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波乱含みのスタート、その長〜い1日がもうすぐ終わる。(小説調)



今日は福寿走の四国本州ツアーの初日、心躍る瞬間でもあり、高揚感で感極まっているに違いなかった。今頃は苫小牧西港から大洗行きフェリーで東京に向かっているはずだった。なのに今、苫小牧東港に着いて別のフェリーを待っている。

朝5時起床。
昨晩は準備や積み込みやらやること山積みなのに、気が急くばかりで遅々として進まなかった。このプロジェクトのクラウドファンディングを進めなくてはと、そちらを優先して他の準備が滞っていたのだ。
後に延ばせるものは後にしようと思うと全てがあとでいい気がして、優先事項からやろうと思うと全てが優先のような気がして混乱してくる。こういう時は寝てしまって、翌朝新たな気分で始めた方がいいと思ったのだ。
早朝の起床で気分が良く、よせばいいのに気になっている公募のエントリー作業を始める。今さら公募でもないだろうと思うが、新しいトライと関わるし、それ自体は大した作業ではないからと取り掛かり、すぐに終えられた。あとは出品料を振り込めば完了だ。

納品やら発送やら移動展示とは関係のないことでのやるべきこともあって、ToDoを書き出しながら、最低作品さえ忘れなければあとはなんとかなるのだと言い聞かせて、作品の積み込みを黙々と進める。カメラの充電器が見つからない、作品を収める箱ができていない、キャプションの仕上げが終わっていない…とさまざまなことを思い出すが、そんなことは諦めればいいのだ。
それでも時間は刻々と過ぎていく。朝、出発できればフェリーの出航時間までは時間にゆとりがあるから、先日知り合ったミュージシャンのKさん宅に寄ろうかとか、お気に入りの眺めのいい海寄りの道をのんびり走ろうかなどと妄想を膨らませていたが、そんな時間も過ぎつつあった。

やっとの思いで積み込みがひとまず終わり出発できるところとなった。そういえばフェリーの受付集合の締め切りは何時だろうと思いメールに目を通すと、車検証の文字が目に入る。そうだ、車検証がいるよなとダッシュボードを開けてみると、ない。この軽トラに興味があるという知り合いに先日車検証も見せて真紀はダッシュボードに戻したという。そういえば保険の更新で車検証を出したっけかなと山積みになっている書類をひっくり返す。他の車に入ってないかと探してみる。ない。しかも思い当たらない。大体、自分の記憶が一番信用できないのだ。

あそこか、ここか。自分の行動を思い出しながら冷や汗が出始める。これはダメか?車検証なしで乗船できる方法を聞いてみるか。到着後の予定の変更はできるだろうかなどと考えを巡らし始めたその時、「あった!」と真紀が駆け込んできた。ダッシュボードの上の隙間から奥に入り込んでいたらしい。

ひとまず安堵して出発しながらも、動揺が激しかったせいか気分は沈んだままだ。
「間に合う?」
予定の時間は大幅に過ぎているが、受付集合時間には多少遅れても大丈夫だ。全区間高速に乗れば少々の遅れで済むはずと妻に説明する。途中、飛ばしながら猛烈な眠気に襲われる。路肩に駐車して短い仮眠を取る。

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再び走り始めて、振込を忘れていることを思い出す。ああ、今回も出せないのか。眠気覚ましにコンビニに寄ってコーヒーを仕入れる。Googleで検索しながら到着時間の検討をしているその時、持ち上げた紙コップをハンドルに引っ掛けて、熱いコーヒーをズボンにぶち撒けた。全く冴えない日だ。舌打ちする気もおきない。

スピードを上げて、高速の入り口に着くと、ゲート脇の立て看板に殴り書きで「事故車のため通行止め」とある。諦めのような気分で下道の峠道を登り始める。下道となれば間に合うか微妙ではある。通行止めが終わる峠の麓から高速に乗って間に合うか。今は電波が届かず検索ができない。峠の麓についた時点でまた考えることとした。頂上に近づくに連れ霧が深く立ち込める。一寸先も見えずノロノロ運転。まるで今の私のようだなと、苦笑しながらハンドルを右へ左へと忙しく回す。ハンドルを切りながら、峠の麓に銀行の支店があったことを思い出す。

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ヒヤヒヤしながら麓の道の駅に着いてみると、銀行は無くなっていた。フェリーターミナルへの所要時間を検索すると、通行止めの終わった入口から高速に乗っていけば出航15分前くらいには着きそうだが、さすがにギリギリすぎるか。前にもギリギリに駆け込んだことがある。トイレから戻ってくる真紀の背中越しに郵便局が目に入る。そういえば郵便局は振り込みできるよな。
「次の便にしたらいいんじゃない」
「予定も変わるし、キャンセル料もかかるだろうしなぁ」
そんな言葉を交わしながらフェリーターミナルへの電話をする。
「変更できますよ。料金も変わりません」
受付嬢の答えが女神の声に聞こえた。郵便局に振り込みに行くと口座がないために振り込みができない。真紀にお願いして代わりに振り込んでもらう。やっとひとつ完了。

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「行きたいところがあったんじゃないの」
ひと息入れていると真紀がそう言う。そうか。時間のゆとりができたから、寄ろうと思っていたKさん宅に寄れるか。動揺もおさまってきて冷静に考えられるようになって来た。1時間くらいなら寄れそうだ。改めて都合を聞いて、向かってみることにする。

kさん宅はフェリーターミナルへのルートからかなり離れていた。滞在時間は半分になりそうだ。しかし来てよかった。自分とは違う分野でいい仕事をしている方の環境も話も面白い。未来に向けて充実している若い世代のエネルギーも心地よい。不思議な意気投合感を感じて、話し足りない気分を残しながら、そこを後にした。

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沈んだ気分はすっかり晴れて、軽やかな運転でフェリーターミナルに向かっていると携帯の呼び出し音が鳴る。電話がかかってくるのは珍しい。真紀が代わりに出る。
「えっ、欠航?」
出航予定の船でコロナ感染が出たとか。代わりは翌日の便に変更か、八戸行きの便にするかのどちらかと言う。翌日の便では東京でこなす用事に間に合わない。八戸に行って陸路で東京に向かうのは間に合う可能性はあるが、1日で八戸〜東京間を走り切るのはかなり難儀だ。以前は一泊してたどりついている。
「東京の用事を後に回せないの?」
東京へは帰路にも再度寄る。持って歩く荷物が増えてしまうけれどなんとかなるか。東京の次は紀伊半島の熊野に向かう予定だ。八戸から熊野まで陸路で走るのはかなり気が重い。
ふと、東京に寄らないなら日本海側でもいいんじゃないかとよぎる。前回の九州行きは苫小牧から敦賀行きのフェリーで行った。出航時刻を調べるとまだ間に合う。それで行くか。ちょうど欠航便のカード払いのキャンセルも完了したと連絡が入る。予約の電話を入れたら空きはあった。

東京行きのフェリーが出る西港からかなり離れている東港へ向かう。乗るまでは安心できない。不安を残しながら港へ着く。手続きを済ませて待機の駐車場で遅い夕飯を摂る。同乗者口へ向かう真紀と別れ、長すぎる1日を振り返る。朝のエントリーはもう随分前のことのようだ。

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