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O01 長谷川逸子 「音のきづき」

曳舟駅を降りて線路沿いに北上すると、ドーム型のクーポラのある白い建物が見える。ユートリヤすみだ生涯学習センターのB棟1Fギャラリーに入ってすぐに、天井から下げられた白い幕で仕切られたいくつもの円柱状の空間が広がっている。中の様子は見えない。パオのような小部屋の中には白い柱の林があり、林に囲われた隅にはいってみる。

音が、やんだ。

自分の感覚を疑い、一歩下がって周囲の雑音を確認する。柱に囲まれれば囲まれるほど、周囲の音が聞こえなくなる。吸音素材、とはこういうものかと知識が追い付いてきた。次の小部屋に移ると、小川や小鳥のさえずりのみが聞こえ、先ほどとは別の音に満たされる。

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「音のきづき」は建築家・長谷川逸子が「都市空間そして公共空間で人々が穏やかに話し、上品にふるまうことを実現させたい」という想いを形にしたプロジェクトだった。空港や駅のロビーで自然音を流すと、それまではしゃいでいた子供たちは打って変わって静かに過ごすという。自然音を切ると、突然また大声で話し出すそうだ。音が人のふるまいを左右している。

かつて日本の民家は土や木、草などの吸音性の強い素材で作られていたので、静けさが漂っていたという。長谷川はコンクリートの建物内で大声で話す生活様式に疑問を感じ、一周回って静かで穏やかなふるまいを導くような音や素材を研究した。

「上品にふるまう」とはどのようなことかと思っていたが、私は作品鑑賞をしながら穏やかな気持ちで首回りのストレッチを行っていた。自然と日頃無視していた体の緊張に向き合う時間になっていた。人によって、静寂を経験し音にきづいたときのふるまいは異なるだろう。内省し過去を思いだすのか、未来に想いを馳せるのか、瞑想をするのか。あなたはどんなふるまいをするのか、長谷川逸子のプロジェクトをぜひ体験してほしい。

佐藤久美

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#長谷川逸子 #音のきづき #建築 #東京ビエンナーレ