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なぜか好かれる人が「おはようございます」の後に“ちょい足し”する言葉とは

 コミュニケーションで悩む人にぜひ試してほしいのが、「ちょい足しことば」です。TBSアナウンサーとして活躍後、アナウンサーや有名企業などの重役から新入社員まで、さまざまなビジネスの現場でコミュニケーション法を伝授してきた今井登茂子さんが提案するのは、「いつも使っていることばに、ひとこと足すだけ」というシンプルな方法。著書『さりげなく品と気づかいが伝わる ちょい足しことば帳』(朝日新聞出版)でも紹介した簡単な「ちょい足しことば」とその効果を、本書から一部を抜粋・改編してお届けします。
(タイトル写真:Choreograph / iStock / Getty Images Plus)

今井登茂子『さりげなく品と気づかいが伝わる ちょい足しことば帳』(朝日新聞出版)
今井登茂子『さりげなく品と気づかいが伝わる ちょい足しことば帳』(朝日新聞出版)

■知ってるのに、実は使えていない

 突然ですが、「ちょい足し」と聞いて、あなたは何を思い出されたでしょうか。

 テレビ番組などでよく見かけるカップラーメンやコンビニエンスストアで手に入る食品などに、何かをちょっと加えるだけで俄然おいしくなる「ちょい足しレシピ」を連想される方が多いかもしれません。

 簡単で手間がかからないけれど、意外な効果がある。そんな場合に使われています。

 私が提案する「ちょい足しことば」も、まさにそんなひとことです。

 たとえば、こんなふうに使います。

【いつでもどうぞ】
Aさん:この資料、もう一度見て、またわからなければ聞いてもいいでしょうか。
Bさん:はい、かまいません。

 というところを、

Bさん:はい、かまいません。いつでもどうぞ。

 いかがですか? 「いつでもどうぞ」をちょい足しするだけで、相手の心理のハードルが下がる感じがしませんか?

【でも、うれしいです】
Aさん:これから清水さんと飲みに行くけど、藤井さんもどう?
Bさん:まだ仕事が残っていて……、すみません。

 というところを

Bさん:まだ仕事が残っていて……、すみません。でも、うれしいです。

 こちらも「でも、うれしいです」をちょい足しするだけで、相手に与える印象がガラリと変わります。

 もしかしたら「こんなこと?」と感じられるかもしれませんが、実は、多くの方が普段使いできていないのです。こんなに簡単で、効果絶大なのに!

■自信のない私に心理学者が言ったこと

 ここで、少し自己紹介をさせてください。

 私はTBSテレビにアナウンサーとして入社、その後独立してフリーランスで活動したのちに、コミュニケーション塾を開き、アナウンサーや企業の経営者層にアドバイスをしたり、社会人になりたての方々に研修を行ったりしながら、60年以上ことばの世界に身を置いてきました。

なぜアナウンサーを目指したかといえば、女性として独立できる仕事に就きたかったからです。

そうして話す仕事を選んだものの、就職してからも難なくコミュニケーションをしている同僚に焦りを感じていました。辞めようと思ったことも一度ではありません。

 あるとき、インタビュー番組が終わって出演者にお疲れさまでしたのあいさつをしたところ、その高名な心理学者に言われました。

「こんなことをしていたら、ダメになっちゃうよ」。

 言い方は優しくてお父さんみたいでしたが、心にピシリと刺さりました。

 かえりみれば、そのときの私はコミュニケーションの取り方や会話に自信を失っていて、どう考えたらよいのか迷いに迷っていました。

 その原因のひとつに、当時はまだ女性のアナウンサーはメインのニュースを読ませてもらえなかったということがあります。男女ペアの司会では脇役にまわり、ニコニコ笑顔であいづちを打っていればよいという時代でした。

 でも私は黙っていられなくて、意見を言ってしまい、せっかくのオーディションをふいにしたり、降板の憂き目に遭ったりしていたのです。そんな日々でしたので、このインタビュー番組でも、つい不安になり、予定台本通り無難にこなしました。

 やはり、そこは心理学者。私のなかに自分の意見があることも見抜き、あえてはっきりとことばにして教えてくれたのだと、何十年もたった今でも忘れられない思い出です。

今井登茂子さん(写真:著者提供)

■「第二のあいさつ」との出会い

「もう一度がんばってみよう」と思えたとき、周りの人達の会話に耳をすませるようにしたところ、あることに気が付いたのです。

 皆から好かれている人は、ただ決まり文句の「おはよう」や「お久しぶり」だけでなく、必ずひとこと「風邪治った?」「資料作るの大変だったでしょう」と相手に寄り添う「自分のことば」を掛けていることに。

 心優しい関心を持ってくれた相手に好感を抱くという心理は誰しも同じはず。

「なるほど、これだったのか!」と、こうしたことばを「第二のあいさつ」と名付けて実践してみたのです。

「おはようございます」の後に、たとえば「きのうは、最終バスに間に合いました?」というふうに、あなたのことを覚えていますよ、関心を持っていますよ、心を寄せていますよ、ということが伝わる心配りのひとことをつけ加えてみると、相手は心ひらいて「それがね」と話し始めるのです。

 これを試しているうちに、少しずつ周りが変わってくるのが実によくわかりました。向こうから声さえ掛けてくれるではありませんか。

 そうか、自分を受け入れてもらいたかったら、まず相手の立場に立ってみなければ。そう気づかされ、この必死の試みはコミュニケーションの土台ともいうべき貴重な収穫となったのです。

■あなたのこころづかいが相手に伝わる

 ここ数年、コミュニケーションのかたちが変わってきています。新しい発見も、もちろんあるでしょう。でも、私の実感としては、特にこの間に社会人になった方々、そんな若者たちを迎え入れた職場の人たちには、戸惑っている人が増えました。

 会話は、常に「とっさ」です。だからこそ無意識に心のなかを見せてしまっています。

 ただ、そうした自分の会話スタイル(癖)を客観視することは簡単ではありません。私が主宰するコミュニケーション塾で、生徒の方々に自分が話しているところを動画で撮って見てもらうと、ほぼ9割の人が「自分はもっとましだと思っていた」とガッカリしています。

「ちょい足しことば」は、そんなとっさの場面で思わず出てくるあなたの会話スタイルを磨き、コミュニケーションの「品」を高める強力な武器となってくれます。

 ことばづかいは、こころづかい。そして、こころづかいこそ品なのです。

 あなたの中にあるこころづかいをそのままにしないでください。

 飲み込んでしまわず、この「ちょい足しことば」で相手に届けてください。

 あなたの思いやりがこもったひとことは、無理なく相手の話を引き出すだけでなく、あなた自身の意見や言いにくいことも、やわらかく伝えることができます。

 ちょい足しのひとことは、きっとあなたを助け、コミュニケーションの輪をひろげてくれると信じています。

(構成/三宅智佳)