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「南三陸で会えるわたし」を撮ったわたし ―2時間半の南三陸―

大正大学は、東日本大震災当時、いち早く学生と教職員で復興ボランティアとして南三陸を訪れました。その後も南三陸との関係が続き、地域実習や南三陸ツアーなど学生の学びの地となっています。
今回は、震災から8年を迎える2019年1月に、サービスラーニングの授業の一環として南三陸を訪れた学生たちの記録映画を制作した一人、心理社会学部 臨床心理学科4年の山本陸さん(メディア班SPS)にインタビューをしました。山本さんたちが制作したこのドキュメンタリー映画は、当時の4年生3人にスポットを当てて、3泊4日の南三陸ツアーのなかでどのような学びがあったのか、どのような心の変化があったのかを克明に記録しています。映画を制作する中で見えたものや感じたこと、制作時のエピソードをたっぷりお届けします。

(映画予告編URL:https://youtu.be/cMI1wori97o
(映画本編URL:https://youtu.be/SJlX0gUcBJ4

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山本陸:臨床心理学科4年(写真左)


まさかのタイミングで制作・撮影が決まった


―映画を拝見しました。3泊4日のツアーの中で多くの学びがあり、知識を得るだけでなく、学生ひとりひとりが人間として成長できることが伝わってきました。この映画を制作するに至った経緯をお聞かせください。

山本:2018年、自分が大学2年生の時に、サービスラーニングの授業の一環で南三陸シェル喫茶という喫茶店を鴨台祭(おうだいさい)に出店しました。ここでは南三陸の特産品などの販売も行っていましたが、南三陸のことを知ってもらいたくて、学生と対話する場も設けていました。その打ち上げの時に、担当教員の齋藤知明先生から映画を作らないかと提案されたことが、南三陸のドキュメンタリー映画を制作するきっかけになったのです。当時、映像の授業をとっていてミュージックビデオを作ったということもあり、映像制作に興味があったので快諾しました。半分はその場のノリで始まったと言えます(笑)

―その場のノリで始まったとは驚きました。映画からは、『伝えたい』という強い気持ちなどを感じたのですが、初めから目標や目的は決まっていたのですか。

山本:映画を作るのは初めてで、ミュージックビデオよりも規模の大きいものになったので自分一人での制作は厳しいと感じ、仲間を集めました。その中で方向性などを話し合っていき、“自分の目で見て肌で感じた南三陸の魅力を、映像を通じて多くの人に届けたい”という目的が生まれました。また、サービスラーニングの活動を知ってもらいたい、被災地や復興について学生に考えてもらえるきっかけになってほしいと思うようになりました。

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ありのままの南三陸を届けたかった


―学生が初めて作ったとは思えないクオリティの高さに感激しました。私は南三陸に行ったことがなかったのですが、この映画を見て人の温かさや自然の美しさなどの南三陸の魅力を感じ、実際に訪れてみたいと思うようになりました。

山本:南三陸の現状を伝えるだけの映画なら自分一人で撮りに行けばよいのですが、そうではなく、大人とも子どもとも言えない年齢の大学生を通して南三陸の魅力を知ってもらうというのがコンセプトでした。学生が南三陸でどのような活動をし、何を感じ、学んでいるのか映像で届けることで、視聴者に感情移入しながら学生の活動を知ってもらいたいと考えていたので、南三陸に興味を持ってもらえて嬉しいです。

―撮影は複数でおこなっていたようですが、撮影でこだわったところはありましたか。

山本:主演3人、カメラマン3人という編成が決定していたので、1対1で密着取材のようにして撮影していました。主演3人は南三陸で活動した経験があり知識も豊富だったので、1対1で深堀りしていく撮影方式の方が実りのある話を聞くことができるだろうと考えました。
カメラマンは情報共有を兼ねたミーティングを毎晩行い、質問はいくつか共通のものを事前に用意しましたが、他はその場で臨機応変に訊ねるようにしてリアルさを追求しました。密着取材をしていた主演の3人も含め、6人で考えを共有できたことが成功のカギだったと思います。

―撮影前のみでなく撮影期間中も情報共有をしたことで、あのように密度の濃い内容になっていたのですね。南三陸の人の優しさや温かさがとても伝わってきました。

山本:南三陸に行ったことのない人にも、南三陸という地域の魅力や人の温かさを感じてもらいたいと思っていました。南三陸の空気感もすべてそのまま届けたいと思っていたので、伝えることができてとても嬉しいです。南三陸に親しみを持ってもらえるように考えて作ったので、ぜひ多くの学生に見てもらいたいですね。

