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新たなテーマで描くシリーズスピンオフ作品『SILENT HILL: The Short Message(サイレントヒル: ザ ショートメッセージ)』プレイレポート
2024年2月1日、PlayStation 5にて『SILENT HILL: The Short Message(サイレントヒル: ザ ショートメッセージ)』の無料配信が開始された。
同日7:00よりYouTubeにて放送された、SIE(Sony Interactive Entertainment)が送るPlayStation関連の情報番組「State of Play | 2.1.2024」内での発表と同時に配信されたもので、ダウンロード専用タイトルとなる。
少女の抱える心の闇と心理的恐怖を描く
『SILENT HILL: The Short Message(サイレントヒル: ザ ショートメッセージ)』は、主人公の少女アニタが自身が抱える心の闇と向かい合っていく姿を描いた、一人称視点の3Dサイコロジカルホラーゲームだ。
本作の舞台となるのは、ドイツのケッテンシュタット市にある放棄されたマンション。
絵や文字をスプレーなどを使って描くグラフィティアートの聖地と呼ばれているが、それと同時に10代の少年少女たち(ティーンエイジャー)の投身自殺が相次いでいるとされている。地域でも問題視されているが、建物の権利者不在で放置されてしまっているという曰く付きの場所だ。
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そこに、学校(日本の高校に相当する"ギムナジウム")の友人マヤに呼び出された主人公アニタは、彼女の姿を探して廃墟の中を探索していく。マヤはSNSで多くの支持を得ているグラフィティアーティスト「C.B.(Cherry Blossom)」としても活動しており、アトリエ代わりの廃墟の内部には彼女の作品も描かれている。
だが、廃墟を探索していくうちに徐々に周囲の様子がおかしくなり、現実とは思えない光景が映し出される。それと対面していくうちに、やがて、アニタは自身が目を背けようとしていた真実と向き合うことになるのだ。
ちなみに「マンション」はおそらく日本向けのローカライズ。
ドイツでは「Wohnung(ボーヌング)」だが、英語音声では単純に「ビル」または「ヴィラ(本来はリゾート地の戸建ての宿泊施設を指す)」と喋っていて、スタート直後の部屋にある模型にも「Villa」とプレートが貼られている。
…だと言うのに、作中のテキストにも何度か「ヴィラ」というワードが並行して登場しているのは表記揺れのような…?
探索パートとクリーチャーからの逃走劇
本作のゲームシステムは、大きく分けて「廃墟の探索パート」と「クリーチャーの追跡から逃げるパート(チェイスパート)」の2つで構成されている。
それぞれのパートが交互に独立しているのは嬉しいところで、クリーチャーから身を隠しながら情報やアイテムを探す作品もあるが、落ち着いてじっくりと探索したい筆者のようなプレイヤーにとっては歓迎したい。
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探索パートでは、一定範囲内に置かれた情報(メモや読み物)や、それを読んだことをトリガとして発生する、実写映像を含むイベントシーンを目にすることでストーリーが進行する。
探索範囲は比較的狭く、目にすべき情報はアイコンで分かるようになっていてリニアに進行するので、まず迷うようなことはないはずだ。
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一方で、チェイスパートは少し厄介。
サイレントヒルと言えば「裏世界(Another World)」。悪夢が現実になったかのような、血と錆に覆われた様相が特徴だが、本作でもそんな世界でクリーチャーに追われることになる。
主人公にはクリーチャーと戦う力はないので、とにかく終点まで逃げ切ればそのパートは終了となる。ただし、裏世界は似たような光景が続き、言わば"お化け屋敷の迷路"のようなものでとかく迷いやすい。
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何度かこのチェイスパートが発生することになるが、回を追うごとに徐々にその難易度は高くなる。ネタバレに配慮して詳細は伏せさせてもらうが、空間認識やルートの把握が苦手な方には結構厳しめ。
ただし、難易度設定は用意されていないが、もしやられてもペナルティはないので…ぜひ折れることなく逃げ切ってほしい。
本作が描いているもの
本作で中心的に描かれているのは、主人公アニタが抱える心の闇だ。
そして、それと同時にティーンエイジャーが抱えるコンプレックス、希死念慮、児童虐待(ネグレクト)、いじめ、近親者からの性被害、望まぬ妊娠、トラウマといったセンシティブなテーマがふんだんに盛り込まれている。
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実際、ゲーム内で何度も何度も警告文が表示されるほどだ。同様のテーマを扱った作品でも冒頭に一度表示する程度が一般的だが、今作ではなんと3回も表示される。
作中の年代設定は2021年頃を描いているので、現代に潜む社会問題をテーマに盛り込んだのだろう。ただし、そのすべてがアニタにかかわるわけではなく、問題提起的に通り過ぎていくだけで、あくまで彼女の問題に焦点が当たっている。
個々の問題は解決できても、社会に根付く問題すべてを根本的には解決できはしない…ということを突きつけられているかのようだ。
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本作はサイレントヒルなのか?
