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File.08 古典芸能から、社会に「しかける」 望月左太寿郎さん(邦楽囃子演奏家)

望月左太寿郎(さたとしろう)さんの肩書きは、「邦楽囃子演奏家」。漢字ばかり7文字! 邦楽は、なんとなくイメージがつくかもしれないが、「囃子(はやし)」となると?なところもあるかもしれない。
日本舞踊の家元の長男として生まれた、左太寿郎さん。囃子の演奏とは、どんなものなのか。そして、どのような経緯で、今につながったのか。東京・三ノ輪にある、静かなお稽古場で話をきいた。
取材・文=田村民子(「伝統芸能の道具ラボ」主宰)
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(写真上)「お囃子プロジェクト」ライブより 撮影:田戸都絵

——まず、「邦楽囃子(はやし)」とは、どのようなものなのか、教えてください。

日本舞踊や歌舞伎などの舞台では、三味線や箏の入った音楽が演奏されますよね。そういう日本の音楽・邦楽を、笛や太鼓、大鼓、小鼓などの楽器で、にぎやかに盛り上げたり、逆におごそかな雰囲気を作ったり、彩りを添える役割をするのが邦楽囃子です。
「囃子」という言葉は、あまりなじみがないかもしれませんが、お祭りや盆踊りのときに、太鼓の音がドンドン!と入ると、とたんに楽しくなりますよね。そういうのを、祭囃子(まつりばやし)といいますが、その「囃子」です。

——なるほど祭囃子なら、みんななじみがありますね。ふだんは、どのようなリズムで、どんな演奏活動を行っているのでしょうか。

月によっても異なりますが、一ヶ月のうちに本番のステージが4日あるとすると、それに付随してリハーサルがあるので、だいたい8日くらいはステージに関わる感じですね。それ以外の時間は、このお稽古場で、お弟子さんにおけいこをしていることが多いです。
舞台に関わる演奏では、「黒御簾(くろみす)」と呼ばれるものも担当します。これは、お芝居などの効果音にあたるものですが、おもしろい楽器をたくさん使うんですよ。大きな太鼓で波や雨の音を表したり、鉦を鳴らしたりすることもあります。
このところは、洋楽器とコラボレーションをすることも多くなってきました。それから、多くの人に囃子を知ってもらうためのワークショップなども行っています。

——古典的な演奏だけでなく、若い人同士でユニットを組んで、ユニークな活動もされていますね。

囃子をする人のことを、私たちの世界では「囃子方(はやしかた)」という言い方をするのですが、いろんな流派の囃子方が集まって作った「若獅子会」や、踊る人、三味線を弾く人たちと組んだ「和っはっは若衆組」にも加わって、一緒に勉強をしたり公演を行ったりしています。

「お囃子プロジェクト」は、一緒に東京藝術大学で学んだ、望月秀幸さんから声をかけられ、2010年に立ち上げました。私たちが、すごくおもしろいと思っている囃子も、一般の人からすると、まだまだどういう風におもしろいのかよくわからないという存在だと思います。古典的な演奏をしているだけだと、そのあたりが、なかなか伝わらないので、「こちらから、しかけていこう」、と。
「お囃子プロジェクト」のライブは年に2回くらいのペースで開催しています。演奏だけでなく、トークもたくさんするんですよ。だいたい10曲くらい演奏するのですが、郷ひろみさんの「バイブレーション」や西城秀樹さんの「ギャランドゥ」など、昭和の歌謡曲をお囃子とミックスさせた曲も演奏しています。秀幸さんがプロレス好きなので、レスラーの入場曲もよく演奏します(笑)。メキシコ出身のミル・マスカラスの「スカイ・ハイ」なんかも、お囃子とよく合うんです。

