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勉強も仕事も落第生、親の会社で火事を…落ちこぼれだったニトリ・似鳥昭雄会長を救った「成功の5原則」

「お、ねだん以上。ニトリ」というCMでおなじみのニトリホールディングスの業績が、コロナ禍でも絶好調を維持している。なにがニトリを成功に導いたのだろうか。2016年に『ニトリ 成功の5原則』(朝日新聞出版)を出版したニトリホールディングス会長・似鳥昭雄さんに、その秘密を聞いた。(※インタビューは2016年当時のものです)

──子供のころは勉強が苦手で、お母さんにうそをつかれたそうですね

 私は本当に勉強が苦手で、それで親を泣かせていました。成績表は5段階中の1と2ばかり。それで母に「成績っていうのは、1が一番よくて、その次が2なんだ」とうそを言ったら、母がそれを信じ込んでしまい、ご近所に「昭雄は勉強ができる。成績表は1と2ばっかりだ」と言いふらしていました。みんな、悪いと思ったのか何年間も本当のことを母に言わなかったのですが、あるときとうとう、「実は5が一番よくて、1が最低なんですよ」と言った人が出ました。母は「そんなはずはない!」と信じずに、学校の先生のところに行って問いただしたのです。そうしたら、「5が一番いいのだ」とわかりました。母は「親をだました」と泣いて怒り、私は叱られて、たたかれました。母が怒ったのは私の成績が悪かったからではなく、私がうそをついたからでした。

──落ちこぼれだった似鳥さんが、ニトリを創業するに至るには、何があったのでしょうか?

 学生のときは落第生で、サラリーマンをやっていたときにも営業成績は最低。そこもクビになって、一度はこき使われるのが嫌で逃げ出した父の会社に戻っても、火事を起こしてやめることになり、他にやることがなくなって、お金を借りて始めたのが、ニトリです。30坪の店で、1階が家具売場、2階が私の住居という個人商店でした。1967年、私が23歳のときです。けれども全然売上が上がらず、赤字続きでした。

――しかし、2003年には、株式会社ニトリとして「100店舗、売上高1000億円、利益100億円」を達成します。

 2016年2月期の連結決算は、売上高4581億円、経常利益750億円。株式の時価総額は2016年7月6日に1兆5599億円に達し、年間売上8兆円のイオンの時価総額(1兆4247億円)を追い抜きました。おかげさまで20年以上もニトリに勤めている古い社員の人たちは、持っていた会社の株が値上がりして、みんな億万長者になっています。

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――落ちこぼれのいじめられっ子だった似鳥さんが、どうしてこれほど大きな成功を収められたのでしょうか?

 こうして振り返ると、若いころと今のあまりの落差の大きさに、自分でも「夢みたいだ」と驚いてしまいます。そんな私が事業を興して成功できたのは、「ロマン」と「ビジョン」があったからです。

──それは、ニトリが掲げる「成功の5原則」の最初の二つですね?

 そうです。私は「ロマン」「ビジョン」「意欲」「執念」「好奇心」を「成功の5原則」と呼び、ニトリの社員たちにもこの5つが大事だと繰り返し言っています。

 ロマンとは、「人のため、世のために、人生をかけて貢献したい」という気持ち。いわば、大志です。私は子どものころもサラリーマンになってからも、ずっとろくなことがありませんでしたが、今思うとそれは私が人生の目的を何も持たずに、行き当たりばったりのその日暮らしをしていたからなのです。

 そんな私の考えが根本から切り替わったのが、1972年、27歳のときです。経営がうまくいかず、借金を抱え、うつ状態になって死ぬことばかり考えていた私が、わらにもすがる思いで参加した、家具業界関係者によるアメリカへの視察旅行で、私は変わりました。

――アメリカのどういった部分が似鳥さんを変えたのでしょうか?

 アメリカのほうが所得が高いうえに、物価ははるかに安く、品質も機能も日本以上でした。しかも、家具を含めた内装が、トータルコーディネートされていたのです。日本では今でもそうですが、「家の内装を全体として美しく見えるようにコーディネートする」という考えがありません。私はそれまで売上や利益のことで頭がいっぱいでしたが、アメリカに行ってからは「日本人たちの暮らしを、アメリカのようにしたい」と考えるようになりました。「アメリカ人にできて、日本人にできないはずはない。自分の仕事を通じて、日本にもアメリカのような豊かさを広げていこう」。アメリカで受けた感動が、私の人生観を変えたのです。

――もう一つのビジョンとは、具体的にどういったことでしょうか?

 ビジョンとは、ロマンを実現するための中長期計画で、具体的な数字が入っていなくてはなりません。しかもしれは、達成不可能とも思えるほど大きな数字である必要があります。

「アメリカで家具を安く、しかも全体としてコーディネートできているのは、小売店の力が強いからだ」と思った私は、とにかく店の数を増やすことに決めました。そこで、これから30年で達成すべき目標を立てました。これが、2003年に達成した「100店舗、売上高1000億円、利益100億円」です。そして、次の30年計画として掲げているのは、「2032年 3000店舗 売上高3兆円へ」です。

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──売上高3兆円ですか! 簡単ではなさそうですね。

 2016年2月期が売上高4581億円でしたから、その6倍以上です。たしかに、簡単に実現できる数字ではありません。だからこそ、「成功の5原則」の残りの三つ、「意欲」「執念」「好奇心」が重要になるのです。

――似鳥さんのお話を伺っていると、落ちこぼれだったことを忘れてしまいそうです。

 ロマンとビジョンを持つようになったおかげで、「このままではダメだ。やらなきゃならないんだ」と思って、いろいろなことを勉強しました。そうするうちに記憶力の悪い私でも、なんとか経営のやり方を覚えて、会社を動かせるようになっていきました。

 もしロマンとビジョンがなければ、何も考えず、行き当たりばったりで人生が終わっていたでしょう。人間は本来、人のため、世のために生まれてくるのです。だから「世の中の役に立つ人になろう」と志さなければいけないし、そう志すことで人生が開けてくるのです。若いうちにそうなれれば理想ですが、50歳、60歳になってからでも間に合います。

(写真撮影:東川哲也)


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