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歌い続ける、伝え続ける

この記事はsumika Live Tour 2023『SING ALONG』のネタバレを含みます。




















BGMの音が大きくなり、無音になる。知らないメロディが流れる。が、なぜか安心感がある。sumikaの新しいSE!独特の多幸感と胸踊るリズムに乗った難解な手拍子を煽りながらメンバーが入場する。

近年のsumikaのツアーはストリングスを軸に置いた壮大なSEで始まることが多かった。バンド結成10周年に向けた、高尚なショーが始まるような、そんな厳かな開幕も好きだったが、『ピカソからの宅急便』『Hummingbird’s Port』を後継する、どこか可笑しくて幸せなパーティの幕開けのような、今ツアーのSEが大好きだ。11年目に向けて歩みを始めたようで、一層胸が高鳴った。


SEが止まり、ステージセンターのフロントマンにスポットライトが当たる。

「伝えたい 全部あなたに」

涙が溢れ出た自分に驚いた。一曲目に演奏される驚きや歓喜を追い越して、アカペラの1フレーズが聴こえた瞬間に、この曲に対する愛が溢れて破裂しそうになった。

「伝えたい 今の私の
半分以上があなたで出来ていたと気付いたから」
「気付いちゃった」

照れくさそうに、ニヤリと微笑む僕のヒーロー。愛でいっぱいに満たされて、溢れて、今にも壊れそうな体。数メートルの至近距離で、ひたすらにそれを伝えられる2時間が、今この瞬間始まった。歌声を聴く1秒前まで想像できないくらい、嬉しくてしょうがなくて、涙が止まらなくて、SING ALONGの僕の第一声は嗚咽だった。これも愛なんだよ。

「よろしく」と全幅の信頼を置いて託してくれる2番のサビ。イヤモニを外して、嬉しそうにこちらを見渡す瞳。

僕がsumikaに出会った2018年から程なくして、たくさんの悲しいことがあった。それでも、sumikaに「おかえりなさい」「ただいま」を言い合うことを諦めなかった。全部がこの瞬間まで繋がっていた。

sumikaの中で完成が一番古い曲。300人しか入らないこの小さな箱で、声を荒げながら歌う姿は、僕の信じるロックンロールそのものだった。2023年のsumikaに、10年前どころではない、メンバーそれぞれの初期衝動のようなものまで見えた気がした。


間髪入れず、アップテンポな音楽がすぐ目の前のステージから鳴り続ける。大好きな音楽と、自分だけの声と、こうやって通じ合えるのはこの小さな世界だけで、この場にいるという事実が嬉しくてたまらない。

『アイデンティティ』での、作曲者として魂をそのまま乗せているような、小川貴之の力強いボーカル。あらゆる場面で目立つ、荒井智之の小気味いいドラムアレンジ。ゲストメンバーである上口洸平の、変則的でジャジーな、それでいて熱量のある数々のギターソロ。ただのロックバンドじゃない、音楽家としての底知れぬ実力も、至近距離で全く霞むことなく伝わってくる。変わらぬロックバンドとしての熱量とともに、変わり続けるエンターテイナーの技量をも同時に食らった。


『ふっかつのじゅもん』のギターソロ、片岡健太のギターから、ずっと聴いてきたあのフレーズが鳴っていた。僕の頭の中でずっと見えていたあの笑顔が、少し鮮明になった。今日一番力強い拳を挙げて、心臓の高鳴りは最高潮だった。僕にとってのふっかつのじゅもんはいつだってこのフレーズだ。


最後の曲が始まった。今日笑顔で聴くために、何回もヘッドホンで鳴らして、泣き続けた曲。Phoenix。少しだけ泣いてしまったけど、嘘偽りない満面の笑みで、掌を掲げることができた。sumikaがパレイドをやめない限り僕は大丈夫だって、もう分かったから。1番終わりの間奏、音源とは程遠いけど一番綺麗な合唱を、あの狭い世界の全員で演奏した。レスポールを胸に構えたあの笑顔も、絶対に混じっていた。


sumikaはいつだって、この先の僕の人生の光になるように、僕がダメになった時に大丈夫にする為に、音楽を鳴らし続けていてくれている。まだ20年しか生きていない僕が、人生がなんなのかなんて分かるはずがないのだけれど、20年かけて少しだけわかったことがある。

大好きな存在に、愛を伝えることが何よりも幸せな瞬間であること。

捻くれた性格の僕が、こんな綺麗事のようなことを本気で信じることができるのは、sumikaがそれを伝え続けてくれているからで。愛を伝える時間だけで僕の人生は十分だって、思っちゃったりするんだ。

僕だけの振動を持って、何度だって伝えたい。

sumikaを愛しています。



2023年10月22日 青森Quarter
sumika Live Tour 2023『SING ALONG』

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