「見て見ぬふりをすれば、それが自分の基準となる」〜「SEVENS HEASVEN」読書日記〜

アルカスユース熊谷、ヘッドコーチの菅原です。

本日は読書日記です。
読んだ本はこちら。

「SEVENS HEAVEN フィジー・セブンズの奇跡」(ベン・ライアン著、児島修訳、辰巳出版発行)

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本投稿のGOAL:・「SEVENS HEAVEN」のあらすじがわかる。
          ・ベン・ライアンの人柄、信念がわかる。

1、 あらすじ


セブンズ(7人制ラグビー)の世界的強豪、イングランド代表で2006年から2012年までの7年間、ヘッドコーチを務めたベン・ライアン。在任時も優秀な成績を収め続けた他、新たなトレーニングや食事方法を積極的に導入し、革新的なコーチとして存在感を示していたが、イングランドラグビー協会との確執もあり、コーチ職の辞任を余儀なくされる。転職先として、イングランドラグビー界を裏方として支える政府組織に入閣することが確実視される中、2013年のある日、偶然Twitterで目にした、セブンズフィジー代表のヘッドコーチ募集のツイート。コーチとしてのベンの血が再び騒ぎ出し、安定、高収入が約束された仕事を蹴り、条件面等、何も確認することなく、ベンはその募集に食いつく。「世界トップレベルを経験した自分になら、リオデジャネイロオリンピックでセブンズフィジー代表を金メダルに導けるかもしれない」と。しかし、食いついた時には時既に遅し。ベンはフィジーラグビーの現実を思い知らされる。ずさんな管理体制のフィジーラグビー協会は、ベンとの契約書もないまま話を進め、ベンはもちろん、選手への報酬支払いも当たり前のように滞納させる。その他、関係者のコネで代表メンバーが決定され、練習会場の土のグラウンドはアスファルトのように硬く、練習中に補給する水分すら用意されていない…。元々内気で神経質なベンは、なぜこんな仕事に食いついてしまったのかと、感情的に行動をしてしまった自分を激しく悔いる。何度も辞退を申し入れようとしたが、時既に遅し、であった。こうした体制下であったから、選手たちの自己管理も悲惨なものだった。科学的なトレーニングなど当然経験したことがなく、食事制限などもっての他、そもそもフィジーは貧しい家庭が多く、生きるのに最低限必要な食事しか取れない選手も珍しくなかった。加えて、フィジー人特有の大らかな性格から来る、自堕落な生活。「フィジアン・マジック」と呼ばれるフィジー代表選手たちの魅惑的なプレーは、何の再現性もない、遊びの延長に過ぎなかった。覚悟を決め、改革に乗り出したベン。食生活の改善、選手のフィトネス(体力)向上、戦術の落とし込み、コネにとらわれない選手の発掘…。協会から資金が提供されることはないから、今あるもので最大限の効果が発揮できるトレーニング考案、環境整備に知恵を絞った。素敵なチームスタッフ、数名の選手にも恵まれ、徐々に軌道に乗り出したベンの改革。しかし、相手は全てが想定外のフィジー人。ベンの元に様々な問題を次々と運んでくる。それでも、2016年のリオデジャネイロオリンピックで金メダルを獲得するというゴールへ向け、ベンは仲間たちと力を合わせ、その問題に対処していく。フィジー人のいい加減ではあるが実は温かい人柄に触れ、内気で誇り高く、神経質なイギリス人のベンも、徐々にフィジー人の魅力に心惹かれ、心身ともに成長していく。想像を絶する数々の苦難を乗り越えたベンとチームは、どのチームにもない結束を獲得していた。ベンの熱意は見事に仲間たちに伝わり、当初問題児だらけだったチームは、いつしか選手だけで問題を解決する自立した集団に変貌していた。ベンは自信ではなく、確信を持ってオリンピック本番に臨む。そしてベンとゼブンズフィジー代表チームは、フィジー全競技を含め史上初となるオリンピックメダル、しかも金メダル獲得というゴールに辿り着く。


2、 読後感〜内気でも勝てる〜


最も印象に残っているのは、セブンズフィジー代表ヘッドコーチ、そして本作の著者でもあるベン・ライアンの内気な性格です。ベンの少年時代の回想シーンも出てきますが、学校の先生に酷いことを言われても反論せず、不良生徒にも関わらないようにしているベンの内気さが描かれています。感情に任せてフィジー代表のヘッドコーチに名乗り出てしまった後、激しい不安にかられるベンの姿にも、大変共感しました。
インターナショナルのヘッドコーチですから、我の強く感情的な、チームを力強く牽引するコーチをイメージしがちです。フィールドサイドやブース内で大声を出しているような。
しかし、リオデジャネイロオリンピックを制した世界一のコーチは、内気な性格です。
私も内気な性格というか、人や集団に馴染むまでに時間がかかるタイプです。それが、コーチングの際の「弊害」にしばしばなります。周りの目を気にしすぎてしまうのです。「こんなことを言ったら、選手たちにどう思われるのだろう?」「首脳陣は、自分に失望してはいないだろうか?」そんな自分が時々嫌になります。思慮深い、とポジティブに捉えるように心がけていますが。
だからベン・ライアンのストーリーに、物凄く勇気づけられました。
ただ、内気なベンですが明確な期限つきのゴールを設定していました。それは「2016年8月11日に、リオデジャネイロオリンピックで、金メダルを獲得する」ということです。そのために必要なことを、必要な時に、シンプルな言葉で伝えます。ベンは余計なことを言いません。決して声を荒げたりもしません。きっとベンの内気な性格に起因しています。
計画は崩れてばかりだったでしょう。しかし、ゴール設定が明確だったので、「1日」が確実にゴールに結びついていた。
内気でも勝てる。
私はベン・ライアンを指針にします。


3、 最後に〜見て見ぬふりをすれば、それが自分の基準となる〜


作中に何度か登場する、ベンのセリフがあります。それは、
「見て見ぬふりをすれば、それが自分の基準となる」
というものです。
問題児集団だったゼブンズフィジー代表チームは当初、試合前だろうがジャンクフードを口にし、試合後には堂々と煙草を吸い、酒がらみの家庭や女性問題も頻繁に起こる、規律の「き」の字も見当たらないような体たらくでした。ベンはまずその意識改革から着手します。食事制限をかけ、酒、煙草、大会中に関係者以外がホテルへ立ち入ることなどを禁止しました、それでも、選手たちは隠れてそれを破ります。ただ、フィジーの選手たちは、家庭環境に問題を抱えた選手が多い。思慮深いベンは、そうした貧しい環境下で育ったから、悪事に手を染めてしまう選手たちの気持ちを理解していました。しかしそこで、
「見て見ぬふりをすれば、それが自分の基準となる」。
ベンは例外を認めませんでした。
この考えこそ、ベンの信念でした。
息抜きはさせます。ただ、絶対に譲れないところは絶対に譲らない。
内気ゆえ、余計なことは言ったりしたりしないベンですが、締めるところは確実に締めるから、返ってそれがアクセントになった。
勝つコーチには、明確な信念があります。
内気でも勝てる。ただ、信念だけは曲げない。
ベン・ライアンが私に宛てたメッセージだと勝手に解釈し、心に強く留めておきます。


本日も拙文をお読みいただき、ありがとうございます。


ARUKAS YOUTH KUMAGAYA ヘッドコーチ 菅原悠佑

ありがとうございます。今後ともアルカスユース熊谷をよろしくお願いいましたす♪