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「1日100円」「1カ月3000円」保険に入るならどっち? 買い手の判断を惑わす「フレーミング効果」とは

 人は物事を全方位から把握するのではなく、一つの枠を通して見るかのように一面的な見方をするのが普通だ。同じ対象でも見え方が変われば異なる受け取り方をし、判断が変わることもある。この心理的バイアスが、「フレーミング効果」だ。

 フレーミングは英語の「枠(フレーム)」に由来する。厄介なのは、判断は見え方(フレーム)に左右されているのに、自分ではなかなか、それを意識できないことだ。コップ半分のジュースを「半分も残っている」と思うのか「半分しかない」と思うのか、という例はよく引き合いに出されるが、この「フレーミング効果」を用いれば、売りたい商品の印象を変えることは容易にできる。売り手が仕掛けた「フレーミング効果」に引っ掛からないように、『今さら聞けない 行動経済学の超基本』(橋本之克著、朝日新聞出版)で学んでおきたい。

橋本之克著『今さら聞けない 行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)
橋本之克著『今さら聞けない 行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)

 例えば、商品が安いことを伝えたい場合、商品の量が多いと思わせたい場合などには、売り手の意図が強く伝わるよう「フレーミング効果」が働く表現を使う。例えば、「1カ月3000円の保険」と「1日当たり100円の保険」は同じ額の支払いだが、後者のほうが安い印象を与える。「3000円もあったらおいしいランチを食べたほうがいい!」「100円くらいなら、コンビニで無駄遣いをやめれば払える」などと思う人もいるだろう。

 二重サッシのリフォームによる断熱効果を訴える場合なら、冷暖房費が「1カ月で1250円の節約になる」「1年間で1万5000円の節約になる」と言われるよりも、「10年間で15万円の節約になる」と言われたほうが得だと感じる人が多いはずだ。「タウリン1000mg 配合」の栄養ドリンクと「タウリン1g配合」のそれは、タウリンの量は同じだが、前者のほうが効き目がありそう。「1000」という数字で印象はかなり変わる。

 数字だけではない。「閉店在庫処分セール」と「バーゲンセール」では、安くなる理由が明確な前者のほうが選ばれやすい。この「フレーミング効果」には、「理由に基づく選択」という心理も関係している。

「フレーミング効果」は消費行動以外でも人々の選択に影響を与えている。

 同じ手術について、「死亡率10%」と伝えた場合と「生存率90%」と伝えた場合では、後者のほうが手術を受ける人が増える。「満足度90%のサービス」と言われれば、良質なサービスだという印象を受けて利用してみようかと前向きにとらえるかもしれないが、「10人に1人は不満を抱くサービス」と言い換えると評価は一気に下がり、利用する意欲は失われてしまう。同様に、「お給料の2割を貯金して」と言われると無理だと思うかもしれないが、「お給料の8割で生活して」と言われれば、できそうな気がして貯蓄への意欲がわくはずだ。

 同じ現象にも裏と表があり、どちらを認識するかで判断は変わる。何かを選択するときは、「フレーミング効果」に気を付けて。

(構成:生活・文化編集部 上原千穂/タイトル画像:nicoletaionescu / iStock / Getty Images Plus)