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【感想】『暴太郎戦隊ドンブラザーズVSゼンカイジャー』混ざらない水と油、されど噛み合う2つの歯車

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本記事にはVシネクスト『暴太郎戦隊ドンブラザーズVSゼンカイジャー』のネタバレが含まれます。

 良い作品だった。まずはそれを言いたい。
 自分は『機界戦隊ゼンカイジャー』が大好きだ。辛かった地獄のような日々を、明るく笑わせながら支えてくれた。
 自分は『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』が大好きだ。起伏が無くて退屈な日々を、刺激だらけの物語で彩ってくれた。
 両作品とも、連綿と続くスーパー戦隊シリーズにおいてはかなり独特の色が強い異色作だ。型に嵌らず、お約束に囚われず、スーパー戦隊という概念において無限の可能性を示してくれた。それでいて、2つの作品は全く別の方向へと駆け抜けていった。商業的な部分では明確な繋がりを持たせておきながらも、物語の側面では完全に独立した”良さ”をそれぞれが持っている。
 だから、この両作品は”水と油”であり決して混ざり合わない。混ざらないが、この2つの作品が連続する作品で本当に良かったと思った。『機界戦隊ゼンカイジャー』の次回作は『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』でなければならなかったし、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の前作は『機界戦隊ゼンカイジャー』でなければならなかった。自分がこの両作品が大好きで贔屓目に見ているのは自覚しているが、本当に強くそう思っている。そして、このVシネマ作品を観た時に「この気持ちはやはり間違っていなかった」と思った。ありがとう。

機界戦隊ゼンカイジャー「カシワモチの逆襲!!」

 まず思ったことは、「懐かしい」だった。ゼンカイジャーのわちゃわちゃ感が相変わらずで本当に嬉しかった。
 1年間『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』を観続けて、体感としては2年間ぐらい観ていたような心地の良い徒労感があった。ドンブラザーズの濃密で刺激的な物語にゼンカイジャーロスを感じる暇もなく振り回され続けた1年間だったため、旧来の友に出会ったかのような安心感をゼンカイジャーの皆に抱きました。ドンブラのコメディチックでありながらも不穏で苛烈な物語が全身に回っていた身体には、ゼンカイの全力全開コメディな物語は一種の清涼剤のような爽快感があった。

 カシワモチワルド、実は全然思い入れ無いんですよね、自分は。何故ならゼンカイジャーにハマり始めたのが中盤からだったから。序盤の頃の評判は知らなかったし、後追いで視聴を始めた時もカシワモチ回含め普通に一人で楽しんだだけでした。なので、インターネットでのウケ具合と擦られっぷりに驚いたのを今でも覚えている。公式でネタを擦るのがあまり好きではないオタクだけど、幸いにもあまりにも思い入れが無さすぎて特に嫌な感情を抱くことはありませんでした。本編中で擦っていないのもデカいと思うけど。
 とはいえ、つい柏餅が食べたくなってしまう魔力があるのは間違いなく……。短い時間ながらも強烈なインパクトを魅せながら散っていった魅力あるキャラクターでした。合掌。
 前作Vシネ『ゼンキラセンパイ』からの繋がりがあったのも意外で、嬉しいサプライズだった。ドクターイオカルの残党であるカシワモチワルドは勿論、ポットデウスも元気にしているカットが挟まれていて良かった。いや、ていうか本当にたったワンカットとはいえポットデウスを出してくれるのマジで嬉しすぎるな……台詞で語るでもなく、逆に触れない訳でもなく、さり気なくそっと映すの粋すぎると思います……。キャラクターの扱いが丁寧で、本当にそういうところが大好きだ、ゼンカイジャー。

 キャラクターの扱いといえば、ゾックスの扱い方が本当に凄かった。カシワモチワルドの凄さと、ゾックスの「根は悪人だけどヒーローをやっている」という性質が合わさって誰の格も落ちていない展開。追加戦士が割とシャレにならないレベルで(おそらく全国規模で)世界を支配しているのに、誰にもヘイトが向かずにむしろ笑えるのはゼンカイジャーの作風と積み重ねの勝利ですね。
 たまたまかもしれないけれど、後のドンブラザーズパートでも追加戦士である桃谷ジロウが半分ぐらい敵対してるみたいな関係性だったことを思うと良い作風の対比になっているなと思いました。あちらはジロウにヘイトが向いてしまうような話運びになっていることも含めて。勿論、それがドンブラの面白さにも繋がっているんだけれど。
 閑話休題。ゼンカイジャー本編でも一歩間違えればワルドによる侵略が完了してしまっていたんだろうなというのを改めて実感した。特に「ゼンカイジャーたちが敵ワルドの能力によってピンチ」→「上空からゾックスが降りてきて助けてくれる」という展開が多かったからこそ。
 本作品のラストで「ごめんなさい」が出来るゾックスも良かったですね……本当に五色田介人のことが好きだなコイツ……。

