予備試験を越えて③(戦闘考察力で乗り切る一般教養)

『敵を観察し分析する力、そして敵を攻略するための手段を戦いながら瞬時に考える力、すなわち「戦闘考察力」!(中略)
いかに対処するかを素早く幾通りも考え取捨選択し
適切な対処法を実行に移すまでの刹那!
まずは考えることに慣れ、それを限りなく反射へと近付ける訓練!』
(ビスケット=クルーガー HUNTER×HUNTER15巻)

予備試験は、法律系の試験である以上、法律の知識理解が問われるのは当然だが、それだけでは点数は伸び悩む。戦闘考察力があると点数がブーストし、安定する。これは、論文だけでなく択一にも妥当する。
同考察力は、その肢の正誤判定のみで活きるのではない。むしろ、その問題の中の肢間の比較で活きる。予備との関係でいえば、60問近い問題が出題される般教の中で最も得点の期待値を上げられる20問を見抜く際にも活きる。

主要7科目の択一で、知識だけでは解けない難問が出た場合、条文・趣旨・利益衡量・判例やリーディングケースとの距離感から正答を導く。
この精度の高さが、得点能力の差に繋がる。
肢を二つに絞った際、10対0で答えを導けることは稀有だ。多くの場合、7対3や6対4の判定有利で答えを決める。この判定力こそが択一の得意不得意を決める分水嶺と俺はみている。

惨敗した合コン後の反省会で(※)、自分の認識やパフォーマンスを仲間から是正されることで選球眼や試合運びが向上するように、2択に絞った問題を何故間違えたかを分析することが択一を得意にするコツだ。
※筆者は10年以上合コンに行ってないことを強く付言しておく。

法律科目でこのような良質な思考実験を繰り返すと、戦闘考察力が高まり、一般教養にも活きる。
本当にギリギリの判断を要する問題では、6対4とかのレベルではなく、5.1対4.9レベルになることもある。このとき、勝負の決め手となるのは、言葉遣いが判例やよくある表現と違うとか、形式論理はあってるけどよく考えると内容に違和感があるとか、単語間のコロケーションがおかしいとかいった些細な話だ。

ただ、ビジネスの現場では、日々これよりももっと厳しい意思決定をすることが多い。ビジネスの場では、そもそも本当に2択に絞れるとは限らない。とりあえず考え抜いた選択肢として2つあったとしても、それら以外にも第3、第4の手段が論理的にありうるからだ。

野球なんかでもそうだろう。
去年のWBC本戦準決勝。9回裏日本の攻撃。5対4で、日本は1点ビハインド。相手ピッチャーはメキシコの抑えのエース。ノーアウト一塁二塁で、迎えるバッターはこのシリーズ極度の不審で、この試合でも4打数ノーヒット3三振で大ブレーキとなっていた村上選手。
三振ならまだしも、ゲッツーで二塁走者と一塁走者がアウトになると万事休すだ。
それまでの日本の定石から言えばバント。バントをするなら、バント成功の期待値が高く足の速い選手を代打に出すのがセオリーだ。
栗山監督は、村上選手をそのままバッターボックスに立たせるか。立たせるとしたらどういう指示を出すか。
立たせないとしたら、誰を代打に送るか。その代打にはバントをさせるのか…etc
多くの選択肢がある中、栗山監督は無限とも思えるであろう一瞬の間に意思決定をし、村上選手をそのままバッターボックスに送り出した。結果、あの逆転劇。

以下のインタビュー記事を見て思うが、栗山監督の戦闘考察力が活きた象徴的な場面だ。
https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2023/03/29/kiji/20230329s00001004491000c.html

予備択一、特に般教はギリギリの意思決定の連続だが、5シ択一である以上、正答率20%(12点)は確保されている。2択に絞れたら正答率50%(30点)だ。
打率30%で名選手とされる野球の世界と比較すると大分楽だ。

無論、般教の知識で問題を解ければどんなに楽かと思う。
しかし、自分は4回予備択一を受けたが、一問たりとも知識「だけ」で解けた問題は無かった。大なり小なり戦闘考察力を用いた。
得意の英語(6〜7割)と論理問題(2問)で点を確保した上で、全ての問題に目を通して、解けそうな問題で上述のギリギリの意思決定をした。そして、正答の期待値を比較してマークシートに書く20問を選択した。
知識なんかなくても、肢間比較で判定有利となるものを選び続けることで、毎年30点は取れていた。
自分は私立文系40代前半であり、理数系は勿論、古文や歴史から離れていた。英検1級を持っているとはいえ、英検1級の問題より予備の英語は厳しい。選択肢は概ね文意に沿うものの、より精度の高いものを選ばせる形になっていて、非常にシビア。そこで、俺は般教では12点(20%)しか取れないことを前提に試験戦略を考えていた。

合格点165点だとすると般教で12点は確実に取れるので残り153点。
司法試験の択一のことを考えると、上三法で9割(81点)を目標にした。
そうすると、残り72点。下4法で6割(72)取れば合格するイメージ。
6割は論文知識があれば、ほぼノー勉で取れるので、社会人ロー生の自分としては、気が楽だ。
また、上3法だけなら9割もそんなに難しく感じなかった。民法はボリュームが大きいのに、予備では他科目と同じ30点しか配点がなく、コスパタイパの悪さは感じつつも、司法試験から逆算すると有用な無駄と捉え、取り組んだ。

去年は5月くらいから隙間時間でアシ別を解いたものの、択一に特化したのは7月1週目か2週目。それで193点。

事前準備における試験戦略、試験中の戦闘考察力で合格した。
試験戦略を練る上で大事なことは、自分の戦力分析と兵站分析だ。
自分の知識・理解、戦闘考察力が試験にどれだけ通用するか、これらを分析せずに7月に入っても論文を書くのは、俺には無謀にしか見えない。また、安直な言い訳に終始していると、自分の戦力を見誤るので、これまた無謀だ。
そして、可処分時間や資金力は試験戦略において極めて重要であるので、これらは自分の兵站分析にとり極めて重要な要素となる。
これらを踏まえて自分なりの戦略を練るのが正しい勝ち方だと思う。

論文の方法論は、司法試験に合格するまでは書かないでおこうと思う。

次はロー生が予備試験を受ける際に留意する点につき書きたい。



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