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伝統の守り方―コロナ禍で仏教行事はどうあるべきか―

2020年12月2日大正大学成道会(じょうどうえ)が行われました。この行事は大正大学成道会実行委員会(以下、実行委員)が運営しており、実行委員会は「現代社会と仏教D」という科目の受講者によって構成されています。
今年は「祈る意味~Stay homeでできること~」というテーマの下、オンラインでの開催となりました。このテーマには「今私たち一人一人ができることは何かないかみんなと考えたい。また実行委員全員が今コロナ禍において頑張っている方のために何かしたい。そして癒しや元気を祈ることで与えたい」という熱い思いが込められています(『大正大学成道会2020』HPより一部抜粋)。
今回は実行委員の皆さんにインタビューをさせていただきました。大正大学成道会はどのような行事で、実際に何が行われたのか、実行委員会の方々はどのような思いで企画運営をされていたのか、詳しく聞きました。

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成道会実行委員 メンバー
・村山弘俊(実行委員長 写真中段中央)
・飛田野達也(副実行委員長 写真上段右)
・西鷹果林(広報班班長 写真中段右)
・布施公祐(法要班班長 写真上段左)
・間正成海(企画班班長 写真中段左)

成道会とは?

―成道会について教えてください

村山:成道会とは仏教の開祖といわれるブッダが、数々の苦行の末に悟りを開かれたことをお祝いする行事のことを言います。仏教はブッダが悟りを開き、教えを広めたことが起源であるため、まさに「仏教の始まり」を祝う行事といえます。成道会は仏教の三大会(残り二つは灌仏会と涅槃会)の一つに数えられるほど大切な行事でもあり、大正大学では仏教学部の学生が主体となって企画運営を行っています。

―なるほど、仏教界にとっては全ての始まりと言えるイベントなのですね! では、大正大学成道会ではどのようなことを行うのですか?

村山:例年、12月の第一水曜日に天台宗、真言宗豊山派、真言宗智山派、浄土宗、時宗の5宗派合同で開催しています。ブッダが悟りを開く前に食べたとされる乳粥の配布や、京都の大報恩寺というお寺が無病息災や厄除けを祈願するために行ったことが起源の大根焚き(だいこだき)を行います。また、各宗派の法要を行ったり(お経を読む)、ブースを構えて法衣(お坊さんが普段着用する着物)の展示や腕輪念珠(数珠)作り体験をおこなったりしています。

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大正大学成道会のここがスゴイ

-大正大学成道会の特徴的な点は何ですか?

飛田野:真言宗豊山派の豊山太鼓や浄土宗の念仏など5宗派の学生僧侶が宗派の特色をいかし、大正大学という1つの場所で仏教行事をすることが大きな特徴です。

村山:一般的な成道会は宗派別に行われ、他宗派と合同で行うことはありません。しかし、大正大学は5つの宗派からなる大学であるため、複数宗派が一堂に会し同じテーマで法要を執り行います。

-なるほど、大正大学でしか見ることのない、大正大学でしか行えない成道会の形式なのですね。今年はオンラインでの開催となりましたが、昨年までとどのような違いがありましたか?

村山:今年は成道会を大正大学まで直接見にきていただくことができません。そのため、動画配信サービスであるYouTubeを使用し成道会の法要を配信し、ホームページで法衣、法具の紹介や「みんなで作ろう! お守り企画」などを行いました。その際、われわれ実行委員会のメンバーや実際に法要を執り行う者は、人と接触しお経を読むので感染リスクが伴います。そこで感染しまっては元も子もないので、感染症対策を徹底しました。
 また、サブタイトルを「~Stay homeでできること~」とし、家でできることに重きを置きました。例えば、昨年までは乳粥の配布をしていたのですが、オンラインでは行うことができないので乳粥の作り方をYouTubeにアップロードしました。それを見て、乳粥を家で作ってもらおうという企画です。

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「祈る意味」

-テーマにもあった「祈る意味」には実行委員の方々のどのような思いが込められているのでしょうか?

布施:コロナ禍だからこそ、この情勢に苦しんでいる人にお経を聞いて少しでも元気を出してもらいたいと思い、「祈る」をテーマにしました。コロナが早く収束するようにという思いから、観音経(妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五偈)という真言宗智山派の本山である智積院で日常的に読まれているお経を選びました。このお経では、心から観世音菩薩を称えれば必ず救われる、そして苦しみや死の苦難が訪れたとき一心に菩薩の名前を称えることで、人々は救われ観世音菩薩は最後のよりどころとなると説かれています。

村山:「祈る意味」とは人それぞれで、正解があるものではないと思います。このテーマを設定した理由の1つには、成道会を終えたときに「何ができたのか」、「人のために何ができるのか」という問いに対する答えを見つけたいと思ったからです。さらには、新型コロナウイルスにより異例の事態による開催となってしまったからこそ、今回の成道会を通して、僧侶になることを志す学生による「自分は今何ができるのか」「今後大人になり何ができるのか」という思いが「自分はこんなことができた」という自信に変わっていけばいいなと思いました。

-なるほど、コロナ禍だからこその「祈り」だったのですね。

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実行委員それぞれの思い

-今回の成道会では前例のないことへの挑戦の連続だったかと思います。実行委員としての活動を通して、どのようなことを感じましたか?

間正:企画班では家でできることというテーマの通り、自宅でもできる企画を考えました。私も準備期間中はずっと家の中で作業を行い、企画班の仲間と乳粥づくりやお守りづくりなどを企画しました。今年はオンライン開催のため、去年まであった企画をどのようにオンラインで再現し、誰でも楽しめるものにするかを考えることがとても大変でした。実際にどれくらいの人に体験していただけたのかが動画の再生数でしかわからないのですが、成道会開催後に再生数を見て予想より多かったと感じました。

西鷹:広報班は「多くの人に成道会を知ってもらうこと」を目標に、twitter、Instagram、Facebookの3つのSNSを利用し成道会を宣伝しました。内容次第で炎上につながってしまうこのご時世なので、メンバーから受け取った情報をどのような構成で、どのような言葉の表現を使うべきなのか考えながら発信しました。結果的にはSNSのフォロワー数も増え、自分たちの伝えたかった成道会の内容が伝えられたのかなと感じました。

村山:今年は法要班を中心に感染症対策に力を入れて準備をしました。そのため、各班においても感染症対策をしっかり行ったうえで、オンライン化に対応してくれました。今回のような異例な事態であってもしっかりと伝統を守り成道会を執り行うことができたという経験が、実行委員のメンバーそれぞれの今後の人生で活きるような貴重な体験になっていればうれしく思います。

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今年度は新型コロナウイルスという突然の脅威のなか、1986年から続く成道会が初めてオンライン形式で開催されました。今まで続けてきたことをオンラインでどのように再現するのか、どうしたら大正大学成道会を楽しんでもらえるのかを何度も試行錯誤を重ねてきたのだろうという熱気を感じました。オンラインならではの企画もあり、伝統を守るためにコロナ禍でも臨機応変に対応したのだと思います。次回はどのような形式になるのかまだわかりませんが、対面でもオンラインでも執り行えるという大きな歴史を積み上げた今年の成道会でした。

記事・須永理央(メディア班ライター)
2020年12月8日取材

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