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宇宙望遠鏡が教えてくれる「地球はどのように生まれたのか」「宇宙はなぜ誕生したのか」「私たちはどこから来たのか」

 1960年代以降、人類は100機以上の宇宙望遠鏡を打ち上げてきた。そしていま現在も20機以上の観測機が軌道上にあり、宇宙の謎を解き明かすデータを日々大量に送り続けている。
 そもそも、なぜ望遠鏡を宇宙に打ち上げなければならないのか? それによって私たちは何を知ろうとしているのか? 国立天文台の縣秀彦監修、鈴木喜生著『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』(朝日新聞出版)から、そのヒントを紹介したい。

縣秀彦監修/鈴木喜生著『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』(朝日新聞出版)
縣秀彦監修/鈴木喜生著『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』(朝日新聞出版)

 私たちが星を観ようとするとき、それは夜に限られる。夜であっても天候が悪く、雲があれば見ることができない。また、揺らぐ大気によって星は瞬くため、望遠鏡を使用しても星の姿を鮮明に観測することは難しい。こうした制約から逃れる唯一の方法が、宇宙に望遠鏡を設置することだ。宇宙空間であればつねに星が観測でき、同じ光度で輝き続けるため、精度の高い観測が可能になる。

ESA(欧州宇宙機関)が1999年に打ち上げたX線観測衛星「XMMニュートン」 (c)ESA - A. Van der Geest

 宇宙から天体を観測するもうひとつの理由として挙げられるのは、「電磁波の性質」の活用だ。

 電磁波とは、医療機器にも使用される「ガンマ線」や「X線」、私たちの肌を痛める「紫外線」、ヒトが目で見ることができる「可視光線」、テレビのリモコンにも使用される「赤外線」、テレビやラジオに使用される「電波」に大別される。そして星々は、私たちが目視できる可視光線だけでなく、じつにさまざまな「光」や「電波」を発していて、これらを幅広く観測することで、その星の実体をより正確に知ることができるのだ。

 では、それぞれの電磁波は何が違うのか。「波長の長さ」だ。

地上に届く電磁波はごく一部。その多くは大気に吸収され、地上には届かない (c)NASA, STScI

 上のイラストを見ると、波長の短いガンマ線がいちばん左に描かれ、右にいくほど波長が長くなる。そして、宇宙から降り注ぐこれらの電磁波のうち、地上に到達しているのは主に「可視光線」と「電波」だけだ(マイクロ波は電波の一種)。つまり、それ以外のガンマ線やX線、紫外線、赤外線の大部分は、大気に吸収されて地上に届かず、地上からは十分に観測できない。

 地上にも大型望遠鏡は数多くあるが、それらは「可視光線」を観測するための望遠鏡、または「電波望遠鏡」がほとんどだ。例外は、「近赤外線」。可視光線に近接する波長を持つ「近赤外線」は、可視光線に対して開かれた「大気の窓」をギリギリにかすめて地上に届く。そのため近赤外線を観測する望遠鏡も地上に建設されている。

 天文観測において、もうひとつ面白い法則がある。星が放つ光や電波などの電磁波を観測すれば、その星がどんな成分で出来ているのかがわかるのだ。

 ヒトの目に見える可視光線は、プリズムを通すと7色に分解できる。これを「分光」という。また、分光された光が虹のようにズラリと並んだものを「スペクトル」という。スペクトルが並ぶ順番はつねに決まっていて、その色の違いは、すなわち波長の違いを意味する。

プリズムに太陽光を当てるとスペクトルが表れる。この色の違いは波長の違いを意味する (c)NASA, ESA, Leah Hustak (STScI)

 ここで重要なのは、可視光線が虹のように分光できるのと同じように、ガンマ線、X線、紫外線、赤外線、電波もスペクトルに分解できるという点だ。

 宇宙望遠鏡に搭載された主鏡は、星が発する光(電磁波)をレンズで集める。その光を「分光器」(スペクトロメータ)で波長ごとに分解し、そのデータを地上局に送る。こうした一連の作業が、宇宙望遠鏡に課せられた主な役割だ。望遠鏡や分光器の仕組みは電磁波の種類によって異なるため、多くの機体においては「X線観測機」や「赤外線宇宙望遠鏡」など、特定の光を観測する専用機として開発されることが多い。

 天文観測においてこの分光が重要なのは、何万光年も離れた星が発した電磁波を分光することにより、その天体を形成する物質の種類、量、比率のほか、天体の表面温度などが把握できる点にある。また、地球から遠ざかる星は赤く、近づく星は青く見えるため、その光の波長を調べることで、星の運動さえ分析することができる。

 前述の国立天文台・縣氏監修の『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』では、これらを詳細に解説しているが、ここでは簡単に、星の成分について紹介したい。

タテに白く見える線(輝線)のパターンによって、天体の構成元素を知ることができる (c)NASA, ESA and the Hubble SM4 ERO Team

 上のイラストは、ハッブルがとらえた「イータカリーナ星雲」のスペクトルを表したものだ。タテに白く見える線は「輝線」(きせん)と呼ばれ、とくに強い波長を示している。この輝線は、特定の物質によって生まれる。つまり、何万光年も離れた星が放った光を、分光器を通してスペクトルに分解し、どの波長が強く、どんな組み合わせで表れるかを調べれば、その星の構成元素を知ることができるのだ。このイータカリーナ星雲のスペクトルからは、Fe(鉄)やNi(ニッケル)が検出されていることがわかる。

 138億年前にビッグバンが発生したが、その際に生まれた元素は、水素(H)とヘリウム(He)と、ほんのわずかなリチウム(Li)とベリリウム(Be)などだけ。つまり、「水兵リーベ」の冒頭に並ぶ軽い元素だけだ。しかし、私たちの身体は、主に酸素(O)、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、カルシウム(Ca)などからなり、微量元素としては鉄(Fe)、フッ素(F)、ケイ素(Si)なども含まれる。こうした多様な元素は、どこで生まれたのか?

 ビッグバンで生まれた水素やヘリウムは、ガスやチリとなって宇宙を漂っていた。やがてそれらは重力によって集積し、その結果、星が生まれた。その内部では核融合反応がはじまり、水素からヘリウムが合成され、ヘリウムからは炭素が合成され、さらに炭素は酸素、そしてケイ素などへと変容し、最後は鉄(Fe)が生成されていった。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮像したイータカリーナ星雲。「宇宙の絶壁」と呼ばれるこの領域は、若い星が形成される星雲「NGC 3324」の端に位置する (c)NASA, ESA, CSA, STScI

 その星が寿命を迎えて爆発すると、それら元素は拡散して宇宙を漂い、やがてその元素を材料にして、また新たな星が生まれる。こうした宇宙の営みが繰り返される間に、やがて生命が誕生した。つまり、私たちの身体は、かつてどこかに存在した恒星の内部で生成された元素でできているといえる。

 宇宙望遠鏡がはじめて打ち上げられた1960年代以降、新たな星や天文現象が、急速な勢いで次々と発見されてきた。しかし、それは単なる天体の発見に留まらない。歴代の宇宙望遠鏡の観測から得られたデータを詳細に分析することによって、私たちはいま、「地球はどのように生まれたのか」「宇宙はなぜ誕生したのか」「私たちはどこから来たのか」ということさえ、知ろうとしているのだ。

(ライター・鈴木喜生/生活・文化編集部)