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鉄がつむぎだす「静」と「動」 ―櫻井充写真展「Fe」―

現代は「鉄器時代」である。石器時代、青銅器時代を経て、融解する高温の維持と炭素の含有量のコントロールを学び、人類は地球上でもっとも大量に存在する金属・鉄を使いはじめた。鉄はわたしたちの身のまわりにあふれている。

アーツ千代田3331で開催された櫻井充写真展「Fe」を訪れた。テーマは原子番号26番「鉄(Fe)」だ。櫻井は広告写真家として活躍しながら作家として自らの作品を長年制作してきた。本展は国際的な写真コンクール「International Photography Award(IPA)2019」で1位を獲得し、世界各国でも展示されている「鉄塔シリーズ」、そして新作の「磁力シリーズ」の2部構成となっている。

そびえ立つ鉄塔などの建築物を撮影した「鉄塔シリーズ」は鉄の「静」の姿をおさめる。空気の澄んだ冬晴れの日のみに撮影され、鉄骨をつなぐボルトまで識別できるほどの細密さだ。被写体の建築物には無駄な装飾がない。等間隔にならぶ鉄骨一本一本の構造にはリズムすら感じる。しかし背景や色彩はとり除かれ、中央に置かれた被写体は微動だにせず静謐な空間にたたずむようだ。

一方、「鉄塔シリーズ」が鉄の「静」の姿であるならば、新しい「磁力シリーズ」は鉄の「動」の姿である。建築物を望遠で撮影した「鉄塔シリーズ」に対し「磁力シリーズ」は釘や砂鉄、磁性流体などに磁石を近づけ磁性にしたがって動く鉄を接写した作品だ。そのうち磁性と流体の性質をあわせもつ磁性流体は表面張力と電磁気力と重力のバランスでその形を変えていく。「半分は偶然」なので二度と同じ形はできないという1)。一見グロテクスなその動きの一瞬を写真にとらえる。

静の「鉄塔シリーズ」、動の「磁力シリーズ」両方に貫かれているのは極限まで無駄を排することで鉄の魅力を引き出そうとする姿勢だ。「鉄器時代」にもかかわらず、わたしたちは日常、鉄の存在を意識する機会は少ない。櫻井の作品は鉄という素材のもつ質感や鉄骨構造の様式美をみせてくれる。それは単なる鉄塔の写る風景写真ではない。それは鉄そのものに対する「美意識」である。

渡抜貴史


#櫻井充 #写真 #鉄塔 #3331