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「おかえりなさい」に“ちょい足し”するだけで相手が気持ちよく話せる魔法の言葉

 コミュニケーションに悩みがある人にぜひ試してもらいたいのが、「ちょい足しことば」です。TBSアナウンサーとして活躍後、アナウンサーや有名企業などの重役から新入社員まで、さまざまなビジネスの現場でコミュニケーション法を伝授してきた今井登茂子さんの著書『さりげなく品と気づかいが伝わる ちょい足しことば帳』(朝日新聞出版)から、シンプルな基本のあいさつに“ちょい足し”するだけで相手への気づかいが伝わり、さらに気持ちよく話してもらえる言葉を特別に紹介します。
(タイトル写真:Choreograph / iStock / Getty Images Plus)

今井登茂子『さりげなく品と気づかいが伝わる ちょい足しことば帳』(朝日新聞出版)
今井登茂子『さりげなく品と気づかいが伝わる ちょい足しことば帳』(朝日新聞出版)

■相手の「今」にピッタリくる気づかいを

「おはようございます」「おかえりなさい」など、シンプルな基本のあいさつの後に“ちょい足し”する言葉を、私は「第二のあいさつ」と呼んでいます。自分が今いちばん感じていることを相手が察してくれると、一気に緊張がほぐれるもの。第二のあいさつとは、相手の立場に立った、ちょっとした「問いかけ」です。

 社会人になりたてのころ、どうすれば人とうまく話せるのかな、友だちができるのかなと深く悩んだとき、なぜか周りに人が集まってくる人たちを観察して、気づいた法則です。

 第二のあいさつは相手の状況に限りなく寄り添い、自分の話よりもまず相手を優先してかけるひとこと。すると、相手は心を開き「それを聞いてほしかったんだ!」と、気持ちよい会話がスタートします。

 たとえば、こんなふうに。

Aさん:東京本社から出張で参りました平岡です。
Bさん:長旅、お疲れさまでした。
  ↓
Bさん:長旅、お疲れさまでした。飛行機は揺れませんでしたか?

 この例文は、以前、私が海外出張に行ったときのエピソードです。行きの飛行機がそれはそれは揺れて、疲労困憊こんぱいの状態で先方に着きました。そのとき、迎えにきてくれた現地の方が、「今井さん、お疲れさまでした」と言ったあと、「飛行機は揺れませんでしたか?」と聞いてくれたのです。

 私は、あまりにひどい揺れのせいで蕁麻疹じんましんまで出ていたのですが、そのひとことで「ああ、この人は察してくれたんだ」とホッとし、疲れもやわらぎました。

「電車は混んでいませんでしたか?」「ひどい雨ですが、大丈夫でしたか?」「立ちっぱなしでしたけれど、脚は痛くないですか?」など、自分の状況を想像して気づかってくれるひとことはホッとすると同時に、相手を好きになります。

 初対面ならなおさらお互いの距離がぐんと近くなり、好感の出発点となるでしょう。

■今しゃべりたいことをしゃべれるように

 会話は、まず聞くことからとはよく言いますが、相手が話したいことを気持ちよく話せるようにする言葉がけは聞き上手の極意です。次は、相手が気持ちよく話せる“問いかけ”のちょい足しことばを紹介します。

Aさん:ただいま戻りました!
Bさん:おかえりなさい。
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Bさん:おかえりなさい。どうだった?

 営業先から帰ってきた同僚に、このひとことをちょい足ししてみてください。すると相手は、「もうー、大変だったよ!」「ばっちり! 思い切って訪問してみてよかった!」というふうに、そこから出先であったことについて話をはじめやすくなります。

「どうだった?」(丁寧語にすると「どうでしたか?」)というひとことで「あなたを気にかけていました」「うまくいくように願っていたよ!」など、さまざまな想いが伝わって、あなたが話を聞いてくれる“開いた”状態だとわかるからです。

 相手が話したいのではないか、口に出すのを遠慮しているかもしれないと想像できたときは、こちらから水を向けてみます。なんでもない雑談であっても、相手の気持ちに思いを馳せるこんな質問は、関係性を一歩進める大切なコミュニケーションの一つです。

 私が仕事から疲れて帰宅すると、夫は毎日「お帰り。どうだった?」と聞いてくれました。こう聞かれると、「それがね、聞いて!」と話が止まらなくなるもの。

「どうだった?」の裏には、「お疲れさま」を超えるスペシャルなねぎらいも含まれるのです。

著者の今井登茂子さん(写真:著者提供)

■会話を弾ませる救世主

 自分のこと、自分が手掛けたことなどに関心を持ってくれている、というのは、うれしいものです。そして、関心を持ってくれている人に、話を聞いてほしくなりますよね。相手のそんな気持ちにフィットするのが、こんなちょい足しことばです。

Aさん:これ、先週行った湖で撮影したんです。
Bさん:きれいな写真ですね。
  ↓
Bさん:きれいな写真ですね。どうやって撮ったのですか?

 こんなふうに、相手が話し始めやすいような簡単な問いかけをしてみてはいかがでしょう?

 私が主宰する朗読の会で、会員のひとりががんばって素敵な会報誌を作ってくれました。受け取ったみんなが「ありがとう!」「すてき!」とシンプルな感嘆のことばを伝えるなか、「いやあ、すばらしい出来ですよね。この写真はどうやって並べたのですか?」と具体的な質問をした人がいました。すると、作った人は「あっ、気がついてくれましたか? これは……」と饒舌になり、生き生きと説明しはじめました。

 苦労したこと、がんばったこと、手をかけてやったことなどを自分からアピールするのは、ちょっと気が引けますよね。でも、誰かが気がついてくれたら、とてもうれしい。

「これだけ集めるとなると、どれぐらい時間かかったの?」「レイアウトも全部あなたが手がけたのですか?」などインタビューしてみましょう。

 あまり考えすぎずに、純粋に気になったことや、驚いたり感動したことについて聞いてみればよいのです。きっと「そうそう、そこを話したかった!」と話が弾みますよ。

■忙しいかどうかを聞きたいわけではなく

 最後に、ちょっとしたあいさつ代わりのひとこととして、よく耳にすることばで、とくに、ビジネスの場面では、「こんにちは」と同じような頻度で使われている、こんな「ちょい足しことば」を復習しましょう。

Aさん:Bさんとお目にかかるのは半年ぶりでしょうか。
Bさん:はい、お久しぶりです。
  ↓
Bさん:はい、お久しぶりです。最近はお忙しいですか?

 これは、ことばの意味通りに忙しいかどうかをたずねているわけではなくて、「最近はどうですか?」と相手が近況を話すきっかけをつくったり、いつも忙しい人には働きすぎて疲れていないかな、経済状況が激しく変動しているけれど仕事はうまくいっているのかな、などという気づかいをさりげなく伝えることばです。

「いかがおすごしですか」「お変わりありませんか」のビジネス版と考えてもよいでしょう。さらに、自分から「忙しい」と言うことを良しとしない風潮もあるため、こちらから聞くことで、忙しい人が「忙しい」と言いやすくなります。

 このちょい足しことばは、相手が言いたいことを口にしやすい投げかけになります。そして、そこをきっかけとして、話を聞いてあげることもできるでしょう。

(構成/三宅智佳)


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