コスプレポリス
瀬戸雄三は63歳、白バイ勤務でブイブイ言わせて多くの違犯者を挙げてきた。憎まれ役を5年もやった。全国白バイ大会で2位の実績がある。
その後交番勤務をやったが、出世したくて勉強し試験を受けてそれなりに出世し、なんと警察学校の教官となり、遂には校長になった。
定年退職し警備会社に1年勤めたが物足りなく今のポリスまがいの交番の補助業務に付いた。
多くの教え子を育て、警察内部では有名人である。ノンキャリではあるが、稀に警察幹部になった者もいる。それが瀬戸雄三である。
現警視総監である飯田は雄三が教官時代の教え子である。
(注 ノンキャリとは、キャリアじゃない、つまり上級公務員ではない一般公務員。)
春の暖かい日差しでのどかな交番の電話が鳴った。
若い巡査の友田が受話器を取った。
「もしもし、片野交番 友田です。え、飯田さんですか、どちらの飯田さんですか」
「え、警視総監の飯田さんって、悪ふざけは止めてください」
雄三が遮えぎった。
「友田くん、ちょっと代わって」
「もしもし瀬戸です。お久しぶりです。お元気ですか」
「いや、ちょっと私的な相談なんだよ、君じゃなければとてもじゃないが言えない相談だよ・・・」
「なんなりとおっしゃってください。学校時代は飲み交わした仲ですよ」
「いや、学校時代はお世話になりました。鼻っ柱をおられもしたがね、ハハハ。それは自分の良い経験になって今の自分は瀬戸先生のお陰ですよ」
「いや、お互い良い経験でした。今日は何かあるんでしょう。昔のように遠慮無く言ってください」
「そうだね、実は言いにくいんだが、私の息子も警察官なのはご承知だと思うが、
その息子がだね、君のおる交番の女性巡査をとある内部セミナーで見初めてしまい、なんせ硬派で運動部ばかりのせいで女性には声もかけられん男なんだよ。思い詰めている様子で聞き出したら片野交番勤務の女性巡査に思い詰めていると白状したんだ。君がそこにいるのは聞いていたから電話したんだよ」
「なるほど、吉田君はこの交番勤務の売れっ子巡査ですが、仕方ないですね女優並みの美人さんですから、彼女はこの商店街でも一番の美人だと有名です。用も無いのに若いのから爺さんまでが暇つぶしに来るんで困っておりますよ。ハハハ」
苦笑いしながら雄三は、何やら若い奴らの恋の橋渡しになりそうだと思った。少々困った立場でもある。
我が息子の秀夫も、また吉田嬢に気がありそうだと薄々気付いていたからだ。はっきりとは言えぬが無精な秀夫が嬉々としてわしの昼弁当を届けにくるからだ。わざわざママチャリに乗って二駅先の我が家から届けに来る。
雨が降っていても来るのはおかしい。吉田嬢の勤務日にしか来ないので見え透いている。
どうやって彼女の勤務日程を知るのか謎である。
いづれにせよ、彼女が外回りをしているときは顔を見せず、居るときだけ来るのだ。
彼女と少し話すときの秀夫の表情は日頃の無口無表情とはまるで違って生き生きとしている。
飯田氏の子息との取り持ちをするのは、難しい立場に追い込まれたなと思った。
「・・・」
「はあ、縁談ですか?吉田君に?
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