塞いだ耳に嗤う楽園㉟ 唯菓の視線

古瀬島なつ季は痛みを伴った目で唯菓を、抗議を伴った目で私を交互に見ているように思えた。
沢口風花は一際小さく俯いている。

この間、私への岡根唯菓の視線は痛いほどだった。
教室に入った時。
廊下ですれ違う時。
私が彼女を見ると、一緒目が合いすぐに目を反らす。
そんなことが続いていた。

「唯菓の想い人登場」千羽さんの声が聞こえる。「もう目がハートマークになってる」

私は、これは私の願望が生んだ幻聴ではないかとも思えていた。
モテたいのにモテなさすぎて遂に私はおかしくなったか。

もしかしてその根底には、姉の発狂を目の当たりにして「私もいつかこうなるのだろうか」と怯えた少年時代の恐怖があったのか。
私は私の五感が今一つ信用しきれないでいたのだろうか。

この恋愛裁判の判決は近い。

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