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バレたらクビ?退職金は没収?労災申請は?退職日に注意? 現役社労士が教える副業トラブル回避術

 副業とは本業以外の仕事全般のこと。形態はさまざまで、個人事業主などの自営業から、パートタイマーや派遣、在宅での内職、投資などが一般的だ。近年は、本業に支障が出ない範囲で副業を認める会社も多い。

 とはいえ、正社員や契約社員の副業を就業規則で禁じている企業や団体も少なくないし、副業は人によって働き方が違うため、何かトラブルが起こったときにどう対応していいか分からず、1人で抱え込んでしまうケースも散見される。『読めば得する 働く人のもらえるお金と手続き 実例150』(朝日新聞出版)の著者で現役の社会保険労務士・蓑田真吾さんに、これから副業を始めたいと考えている人や、すでに副業をしている人から多く寄せられる6つの質問に答えてもらった。

蓑田真吾著『読めば得する 働く人のもらえるお金と手続き 実例150』(朝日新聞出版)
蓑田真吾著『読めば得する 働く人のもらえるお金と手続き 実例150』(朝日新聞出版)

【質問1】

 副業禁止の会社に勤めています。法律上、どこまでならOKですか?

【蓑田社労士】

 副業をすることは、法律では禁止されていません。まずは本業先の就業規則を確認してみましょう。

 一般的な就業規則では、明確に書いていない場合でも、次の4つの理由にあてはまる場合を禁止としている会社が多い。ライバル企業での副業や深夜の時間帯に行われる副業、長時間に及び本業の仕事がおろそかになるような副業が想定されている。

(1)営業秘密が漏れる場合
(2)本業での業務に支障がある場合
(3)副業先が競合他社の場合
(4)本業先の信頼関係が損なわれる場合

 副業先でも雇用される、という場合は、求人票で見ておくべきポイントがある。労働条件の中でもとても重要であるはずの「賃金等」の部分が「応相談」となっている会社は要注意。最低賃金を下回っているということはなかったとしても、「どんぶり勘定」の可能性があるので、入社を決める前に面接や電話で確認したほうがいい。


【質問2】

 会社に副業がバレてしまうのは、どんなときですか?

【蓑田社労士】

 住民税の額が変わり、かつ、会社の給料から天引きされているときは発覚してしまいます。

 住民税の徴収には2つのパターンがある。会社の給料から天引きして会社が納付する「特別徴収」と、会社を経由せず個人で納付する「普通徴収」だ。「特別徴収」の場合は、副業収入分を確定申告した後に住民税の額が変わると会社に通知され、そこで発覚することがある。

「普通徴収」の場合は個人に通知が来るので、会社に知られることはない。ただ、副業がパートやアルバイトなどの給与所得の場合は特別徴収になるし、自治体によっては、副業収入分から生じる住民税の払い漏れを防ぐために、普通徴収にできないところもある。


【質問3】

 副業禁止の会社で、副業が知られてしまいました。就業規則には「懲戒解雇」と書いてあり、その場合、退職金も没収されるようです。どうにもならないでしょうか?

【蓑田社労士】

 懲戒解雇や退職金の没収は現実的ではないと思われます。

 ルール違反に対する懲罰が科せられることは、もちろんあり得る。しかし、最も重い懲罰である「懲戒解雇」は現実的とは言えないだろう。懲戒解雇にする場合、会社は、副業の影響で自社にどの程度の損害が生じたのかを示す必要があるが、これはかなり大変だからだ。

 過去の裁判例から、退職金は、これまで継続して働いてくれた「功績」と「賃金の後払い」という2つの顔を持っていると考えられている。よって、退職金に関しても、一部減額されるということはあり得るが、「没収」となるとほぼ無理だろう。仮に会社が没収を強行したとしても、法的な争いに発展すれば没収は無効となる可能性が高い。


【質問4】

 本業先から副業先に出勤する途中で事故に遭いました。労災保険は使えますか? 使える場合、どちらの会社に申し出ればよいですか?

【蓑田社労士】

 使えます。副業先に申し出ましょう。

 本業先から副業先に向かう途中であれば、副業先に申し出て、副業先の労災保険を使う。なぜなら「副業先で働くために移動」していたからだ。ただしこの場合、副業先とは雇用契約でなければならない。

 2020年9月に法改正があり、労災保険として給付額を算定する際には本業先と副業先の賃金を合わせて計算されることになった。以前よりも給付される額は多くなるはずだ。ただ、不幸中の幸いで軽傷で済み、診察のみであとは経過観察となった場合、受診時の自己負担がないなど、単に「お財布からお金が出ていかない」というかたちの給付で終わる場合もある。


【質問5】

 副業先に転職します。採用日が11月1日に決まったので、本業の職場と退職日のすり合わせをしています。10月30日での退職はどうかと聞かれたのですが、末日退職ではない場合に気をつけることはありますか?

【蓑田社労士】

 社会保険料の支払いに影響します。空白期間に気をつけましょう。

 社会保険は、月末時点でどの制度に加入しているかで判断されるため、月末の1日の違いはとても大きい。末日である「10月31日」に在籍していなければ、会社はあなたの10月分の社会保険料を支払う必要がない。「空白の1日」に関しては、市区町村の窓口であなた自身が手続きをして、国民健康保険と国民年金に加入し、10月分を支払うことになる。これまでは、保険料の半額を会社が支払ってくれていたが、もちろん全額、あなたの負担だ。

 空白期間があるにも関わらず放置していると、年金が少なくなったり、たまたまその日に具合が悪くなっても保険証が使えなかったりするので、要注意だ。


【質問6】

 副業先を退職することになりました。本業先では引き続き働きますが、失業保険はもらえますか?

【蓑田社労士】

 失業状態とはいえませんので、失業保険はもらえません。ただ、65歳以上の場合、もらえることがあります。

 たとえ副業先を退職しても、本業先では働いているので、失業保険の対象にはならない。ただ、65歳以上の人であれば、本業先と副業先の一方だけを辞めた場合でも、失業保険の対象となるケースがある。2022年1月から「マルチジョブホルダー制度」という新しい制度が導入されたためだ。

 該当するのは、以下の条件に当てはまる人だ。

(1)複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
(2)2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
(3)2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること

 この3点に該当する場合は、居住地を管轄するハローワークで手続きをすると雇用保険の被保険者となる。被保険者として6カ月以上経っていれば、退職時に一時金として高年齢求職者給付金をもらうことができる。

(構成:生活・文化編集部 上原千穂)


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