IMG_00135(photo+by+田戸都絵)「お囃子プロジェクト」ライブより 撮影:田戸都絵

——それは、楽しそうですね! ところで、左太寿郎さんは日本舞踊立花流の家元の家のご出身ですが、どうして囃子方の道を歩まれたのでしょうか。

日本舞踊の家に生まれたこともあり、子どものころから、日本舞踊、長唄、囃子を習っていました。静岡で育ったのですが、高校生になっても、将来自分が何をしていくか、ぜんぜん決まらなかったんです。高3になって、いよいよ差し迫ったときに、どうやら東京藝術大学というところがあって、邦楽科があることを知ったんです。
邦楽科には日本舞踊の専攻もあったのですが、自分の流派と異なる流派しかなかったので、子どものころから好きだった邦楽囃子を選びました。大学では、日本の伝統芸能を志す同世代の人にたくさん会えて、とてもうれしかったですし、視野も広がりました。

——日本舞踊の家元は、継がなくていいのでしょうか…(おそるおそる)。

実は、今年(2020年)に入って父が亡くなり、この9月に家元を継承しました。このお稽古場で、日本舞踊のお稽古もしているんですよ。踊ることも、すごく好きなので、これからは囃子と日本舞踊と両方の魅力を伝えていきたいと思っています。

——そうでしたか。今は、コロナの影響で大変かと思いますが、これからどのように活動をしていきたいと思われていますか。

今年の3月は、「お囃子プロジェクト」の15回目の公演を予定していましたが、中止となりました。3月から8月ごろまでは、演奏する機会はほとんどありませんでしたね……。9月くらいから、お弟子さんのお稽古も、少しずつ再開し、公演もちょっとずつですができるようになってきています。
これからの活動については、まず、これまでやってきたことを「続ける」ということが大事だと思っています。古典芸能に対して敷居が高いと感じている人に、どのようにアプローチをしていけばいいのか、いろいろ試していきたいです。
このところ、「一般社会と、もっと関わりをもつ」ということも、積極的にやっていかなくては、めざすところに到達しないのかな、と感じています。ちょっとうまく言えないところもありますが、古典芸能は「守られようとしすぎているのではないか……」と感じることもあるんです。守られるものではなく、社会に対してどんな貢献ができるのか、そうした姿勢でいないと、だめなのではないかなと思います。
古典芸能のジャンルだけでなく、社会のいろいろな分野の人たちと、もっとお話しをしたり、お仕事をしたりする機会をたくさん作っていけたらと思っています。

板張りの床に大きな鏡。左太寿郎さんのお稽古場は、明るく光が差し込むとても気持ちのいい空間だった。鼓や太鼓、黒御簾で使うさまざまな道具もご準備くださり、音を出してもらったりしながら、話をうかがった。
左太寿郎さんは、ほわんと穏やかで、年齢の割に落ち着いた雰囲気の人だった。どうすれば、もっと古典芸能や邦楽囃子に興味をもってもらえるか。突き詰めて考えた結果、「社会とのつながりの重要性」に行き着いたところは、本当にすばらしいと感じた。

2021/1/9
お囃子プロジェクト新春コンサート
14:00開演
場所:かなっくホール(横浜市神奈川区民文化センター)
https://kanack-hall.info/

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望月左太寿郎(もちづき・さたとしろう)
東京藝術大学音楽学部邦楽科別科修了。日本舞踊立花流の二代目家元立花寿美造の長男として生まれ、幼少の頃より日本舞踊、長唄、囃子を学び現在は演奏会、舞踊公演等古典の世界で活躍している。「お囃子プロジェクト」「若獅子会」「和っはっは若衆組」と様々なグループや活動で邦楽を広める為に活動している。国立劇場主催「明日をになう新進の舞踊・邦楽鑑賞会」NHK「にっぽんの芸能」出演。若獅子会ではいくつもの賞を受賞。

Twitter https://twitter.com/satanakadaja
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*お稽古希望の方はSNSからご連絡ください。

お囃子プロジェクト公式サイト https://www.ohayashipro.com
お囃子プロジェクトチャンネル https://www.youtube.com/user/ohayashidx若獅子会チャンネル 
https://www.youtube.com/channel/UCv4Erpti3uxbhTch68g5h2A

左太寿郎1






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