 本編では見れず終いだった「味方側として戦うハカイザー」が見れたのも嬉しい。いや、ゼンカイジャーパートではカシワモチワルドに洗脳されて敵対してたけども。
 ”五色田功のハカイザー”とステイシーザーの戦いが見れるのも、思わず感極まりそうだった。全然そんな雰囲気じゃなかったけど。父VS子の構図なハカイザーとゼンカイザーの対面も全く悲壮感無かったし。それどころか、ゼンカイザーの変身失敗はクスっとしてしまいました。自動で追尾とかしてくれないんですね、変身エフェクト……。

 闇カシワモチのバカバカしさだったり、誰もつまみ食いをせずルールを守る妙に民度の高い民衆だったり、”ゼンカイジャーらしさ”を真正面からシンプルに描いてくれたなと思いました。本当にありがとう。
 あっという間に放送当時の気持ちを思い出したし、やっぱりゼンカイジャーの一員に入りたいぐらい大好きだなと思った。メモリアルエディションのギアトリンガー、一生大切にしようと改めて思いました……。

 物語が佳境に入る中、勢いがそのままに場面転換するのにビックリしました。なるほど、そこで区切るんだ。

暴太郎戦隊ドンブラザーズ「ドンブラザーズ解散!」

 シロクマ宅配便、ではなく……。シロウサギ宅配便の制服に身を包んだ桃井タロウが荷物を運ぶ。ああ、本編からの地続きだ……と噛み締めながら物語に集中し始めました。
 とはいえ、怒涛の勢いでタロウは記憶を取り戻す。この展開の濃密さがドンブラらしくて、あっという間にドンブラザーズを観るための脳にスイッチが切り替わった感覚があった。「尚、このラーメンは自動的に消滅する……」のところで完全に切り替わった。ゼンカイジャーと同じくギャグ要素は強いけれど、ゼンカイジャーとは全く違う色のギャグなのが凄い。

 ゼンカイジャーから地続きで観ているのに、同じ顔なのに、「ゼンカイジャーの五色田介人」とは違う「マスター五色田介人」が”全く別のキャラクター”として認識できるのが……本当に凄くて……。駒木根葵汰さんの演技力と、ドンブラザーズでの1年間の描写の積み重ねを感じた。
 というか、『VSゼンカイ』だから配慮しようなんて気持ちは一切感じられなくて、マスターの出番が減るどころか本編と遜色ない出番なのが嬉しかった。大人の事情なんて感じずに「ドンブラザーズの世界で物語が動いている」という感覚になれるのが本当に良い。むしろ、冒頭から出番があるのは挑戦状ですらあるように感じる。誰への挑戦状なのかは知りませんが……。

 記憶を取り戻した桃井タロウがかつてのメンバーに会いに行く。感動的なあの最終回からは考えられないぐらい、なんとも歯切れの悪い再開でしたね……。
 あの頃好きだったドンブラザーズのメンバーはもうおらず、皆がどこか変わってしまっていたのはめちゃくちゃ寂しかったです。それがどうしようもなくリアルで、仕方ないのことだと分かった上で。寂しさはいつか時間が癒すし、新たな生活はいずれ日常になる。どころか、もっと上を目指してしまう。鬼頭はるか達がドンブラザーズを辞めたいと願うのも、なんとなく気持ちが分かってしまう。桃井タロウが居ないドンブラザーズなら尚更のこと。

 桃谷ジロウ、闇ジロウと統合したので成長したように見せかけて全く成長していなかった。本編の描写とは少し矛盾してしまうのかもしれないけれど、仕方のないことだよなとも思う。
 彼は『暴次郎戦隊ドラゴンファイヤーズ』の主人公であり、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の主人公ではない。だからドンブラザーズの仲間と噛み合わないのも当然だと思う。彼が本編と噛み合っていたのはあくまで桃井タロウとだけであって、それは「前作主人公との絡み」だからギリギリ成り立っていたんだろうなと改めて……。
 視聴者からヘイトを向けられてしまいそうな役割と言動だったことも踏まえて、つい同情してしまう。でもラストでルミちゃん似の看護師さんと出会えて幸せそうだったので彼は案外平気かもしれない。メンタルが強い。いつか彼が三蔵法師モチーフと河童モチーフと豚モチーフの仲間に恵まれることを祈っています。