コナミデジタルエンタテインメントからは、現在までに4つの『SILENT HILL(サイレントヒル)』シリーズ関連作品を制作中であることが発表されているが、今作『SILENT HILL: The Short Message(サイレントヒル: ザ ショートメッセージ)』は、いずれにも該当しないサプライズ的な新作となる。
シリーズ関連作品としてその名を冠しているがナンバリングタイトルではなく、実際、ゲームシステムや内容的には「スピンオフ」という立ち位置がしっくりくる印象だ。
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同シリーズの象徴である「霧」で建物の周囲が覆われていたり、過去作品の『SILENT HILL4 THE ROOM(サイレントヒル4 ザ・ルーム)』へのオマージュらしき"ある象徴的なオブジェクト"が登場したりもするが――
今作ではクリーチャーと出会っても、対抗したり、撃退したりすることができない。最終的に主人公アニタは自身の闇を見つめていくことになるが、これまでのシリーズ作品の主人公たちは自らの力で(どちらかと言うと直接物理的に)立ち向かおうとしていた。
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アニタもまたある意味で立ち向かうことになるが、どうも趣きが異なる。作品を否定するつもりがないことは先にお伝えしておくが「これはサイレントヒルなのだろうか? その精神性は引き継がれているのか?」という疑問符がよぎる。そういう意味での「スピンオフ」だ。
約2時間程度でクリアでき、分岐やマルチエンディングもない。1つのストーリーをちゃんと描き切っている、ナラティブなショートホラー作品として良作だと筆者は感じる。
ぜひ、ご自身でもどう感じるかを体験してほしい。
今回、シリーズ共通の三人称視点から、全編を通しての一人称視点としたのは、かつて『SILENT HILL(サイレントヒル)』シリーズの最新作となるはずだった『P.T.』へのオマージュとも見て取れる。
また、ナンバリングながら同様に視点変更という大きな転換を見せて成功した『バイオハザード 7(およびそれ以降)』も彷彿とさせ、それも少なからず意識しているのではないかと思うところだ。
違和感を感じるポイント
ゲーム内で友人マヤが登場するイベントシーン(カットシーン)のみ、3Dレンダリングではなく、実写映像で収録されている。彼女という存在をプレイヤーに印象付ける上で重要なシーンであり、それは上手く作用していると言えるだろう。
――ただ、実写映像で彼女を演じている阪口喜叶氏は、口の動きから日本語を喋って収録したようなのだが(作中では日系人という設定)、それがゲームでは英語音声に吹き替えられている。
舞台設定的に本来はドイツ語で会話している方が自然だが、そこまで言い出すとさすがにややこしくなるので、それは置いておこう。
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それが、要するにリップシンクがとれておらず、どうにも視覚情報としてズレていると感じて没入感が削がれてしまうのだ。
例えば、洋画の英日吹き替えではそういった違和感をなくすよう、声優の力量やセリフ量の調整といった技術面でカバーされているものだが、日英吹き替えでは難しいのだろうか?
レンダリングされたキャラクターには違和感がないからこそ、余計に気になってしまうのかもしれない。
制作チームインタビュー(ネタバレあり)
余談だが、コナミデジタルエンタテインメントの制作チームのインタビュー映像がネタバレありでYouTubeにて公開されているので、プレイヤーとしての感想と、答え合わせをする気持ちでクリア後にでもご覧になってみてはいかがだろうか。
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