チャンス大城が「おまえ、ターミネーターか!」と突っ込まれながら裸でタバコ屋の隙間に隠れた後に、警察に護衛されながら帰還した笑撃の実話
地下芸人暮らしは楽しいこと面白いことの連続のように思っている人も多いかもしれません。たしかに何の責任もない気楽な生活ですが、食っていくのは厳しいです。
いつか売れるという保証もなく、マネジメントしてくれる事務所もない。そういう不安や不満を紛らわすために、どうしてもお酒の量がふえてしまっていました。
家を追い出された僕がしばらく居候させてもらっていた俳優の中井良ちゃんも、酒を飲むと妙なことをやりたがる癖がありました。
居候を卒業して、再びアパートで独り暮らしを始めた頃のことです。
良ちゃんと飲んでいたら、なぜか服を全部脱がされてしまったのです。全部って、正真正銘の全部。パンツまで脱がされたのです。
しかも良ちゃんは、ズボンのポケットに入っていた財布から携帯から部屋の鍵から一切合切を、服と一緒にどこかに持ち去ってしまったのです。
もちろん、良ちゃん自身もどこかに消えてしまいました。
つまり、僕は全裸で町に放り出されてしまったわけですが、これには本当に困りました。
なぜなら、当時僕が住んでいたアパートは、1階がいつも喧嘩ばかりしている夫婦がやっている定食屋で、2階が風呂なし共同便所の貸し部屋になっていたのですが、定食屋の入り口の横にある内付け階段にドアがついていて、そのドアの鍵を開けなければ2階に上がれない造りになっていたからです。
良ちゃんは、その階段のドアの鍵も持っていってしまったので、全裸にされた居酒屋からなんとかアパートの前まで帰ってくることはできたものの、内付け階段の中に身を隠すことすらできなかったのです。
仕方がないので、とりあえずアパートと隣のタバコ屋の隙間に入って、状況が好転するのを待つことにしました。
しばらくすると、大学生らしい若者4人のグループが歩いてくるのが見えました。彼らもきっと酒を飲んでいたのでしょう。ご機嫌で大声を上げています。
「どうしょう?」
一瞬迷いましたが、やるしかありません。
僕は両手でちんちんを隠しながら、道路に躍り出ました。
「すみません、服貸してもらえませんか?」
4人組は、
「わっ」
と声をあげました。
「決して怪しい者ではありません。パンツとTシャツだけ、ちょっと貸してもらえませんか?」
「おまえ、ターミネーターか!」
ひとりがそう叫ぶと、4人はダッシュで逃げていってしまいました。
再び隙間に戻って対策を考えましたが、ぼやぼやしていると夜が明けてサラリーマンたちが出勤する時間になってしまいます。その前に、なんとかして不動産屋まで行って合鍵を借りないと、僕は間違いなく警察に通報されて留置場に入れられてしまうことになるでしょう。
「どないしょう?」
必死で考えていると、アパートのはす向かいに電気屋があるのを思い出したのです。電気屋の前には、毎日、テレビや冷蔵庫が入っていた大きな段ボール箱が出してありました。早朝に業者が取りにきますが、深夜ならまだあるはずです。
「あの段ボール箱もらって、乳首と股間だけ隠れる服作ろう。そうすれば、全裸ということにはならんやろう」
再びちんちんを手で隠しながら電気屋の前まで走ると、大きな冷蔵庫の段ボール箱が1個だけ出してありました。
「これや!」
冷蔵庫の段ボール箱は、中に入っても十分に隠れることのできる大きさです。しかも取っ手がついているので、そこを持てば段ボール箱ごと移動することができそうです。
早速、折りたたまれていた段ボールを元の状態に戻すと、中に潜り込みました。取っ手を握ってみて、当たり前ですが、前が見えないことに気がつきました。
「窓を開けないかん」
僕は段ボールの中に直立して取っ手を握ると、目の位置に合わせて小さな穴を開けました。段ボール服の完成です。
そうこうしているうちに、出勤する人たちの靴音で段ボール箱の外側が騒がしくなってきました。もうじき、不動産屋さんも開店の準備を始めることでしょう。良ちゃんに靴も脱がされてしまったので、僕はアスファルトの道路の上をちょっとずつ移動しながら、不動産屋さんを目指しました。
「すみませーん!」
ようやく不動産屋さんにたどりついて大声で呼ぶと、いつも気さくな店員さんが黒いジャケットを羽織って店から出てきました。
「なんだこれ」
「オオシロです。そこのアパートの」
「えっ、ええ?」
店員さんが、目の穴から段ボール箱の中を覗き込んできました。
「裸じゃないですか。オオシロさん、いったい何してるんですか」
「飲んでたら服脱がされてしまったんで、電気屋さんの段ボール箱かぶって、やっとここまできたんです。とにかく合鍵貸してください」
「この後、お客さんを2組案内する予定があるんで、付き添いはできませんよ」
不動産屋さんはそう言うと、段ボール箱の中に合鍵を放り込んでくれたのです。
その瞬間、僕は、
「勝った!」
と思いました。
知恵と勇気とアイデアで、この難局を乗り越えることができたと思ったのです。
不動産屋さんの前から自分のアパートの前に戻るべく、僕は意気揚々と段ボール箱ごと移動を開始しました。
ところがわずか数メートル移動したところで、誰かが段ボール箱をノックする音が聞こえました。
「ゴンゴン、もしもーし、ゴンゴン、もしもーし」
のぞき穴から周囲を伺うと、自転車に乗ったふたりの若い警察官が視界に入りました。
「もしもし、どうされました?」
「いや、あの、僕は裸じゃないんです。この段ボール箱が服なんです」
警察官が段ボールの内部を覗いてきました。
「なんだ、またオオシロさんですか」
実は、お酒を飲み過ぎて地元の警察のお世話になったことが、それまでにも何度かあったのです。
事情を説明すると、警察車両(自転車)が前に1台、後ろに1台ついてくれて、アパートの前まで護衛してくれることになりました。まるでアメリカ大統領付きのSPが付いてくれているような気分です。
アパートの内付け階段の前まで来ると、警察官のひとりが合鍵で階段入り口のドアを開けてくれました。そして、階段の方に向けてぐーっと段ボール箱を傾けました。
「入って」
こうすれば、全裸の僕の姿を通行人から隠すことができると警察官は考えたのだと思います。しかし、僕が考えたのはまったく別のことでした。
「すみませんけど、この状況を携帯で撮影してもらえませんか?」
以前、「職務質問」というトークライブをやったことがあるので、ここで本物の警察官と写真を撮っておけば、「職務質問・第2弾」をやるときのチラシに使えると思ったのです。
「調子に乗るな!」
ふたりの警察官から、むちゃくちゃ怒られてしまいました。