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なぜ「レジ前のお菓子」を買ってしまうのか?企業のカモにならないための“行動経済学の超基本”

「レジ前」に置いてあるちょっとしたお菓子をつい買ってしまう。「10%割引」と「10%ポイント還元」なら後者を選ぶ。こんな経験はないだろうか。

 これらはいずれも、「心理的バイアス」に誘導された不合理な消費行動だと考えられている。厄介なのは、こうした不合理な判断は人の脳に刷り込まれていて無意識のうちに下されているため、理性だけではくつがえせない、ということだ。これを正すには、不合理な判断の「パターン」を知る必要がある。

 値上げラッシュが続く中、あの手この手の期末セールで「カモ」にならないために、『今さら聞けない 行動経済学の超基本』(橋本之克著、朝日新聞出版)で「パターン」を学びたい。

橋本之克著『今さら聞けない 行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)
橋本之克著『今さら聞けない 行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)

 まず「レジ前」問題から解き明かそう。

 お金に関する感情は、金額の大きさで決まるとは限らない。例えば、来年の世帯年収が500万円だと決まったときの感情は、今年の世帯年収との比較で決まる。今年が300万円ならば「うれしい」、今年が700万円ならば「悲しい」と感じるだろう。ここでの「今年の年収」のような判断の基準を「参照点」と呼ぶ。そして、参照点から損得が離れれば離れるほど、感情の変化は小さくなる傾向がありる。

 例えば、100円のチョコレートだけを買う場合、「参照点」は0円。スーパーなどで3000円分の買い物を済ませて会計を待つ間に、レジ前に置いてある100円のチョコレートを買う場合、「参照点」は3000円だ。3000円の後の100円は、0円からの100円よりも出費(=損)が小さく感じられ、つい手が伸びてしまうのだ。

 5000万円で家を買った後は50万円のテーブルを安いと感じるし、300万円の結婚式のオプションで風船を飛ばすセレモニーが5万円なら、それも安いと感じるだろう。無意識のうちに決まってしまう「参照点」に影響されるからだ。「つい買っちゃった」を避けるには、最初の買い物をリセットしてから、追加の買い物について冷静に考えること重要だ。

 次に「10%割引」より「10%ポイント還元」を選んでしまう心理について。

「10%割引」と「10%ポイント還元」はどちらが得かと聞かれたら、同じ10%だから同じだけ得、と答える人は少なくないだろう。だが実際は、「割引」のほうが「ポイント還元」よりも得。10万円のバッグを10%割引で買う場合。支払うお金は9万円で、割引率は、

(10万円-9万円)÷10万円=10%

 となる。一方、10万円のバッグを購入して10%のポイントを受け取る場合、ポイントを含めた11万円分の商品を10万円を支払って購入することになるので、割引率は、

(11万円-10万円)÷11万円=約9.1%

 となる。それにもかかわらず、ポイントをためるのが好きだという人は多く、いつ使おうかと楽しみにしながら、使わずにため続ける人もいる。

 ポイントはアプリのデータやカードなどの形で顧客の手元に残り、自分のものになると実際以上に価値が高いと思い込む「保有効果」が働く。顧客はこれを大事にし、ポイントをためること自体を楽しむようになる。時間が経つほどに満足が拡大することを好む「上昇選好」が働くからだ。逆に、ポイントを使うことに対しては、手元のポイントを減らす行為として「損失回避」が働き、ポイントのために発行元のショップで買い続けることになる。「ポイント還元」は、顧客との関係を長く続けるための、売り手にとって便利なしくみなのだ。

 経済学と聞くと身構える人は少なくないが、なかでも行動経済学は、個人の経済的な活動をよりよくしてくれる学問。いまこそ、1円でも損しない「賢い消費者」への第一歩を踏み出したい。

(構成:生活・文化編集部 上原千穂)


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