 ドンモモタロウはまさしく”首領”だった。ドンブラザーズを辞めた仲間を守るために孤軍奮闘する姿はまさしくヒーローでした。
 思い返せば、本編でもドンモモタロウだけが強くて、ドンモモタロウだけがヒトツ鬼とやり合えている描写の期間が長かったなと感じる。序盤のドンモモタロウはお供を必要とせず、ロボ戦ですらたった独りで敵を圧倒していた。だから、その頃と何も変わらないはずなのに、以前に戻っただけのはずなのに、たった独りでヒトツ鬼に向かっていくドンモモタロウがあんなに寂しく見えたのは何故だろう。不安で胸がいっぱいになってしまったのは何故だろう。
 桃井タロウにとって鬼頭はるか達がかけがえのない存在になっていたように、ドンモモタロウにとってもオニシスター達がかけがえのない存在になっていたことを実感した。序盤も序盤、一桁台ぐらいの話で「オニシスターとサルブラザーだけがヒトツ鬼と戦っていても全く勝てる気がしないな」と思っていたのを思い出す。正直、序盤はドンモモタロウが一強すぎて他のメンバーには戦闘面で期待できていませんでした。そんな状態でも面白くて魅力的なキャラクターになっていたのはそれはそれで凄いんですが。
「自分の人生を生きろ」とたった独りで立ち向かうドンモモタロウ、本当に良かったな……。たった独りにドンブラザーズを背負わせた結果死んでしまうんですけど……。
 本編で散々ギャグ描写で死んできた桃井タロウが、同じような構図で取り返しのつかない形で死んでしまうという悲壮感。桃井タロウのお誕生会で嬉しそうに「脈が無い」と確認していた雉野つよしが、同じく「脈が無い」と確認するの、辛すぎるなと思いました……。対比にキレがありすぎる。

 本作全編を通して、ソノイの描写が良すぎた。本編とはまた違った形で桃井タロウとソノイの関係性が描かれていて、これは「脚本:井上敏樹」でしか作れないよなと……。
 タロウとソノイは表裏一体であり、太陽と月であることがよく分かった。タロウ汁を返すことで桃井タロウを蘇生させる(し、それは蘇ったソノイの命を返却することを意味する)展開には唸りました。「そうだよな、命は1つであって都合良く両者が生き残ることなんて出来ないよな……」とソノイの最期にも納得した。そもそも本編でタロウが死なないままソノイを生き返らせていることについては、まあ置いておいて。
 タロウがソノイのおでんを食べて「美味い!」と顔を綻ばせるの、じんわりと暖かい気持ちになった。直前の犬塚翼のケーキに顔をしかめていたのも含めて、本当に「やりたいことをやっている」のはソノイだけだったんだなと……。というか、「桃井タロウが食べ物を褒める」に文脈が乗るの、改めて描写の積み重ねって凄すぎる。1年間追い続けてきたからこそ、タロウの「美味い」の価値が分かる。

 忍者おじさんこと大野稔が健在だったのも嬉しかったし、ヒトツ鬼が発生することに対するドラマの尺を極限まで削るならこの男しかいないよな、という納得がある。だけど、決して投げやりな訳ではなくてしっかりとお母さんとのドラマもある。丁寧。
「母ちゃん、ごめん……!」という断末魔で爪痕を遺していった忍者おじさん、今作でも母親とのドラマにフォーカスされていて良かった。なんだかんだで家族仲は良いの微笑ましいですね。
 機界鬼になる前に王様鬼だったの、「同じヒトツ鬼になるのアリなんだ……」って思った。無限コンテニューできますね。来年の『キングオージャーVSドンブラザーズ』でも出るんだろうなぁ。作られたらの話ですが。世界観が違いすぎて作られない可能性も普通にある。

「戦隊の”VS”は”ビクトリースーパー”」

 満を持しての合流パート。ゼンカイジャー側には並行世界間ゲート、ドンブラザーズ側にはドンブラスターによる召喚と、異なる世界が合流するのに矛盾が生じない設定があって便利だよな~と思っていたのに、まさかのシームレスに合流した。いつもの採石場に行ったらなんか居たパターン。そんなことある?
 冒頭で駄菓子屋カラフルと喫茶どんぶらがオーバーラップする意味深なカットまで挿入されたのに!? まさかあのカットが遊び心以上の意味を持たないだなんて……。とはいえ、ゼンカイジャーの世界とドンブラザーズの世界でそれぞれ同じ座標に存在しているんだろうなぁとは思う。そのことにきっと意味は無いんだろうけれど。

