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#星にねがいを 小話「優子と彼氏の長電話」


 相馬家、優子の部屋。
 LI〇E通話の着信音に、優子はテキストから目を上げ、パッと笑顔になる。
「はいはーい。どした、中井」
『優子、勉強中だった? だいじょうぶ?』
「ちょうど一休みしようと思ってたとこ」

 通話相手は、優子の彼氏。
 チトセ小の卒業式でコクハクされて、中学は別になっても、そのままずっとつきあっている。
『弟くんの友だち、今日来てるんでしょ? どうだったかなって』
「んふふー。めっちゃいいコだよ。背、中井よりデッカくてねぇ、すごいイケメンだった」
『えっ。なにそれ』

 心配げな彼氏に、優子はまたふくみ笑い。

「しかも髪ツンツンだし、ガンつけると眼つき凶悪だし、見た目ヤンキー?」
『えええっ。ななななにそれ、優子んち泊めて大丈夫なの?』
「だいじょうぶだよー。てかね、ホントにいいコだったよ。なんかかわいいなーって」
『へぇ……。そっか。ならよかった』
「問題は、いいコすぎて、私のかわいいヒヨちゃんを奪られちゃわないかってコトくらい」
『あー。弟くんの好きなコだっけ?』
「そうそ。今、ヒヨちゃん、すぐそこで寝てんだよ。真のために写真撮っといてあげよっかなー」
『はー? 優子ってほんとブラコンだよなー』
「なによぉ。中井だってシスコンじゃん。妹ちゃんの話ばっかするしー」

 優子は笑いながら、ちらり、すぐ後ろでスヨスヨ寝ているヒヨをふり返る。
 ちっちゃなころから全く変わってない、この寝顔。
 なつかしくてかわいくて、きゅんとしてしまう。

 優子の野望は、ヒヨと冴子を両方義理の妹にすること!

 ――だが、まぁ、法律的に難しかろうから、弟の初恋がかなうといいなぁと、勝手に応援している。

 ヒヨはごろんと寝返りをうち、ふとんからハミ出して反転。
 180度回転したのち、優子の足元まで転がってきて、ゴンッとイスの脚に頭をぶつける。
 ……が、起きない。

「……真ちゃ……、どーしょ、かたくて……歯がたたな……い……。チョコアイスの……エベレスト……、」

「『!!!』」

 彼氏と同時に、ブハッと噴き出す優子。
 チョコアイスでできた、世界最高峰!

「さすがの夢だなぁ、ヒヨちゃん」
『そのコ、やっばいおもしろそーだね。オレも会ってみたい』
「でしょぉ? じゃあさ、中井の妹に彼氏できたら、わたしたちと真とヒヨちゃんと、トリプルデートしよっか」
『なっ、なっ、なっ……! うちの妹に彼氏とか早いって!』
「そんなことないよー。もう小六でしょ? あんまりベッタリだと嫌われちゃうよ?」

 あわてる彼氏をさんざんからかい、通話を切ったあとも、優子はまだ口元が笑っている。

 中井と意気投合したのも、妹・弟談議にもりあがったのがきっかけだった。
 あの頃は、まだ真はツンツンしていて、毎日しんどそうな顔でくらしてた。

 それが今や、北斗っちなんて、ゼッタイ縁もゆかりもなさそうなタイプの子を、泊めてってさ。
 あのコが自分のプライベートスペースに、だれか入れたのだってビックリなのに。

 今ごろあの二人、男子トークでもしてるんだろうか。
 なんだか、小学生らしい青春をしていて、ホッとしてしまう。

 優子はヒヨの両足をひきずって元の位置にもどし、ふとんをかけ直してやる。

「ほんと、かーわいい寝顔」

 ぷにぷにのほっぺたを指でつついたら、「ちょこれぇとぉ……、はやく、とけてぇ……」とうめいた。
 優子はまたフハッと笑う。

 わたしには、弟一人と、妹が二人いる。
 みんなそろって幸せになってもらわないと、こまるんだからね。

 スマホを自撮りモードにして、ニィッと笑って、ピース。
   カシャッ。
 しっかり背景に写りこんだヒヨの寝顔を、♡マークでデコる。
 うん。超かわいい。天使だ。

 さっそく、弟のパソコンに送りつけてみた。

 耳をすませば――、
 すぐソコの部屋から、かすかにピロリンッと着信音。

 その後、ガタタッと、だれかがイスから落ちるような音がした。


 ~了~


 
 

 


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