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気づけば一人だった


―山本さんは映画を撮影する前から南三陸には訪れたことがあったようですが、きっかけはあったのですか。

山本:震災から5年目の2016年に、知人に連れられて東北を巡った際に初めて南三陸に訪れました。復興はかなり進んでいると思っていたのですが、訪れてみるとほとんどが更地ですごく衝撃的だったのを今でもはっきりと覚えています。そこから毎年、南三陸に訪れるようになりました。

―震災から5年というともうニュースでも頻繁には見なくなっていましたもんね。その衝撃を受けたことが、この映画制作にも関係しているのですか。

山本:当時はあまり意識していなかったのですが、この経験で自分の無力さや無知さを痛感したことで、自分にできる何かをしたいという気持ちが芽生えた気がします。悲惨な現状を知ったことをそのままにせず、南三陸の復興状況を知らない同年代の人たちに知ってもらいたいと思い、積極的に広報するようになりました。

―そのようなきっかけがあったのですね。初めての映画撮影で苦労がたくさんあったかと思いますが、撮影でもっとも苦労したことは何ですか。

山本:圧倒的に編集でした。映像素材として、南三陸ツアー前に主演3人にインタビューした映像と、ツアー中の密着取材の映像があったのですが、映画の長さや編集の担当などが曖昧なまま撮影を終えてしまったので、素材はたくさん集めることはできたけれど、完成像をはっきりと決めて撮影できていなかったのだと感じました。また、編集を始めてから一緒に制作していた2人と連絡を取れなくなるトラブルもあり、そのうちに自分のモチベーションも下がって編集作業が一時休止してしまう時期がありました。

―連絡を取り合うことやお互いのモチベーションを保っていくことなどはチームで制作を行う時の難しいところですよね。その中で学んだことも多かったのではないですか。

山本:そうですね。企画を協力して進めていくことの大変さは身にしみて感じました。人に見せる、届けるものを創りだすことは、様々なリスクや可能性を考えていかないといけないということを学びました。このことは、今のすがもプロジェクトでの活動にも活かせていると思っています。

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震災から10年、私たちにできることを


―この映画は、昨年の鴨台祭で公開となりましたが、そのタイミングで公開しようと決めたのはなぜですか。

山本:当初の予定では2019年4月に公開しようとしていたのですが、先ほどもお話ししたように編集作業が一時休止したことによりそれが叶わなくなりました。編集作業を再開して完成したのが2020年8月頃だったので、その3か月後の鴨台祭でお披露目する運びとなりました。

―鴨台祭では、映画の公開とともに生配信で撮影エピソードトークもされていましたね。生配信には主演の先輩方も登壇していましたが、印象などの変化はありましたか。

山本:せっかく映画を公開するので1人でも多くの人に見てもらいたいと思い、生配信企画にも参加しました。オンラインでの開催であったため、実際に観客を前にして話すよりも言葉に対する責任を感じすごく緊張しました。先輩方には、あまり緊張の色は見えず撮影当時から視野が広く、物事に対する目の向け方も自分とは全然違っていて、学んだことを活かしていく幅が広いなど尊敬できるところばかりでした。
また鴨台祭では、2年生の時から一緒にサービスラーニングの活動をしている南門活用計画班の石橋郁乃さんや、遠藤桃加さんをはじめとする東北復興活動班などの協力もあり、とても心強かったです。

―鴨台祭での企画も多くの人の協力があって出来上がっていたのですね。今お話に上がったすがもプロジェクトの東北復興活動班、南門活用計画班と祈りのまち巣鴨班が東日本大震災から10年ということでイベントを企画しているのですよね。

山本:2021年で東日本大震災から10年ということで、2月27日(土)にオンラインでの追悼イベントを企画しています。YouTube Liveを活用した生配信での追善法要など13時から15時30分まで南三陸と大正大学の10年間の関わりを過去・現在・未来と分けてたっぷり紹介します。今まで南三陸に触れてこなかった学生にもぜひ参加していただきたいです。このイベントと合わせてドキュメンタリー映画も見ていただけると、きっと南三陸に行ってみたくなると思います。

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(写真左から、遠藤桃加(南門班)・山本陸(メディア班)・稲葉百々佳(映画主演)・岡野元耀(映画主演))

知らないことや知らない場所に飛び込むことは怖いことではありますが、何か一つのきっかけで興味を持ち挑戦できるようになる素晴らしさを感じました。“学生が主演”の“学生が制作した”ドキュメンタリー映画を通して、南三陸という土地に触れ興味を持ち、今の活動で終わらず次に活動をしていく学生が今後も絶えずいてほしいです。映画と合わせて2月27日の追悼イベントもぜひご覧ください。

(映画予告編URL:https://www.youtube.com/watch?v=cMI1wori97o
(映画本編URL:https://youtu.be/SJlX0gUcBJ4


取材:メディア班 伊藤静悟
記事:メディア班 山田知佳
(2021年1月26日インタビュー)


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