「ほう、お前らが新しいお供たちか!」
「うん!お友達!スーパー戦隊はみ~んなお友達だよ!」

※台詞はうろ覚え

 こんなに良いやりとりがありますか? この場面だけでもう、本当に観て良かったなと……。
 ドンモモタロウにこういう風に接することができるのは、きっと五色田介人だからこそなのだろう。ハチャメチャに暴れ野郎なドンブラザーズも、当たり前かのように”スーパー戦隊”の一員として迎え入れられた瞬間。この時、タロウは一体どんな気持ちになったんだろう。戦隊屈指の異色作でもあるドンブラザーズがこうやって歴史に組み込まれていく場面を観れるのは、純粋に感動した。
 一足先に先輩と邂逅した、TTFCスピンオフでの『ハリケンジャーwithドンブラザーズ』でのやり取りを想起する。

「気に入った、お前たち。やはり俺のお供にしてやる」

『忍風戦隊ハリケンジャーwithドンブラザーズ』より

 ドンモモタロウはあくまで「お供かそうでないか」で判断してしまう。それ以外の関係の築き方を知ってこなかったから。勿論、この言葉はタロウなりの最上級の褒め言葉なんだと思う。だけどそれは決して対等な関係ではない。
 五色田介人にとってドンモモタロウは「ワハハの人」であり、既に既知の仲だ。もっと言えば、数多のスーパー戦隊の世界が存在することを知っている介人からすれば、間違いなく「自分たちと同じ世界のために戦う対等な戦士」でもある。だから、お友達。スーパー戦隊全員をひっくるめて。
 本当に、桃井タロウと肩を並べる主人公が五色田介人で良かった。彼でなければ、こんな一瞬で打ち解けることは難しかったと思うから。

 マスター五色田介人の正体については、本編の「トゥルーヒーロー」「ただ者ではない」で納得(?)していたので、本作でも無事に正体が明かされずにホッとしました。蛇足のような設定を付け足されなくて本当に良かった。
 それと、マスター五色田介人があっての『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』だと思っているので「特に説明もなく出番がない」という形で逃げられなかったのも嬉しかった。『機界戦隊ゼンカイジャー』の五色田介人とは独立してマスターが存在しているのが本当に嬉しくて……。
 本編と同じく主役を喰わないぐらいの活躍だったのが、まさしくトゥルーヒーローでフォーエバーヒーローな立ち回りだった。ゼンカイジャー側からすると介人と同じ顔だわギアトリンガーを持っているわで「何者だコイツ」状態だろうけども……。双子じゃないのは確か。
 いきなり新アイテムを出してきても違和感が一切無いのもナイス配役ですね。前作の『ゼンキラセンパイ』でもだったけど、新アイテムを出す理由付けが上手すぎる。いや、理由なんてないぽっと出だけどさ今作は……。でも「喫茶どんぶらに無いものは無い」から……。

「戦隊のVSはビクトリースーパー」って台詞も良かった。最後には共闘するのがお約束だしね。この概念って今作で初出なんですか? だとしたら凄すぎる後付け……。
 冷静に考えるとメタ視点も含まれた台詞なんだけれど、まあマスター程の人が言うなら……ってなる。というか、マスターは絶対に自分が番組『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』の出演者という自覚があると思う。

 いつものパターンながら(概ね)同色の戦士たちのやり取りも安定の面白さ。ここで雉野つよしの「歴代初の男性ピンク」の要素に初めて感慨深くなったりしました。いつもだと女性同士でのやり取りだった場面が男女でのやり取りになっているの、さり気ないけど歴史が変わった瞬間であり快挙だと思う。政治的意義がどうこうなんて言うつもりは全く無いし、見出してもいないけど、「これから可能性はどんどん広がっていくんだ」とは感じた。

 それぞれのエピローグで和やかに終わると思いきや、ソノイの最期という特大の爆弾を落として終わっていきましたね。ハッピーエンドとは言い難いけれど、ドンブラザーズの物語はまだ終わっていない。ここで完結ではないので、なんとか気持ちは保てています。きっと、いつか描かれる”続き”でてんやわんやになるんだろう。
 続編で雑に復活してもいいし、実は寝てましたオチだったことにしてもいいし、そのまま亡くなったままウェットに進行してもいい。ドンブラザーズという作風の幅広さを実感する。多分どんな展開になっても許される。いつかドンブラザーズのみんなに再会できることを願っています。
 というか、踏切の音で声がかき消される演出も含めて”芸術”すぎるよ一連のシーン……。ドンブラザーズと井上敏樹脚本のこういうところが大好き……。

 本当に、観て良かったし作ってくれてありがとうと言いたい。
『機界戦隊ゼンカイジャー』も『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』も自分の中でとびきり大切な作品になりました。そしてその2つが混ざらないまま、されど噛み合いながらこれからも物語は続いていく。正反対だけど、共通点のある2つの物語が。

 円盤が届くのも楽しみです。特典付きを予約したので早くドンゼンカイブレードを振り回して遊びたい。

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