったではないか。まさか、食い物屋のカウンターの下に黒猫が居眠りしてるとは思わんだろ。こんなの初めて。飯はまずまず、値段は900円。当てずっぽうに入ったけど、ハズレではなかった。

■川を渡って中之島方面へ
そのまま川を渡ろうとするも、すぐには橋がない。どんどん東側に行かされて、やっと渡った先は美術館とは反対側の、島の東側。げ。でもしょうがねえ。こっち側にある建築散策を先に済ましましょうか。というわけで日本銀行大阪支店のいかつい雄姿を仰ぎ見ながら、まずは大阪市中央公会堂へ。これがなかなかのレンガ建築で、1階はオシャレなショップになっていたりもするけれど、外観は実によろしい。しかも中はフツーに自由に入れるではないか。とはいうものの、内部はなにやら工事中らしく、働く男たちがうろうろしているし、資材もあちこちにおいてあったりする。でも、とくに立入禁止と書かれてなければズンズン進んで行くのが観察者の流儀。止められたら「すいません」と謝ればいい。それだけのことだ。というわけで上へ上へと階段を登り、客席の並ぶ講堂とか、ロマネスクな天井画の書かれている大部屋とか、ふらふらよろよろ見て歩いて行った。もしかしたら本来は一般公開していないなくて、一般人は入って欲しくないエリアもあったかもしれない。たまたま工事中で仕事人が出入りしていて、それにまぎれ込んでしまって、注意されないまま見て歩いていた可能性もある。けど、まあいいや。見られりゃそれでいい。

次はお隣の府立中之島図書館。こちらはレンガ造りではないけど、なかなかのレトロ感。感染対策なのか入るところが右手半地下の非常口みたいなところからの横入りで、でるところが本来の正面玄関になっていたのが残念至極。こういう建物は正面から堂々と入るのが正攻法。なんたって今回は、図書館といえど本より建物や意匠が目的なのだからね。面白かったのはミニ展示室があって、鳥瞰図を特集していたのでそれも見させてもらった。
図書館を出て、いくつかの古風な建物の外観をちらちら横目で見ながら一路西へ。おお、よく聞く大阪フェスティバルホールはここにあるのか、なんてね。なことしていたら、前方にグレーの四角い建物が見えてきた。やっとめあての中之島美術館だ。

■というわけで到達したぞ中之島美術館

でも、建物に入っての感想は、やたらガラが大きいだけでエスカレーターに何度も乗らされ、展示室内も矩形で無味乾燥、ってところかな。ただっぴろくて空間が多くて、絵を見るにはなかなかいいんだろうけど、滋味や面白みに欠けて、場の企みが感じられない展示室だなあ。
さて、モディリアニだけど。よく画家の名前を冠して美術展が開かれ、でも、その画家の作品は数点しかない、てなことはよくある話。フェルメールなんかいい例だ。でも今回の展示では、同時代の画家とか恩師とか、そういう周辺の、何かよく分からん絵とか資料はわりと少なく抑えられていて、頭から尻尾までおおむねモディリアニになっている。タイトル負けしない展示になっていたんじゃないのかな。とはいえ全体にあっさり薄味な感じで、あまり後ろ髪ひかれず1時間ほどで2周して終了。

さて、ちょいと休憩しようか。来る途中、なんかいい感じに見えた近くのボアという喫茶店へ入る。注文したのはコーヒーとケーキセット650円。ケーキは選べるのかと思いきや、給仕の婆さんはさっさと戻ってしまい、やってきたのはチョコレートケーキだった。これに決まってるのか。まあいいけど。で、糖分を注入してリカバリー? 1時間近く滞在後、すぐ近くにある国立国際美術館というのも覗いてみることにした。およそ「国立」という名にふさわしくない感じで、既存の建物についでで入れてもらってるような雰囲気の美術館だったけれど、開催中の『コレクション2:つなぐいのち』というのを見ることにした。がらーん、な館内に人気はなく、しーん、と川の底に沈んでいる感じ。ボルタンスキーとか地味に展示してあったけど、さっと切り上げ、ふたたび大阪駅へてくてく。されど、やはり怪しいオッサンがふらついたりわめいたりもしておらず、平均的にお上品な大阪はなんか期待外れなんだよなあ。あのがさつな大阪は、もうないのね。


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