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「質実剛健」愛車遍歴(四輪編)その3

フローリアンという車をご存知だろうか?今ではトラックのCMで有名な、あのいすゞ自動車が生産していたステーションワゴンのモデル名だ。昔のいすゞ自動車は117クーペやベレット等、個性的かつハイセンスな車をいくつかリリースしていて、日産やトヨタの大手メジャーな乗用車に飽き足らない車好きにとっては打ってつけのメーカーだった。フローリアンもその中の一台で、スタイリングデザインは117クーペと同じくイタリアのカロッツェリア・ギアが担当している。

そのいすゞフローリアンが(あの幽霊事件で)フォルクスワーゲン・ゴルフを手放した後、僕が2台目の愛車として選んだ車だ。選んだと言うよりも経済的な理由においての数少ない選択肢の中では、その車が比較的マシで妥当に思えたと言わざるを得ないのが正直なところなのだが。なぜなら本当はゴルフに乗りたかったしローンも丸々残っていたから。当時のいすゞ自動車は他メーカーに比べて異彩を放つようなポジションにあって、よく言えば通好みだけれど、一般的にはあまり人気がないのが現実だ。そのため中古市場では安価で取引されていた。つまり侘しいふところ事情をかかえた僕でもなんとか手が届いたわけだ。それから決定的だったのは、知り合いのつてで訪れた中古車屋の店主の言葉だ。彼は"フローリアンがいかに頑丈か"ということを猛烈にアピールした。冷静に考えてみればこれはセールスマンの常套句なのだろうが、車のトラブルに辟易していた僕とっては説得力のある接客だった。

ゴルフのおかげで車は壊れるものだという観念を植え付けられた僕にとって、フローリアンは質実剛健そのものだった。故障しない車がこれほど快適だとは。荷物も沢山積めるし、2リッターのディーゼルエンジンは多少騒がしいものの、トルクフルで力強く燃費も優秀だ。フォルムだってその頃人気が出始めていたボルボ240エステートに似てなくもなく、逆にこっちはカロッツェリア・ギアのイタロデザインである。良い車じゃないか。フローリアンではトラブルの心配から解放されて海へ山へといろんな場所に出掛けることができた。荷室の窓ガラスにイギリス国旗のステッカーを貼りThe Smithの歌詞のワンフレーズをカッティングシートでレタリングして、今で言うところのステッカーチューンを施したのも懐かしい思い出だ。不満などあるはずもない。

しかし心の底のどこかで、今ひとつ愛着を持てずにいたのは、やはり初代ゴルフへの強い思いがあったからだろう。僕は明らかにその思いを引きずっていた。車への感情は恋愛に似ているというのをどこかで聞いた気がするが本当かもしれない。ごめんな、フローリアン。愛してあげられなくて。でも楽しかったよ。

その後しばらくして、ゴルフへの忘れられない思いを断ち切ってくれたのがMINIである。

つづく...

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