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#星にねがいを 英一郎とヒヨの話

#星にねがいを  英一郎とヒヨの話

昼休みの校庭。
水道の蛇口の下にすわりこみ、ザバアアアッと、洋服のまま、頭から水をかぶっているヒヨ。
とおりすがった英一郎は、ギョッとして遠巻きに立ちどまる。

ヒヨも視線に気づき、アッと声にだす。
「英一郎さんだー。なにしてんのー?」

笑顔のヒヨは、全身ドロだらけ&びしょぬれだ。


「つっこんだら負けって思ったけど……。いちおう聞いてあげるよ。なにしてんの」
「いやぁ。つくえの奥から、水風船が出てきてね。クラスで水風船バトルしたの。逃げまくってたら、そこのビオトープに落っこちちゃってさぁ」

 英一郎は、うわぁと顔をゆがめ、ビオトープとは名ばかりのドロ池に目をやる。

「学校のつくえから、どうしてそんなのが出てくるのかナゾだし。そもそも今、冬ですけど」
「そーですけどー。でも『今だ!』ってタイミングって、あるじゃん」
「すくなくとも今ではなかったでしょ。……ていうか、真くんもやったの? それ」
「真ちゃんは、水風船つくる係やるって、立候補」
「まぁ……、うまいトコに逃げたよね。そんなのに付き合うのもビックリだけどさ」
「楽しかったよ~! 今度ハルルンが、もっといっぱい水風船持ってきてくれるって! 次回は英一郎さんもいっしょにやろーよ! 凪さんもさそって!」
「やると思う?」
「スナオじゃないなぁ~、楽しいのにー」

 冷ややかな目をむけられるも、ヒヨ、あははっと笑う。
 そして子犬さながら、濡れた頭をブルルルッと頭をふって水をきる。
 その飛んできたドロ水しぶきが、英一郎にチョクゲキ!
「うわっ!?」
「あっ、ごめ……っ!」


 ヒヨは英一郎からあずかったメガネを、ハンカチでふきふき。
 英一郎は怒りのオーラをただよわせながら、顔を洗っている。

「ごめんねぇ……、英一郎さん」
「ほんっと、ヒヨちゃんってさぁ」
 メガネを装着した英一郎、ヒヨの本気でしょんぼりした様子に、グッとノドがつまる。
 けっきょく、大きな息をついて言葉をのみこんだ。


「――あ。ミジンコがついてる」

 びしっとヒヨのつむじをつつく英一郎。
「ミジンコ!? 理科の教科書にのってる、あのっ、半透明の、手がこーなってる、あの、アレ!?」
「うん。しかもすっごい大きいよ。十センチくらいあるかな。四本のショッカクでざわざわ、ヒヨちゃんの頭をさわってる。うわー、こうして大きいミジンコ見るとグロいなぁ。目の玉一つしかないんだよね。ヒヨちゃん、よく平気だね?」

 からかってニヤニヤしていた英一郎だが、ヒヨは真っ青になって、ぶるぶる震えだす。

「ぎゃあああああ! とってぇぇぇーーー!!!」
「って、うわっ! こっち来ないでよ! キミ、まだドロまみれだろ! ちょっ!」
「えいいちろうさぁぁーーーん!! ミジンコおっきいのこわいぃ~~~!!!」
「バカじゃないの!? そんなデカいミジンコがいるわけないし! ジョーダンだって!」
「いやあああああミジンコォオオオオオオ!!!」

 パニックになって英一郎を追いかけまわすヒヨ。
 必死に逃げまわる英一郎。

 それを、保健室からタオルを、教室から体操着をとってきた真・冴子・ハルキが、ぽかんと眺めている。

冴子「……英一郎さん、楽しそうね」
真「……うん……?」
ハルキ「がんばれー! 英一郎さーん、逃げきれーっ!」

 がしっ。

 とうとうヒヨに追いつかれた英一郎。
 背中に両手両足で飛びつかれ。
 ビシャッと濡れたカンショクに、虚無の顔になる。


~了~

 

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