甘い汗、夏の憧れ⑩ 練習試合

バレー部で、練習試合があった。
日蔭中の体育館で、隣の木霊中(こだまちゅう)との練習試合だった。

「たかちゃん!」声をかけられた。
幼稚園の同級生だった金本清がいた。彼は木霊中のバレー部だったのだ。
「あぁ」私はそっけなく返事をした。
私は正直、迷惑だった。「草木の会」の会員だと思われたくない。
彼は僧侶にすらなろうとしていた男だ。彼は誰かに私との関係性を聞かれたら、幼稚園の同窓であることまでだったら良いのだが、ぺらぺらと「草木の会」の事まで話しかねない。
「たかちゃん!今日はよろしく!」
金本清はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、元気に更衣室に向かっていった。

練習試合は、日蔭中のぼろ負けだった。
私が狙い撃ちにされたのだ。
私の運動神経の無さを知っている金本が、チームメイトにその情報を共有したようだ。
しかも、今日木霊中からやってきたメンバーはどうやら二軍だったらしい。我々は木霊中の二軍に完封に近い惨敗を喫したのだ。敗因はどう考えても私だった。
キャプテンの鈴木は、悔しさに震えていた。
私は申し訳なくて、言葉も無かった。

この練習試合は、後日談がある。
この時の木霊中の日蔭中に対しての侮り切った態度に対し、一年生の中でも少しやんちゃな生徒たちが激怒。
あろうことか、大挙して木霊中に殴り込みに行ってしまったのだ。

私のせいで、暴力沙汰にまで発展してしまった。

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