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File.22 転んでは立ち上がる身体が生み出す、唯一無二の表現 アオキ裕キさん(ダンサー/振付家)

2005年に路上生活経験者を集めてダンスグループ「新人Hソケリッサ!」を結成したアオキ裕キさん。個性豊かなメンバーと共に活動を積み重ねて15年、その信念と今後の展望を聞いた。
取材・文=呉宮百合香(ダンス研究)
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(写真上)撮影:岡本千尋

——新人Hソケリッサ!(以下「ソケリッサ!」)の普段の活動を教えてください。

週1、2回稽古をして、メンバーと賑やかに過ごすというのが基本的な活動パターンです。あとは、ソケリッサ!の活動費獲得(ソケリッサ!はたらくカラダ計画)のために依頼に応じて皆で草むしりや清掃に行くアルバイトをする程度で、それ以外では会いません。初期の頃は私生活にも関わろうとしていましたが、するとそれが作品にも影響してきてしまい、分ける必要性を感じました。芸術や踊りは、喜びや豊かさを提供するものである一方で人を傷つけるものでもあり、良い面だけではありません。この意味でも「踊りだけ」という向き合い方に徹することは大事で、それが作品の強度にも繋がるようにも感じています。福祉的な部分については、ビッグイシューや、つくろい東京ファンドといった団体に支援してもらうなどの分担をしています。
海外には、福祉とアートをひとまとめにした社会活動を行う団体もありますが、自分はやっぱり「観て面白いか」という強度にこだわりたいし、既存の括りに収まることなく、普通のダンサーと並ぶフェスティバルにもソケリッサ!のおじさんたちの踊りを提供していきたいです。

(1) Photo by 岡本千尋

(2) Photo by 岡本千尋撮影:岡本千尋

——15年の活動の中で、感じていらっしゃる変化はありますか。

現代美術家の山川冬樹さんや和田昌宏さん、小説家の町田康さんなど、出会う人の力によって自分たちが成長していくことを感じます。また日々の稽古を公開することで、誰もいない環境でやるよりも本気度が高くなり、一回一回の踊りにも集中力がついてきました。
昨年と比べると今は3人ほどメンバーが少ないですが、休みたくなったら休んでもらい、辞めたかったら辞めてもらうのも、実はすごく大事なことです。人は変わっていくし、色々なことに飽きていくのも当たり前ですから。おじさんたちの決断や意思を尊重したいです。
客観的に自分たちの活動を省みて、失敗して転び続けること、そしてまた立って進んでいくことにソケリッサ!の価値があるのではないかと考えるようになりました。世の中には成功術を謳った自己啓発本がたくさんありますが、今必要なのはむしろ「転んだ人が何を感じ、どう生きているか」であるような気がしています。

——振付はどのように?

動きの振付ってある意味「強制」で、個人を消していくことと裏表です。自分がやりたいのは逆で、おじさんたちの身体をいかに見せ、個々人を強調していくかなので、言葉による振付にしています。例えば歯のない口を開けているのが見たいと思ったら「太陽を飲んでください」など、想像を喚起するような言葉をひとつ渡して動いてもらいます。するとその人の骨格に見合った形が生まれ、動きに必然性や強度が出てくるのです。
人って、爪の先を気にしていたかと思えば急に宇宙のことを想像したりと、色々な所に瞬時に飛べるじゃないですか。こうした頭の中に渦巻いているあらゆることを踊りで外に出していきたくて、この方法を取っています。

——2017年からは路上でのパフォーマンスにも力を入れていらっしゃいますね。

劇場になかなか足を運べない人や、他の路上生活の人に提供するために始めましたが、まだまだ続けていく必要性を感じています。基本的には応援してくれる人が集まる劇場とは異なり、屋外の場合は観客の反応がとてもリアルで面白いです。子供が急に入ってきたり、関係なくその場に佇む人や通り過ぎる人がいたりというのも実は大事で、それによって踊りをごく日常的なことと捉える人が増えると良いなと願っています。
ただ、屋外で踊れる場所は結構限られているのです。自分で足を運んでプレゼンしてお願いしてという形でこれまでやってきましたが、踊れる場所をまとめて管理したり、仲介の役割を担ったりする機構や団体ができても良いのではと感じています。コロナで、屋外は需要が出てくると思いますし。

——おじさんたちの身体をどのようにご覧になっていますか。

今ある社会が自分たちの身体を拘束しようとする力に左右されることなく、自然にいられるかどうかを大事にしています。生き物として感覚的にやりたいと思うことを、社会のルールに飲み込まれて失ってはいけない。自分にとってそれを見極める鍵となるのが、路上でさまざまなことを五感で感じているおじさんたちの存在や動きなのです。
先日まで代々木公園で稽古をしましたが、鬱蒼としたリアルな自然で、路上生活の人や怪しいカップル、疲れて休んでいる人とかがちらほらいて、良いんですよね。お洒落な若者ばかりが集まる過度に人工的な公園とは対照的な、全てを受け入れる公園の姿で、とても大事だなと思いました。オリンピックに向けて街をどんどん綺麗にしてしまって、色々な人が見えなくなっていますが、本当の発展はやっぱりそこではないでしょう。
なんだか皆、色々なことにやたら介入して整備をしたがりますよね。でも、もっと個々人を知って信頼すれば楽になるし、ルールも要らなくなるのではないでしょうか。自分もおじさんたちを放っています。管理しすぎないことが重要だと思います。

——コロナ禍により社会システム全体が大きく揺らいでいる今、踊りにはどのような可能性があるでしょうか。

9.11のテロの時にニューヨークにいて、その衝撃による価値観の変化がソケリッサ!の結成に繋がりましたが、あの時と感覚がすごく似ています。痛みをきちんと受けとめて、自分の中にそれまでなかった感覚を探し求めながら次に進んでいくことが大事だと思っています。
踊りを現代美術として捉えていくことも、ある意味では必要なのかもしれません。砕いたり掘り下げたりと見せ方を工夫することで、ナマモノとしての限界を超えて踊りを繋いでいけるのかもしれない。展示や映画といった、時間や場所を超えて届けていける形はとても良いですね。その際、オンライン配信で瞬間的に提供するのも良いですが、もっと先の未来に向かって残していくという視点も必要だと思っています。年の初めに、そんなダンス映像を一つ撮りたいです。

——今後やってみたいことはなんですか。

広東のTIMES MUSEUMでオンランワークショップをするためにリサーチをしているのですが、違いを面白がることの良さを再認識しました。同じ貧困や「貧しい身体」でも、文化によって状況が全然違います。だからインドやアフリカのような、日本よりも不便さがある所で一緒に踊った時に何が見えるのか、ずっとやってみたいと思ってきました。コロナが落ち着いたら絶対にまずそれを実現します。
また、小学校にもっと踊りを提供したいです。今興味があるのは、北海道で行われている「アーティスト・イン・スクール」という試み。学校の空き教室でアーティストが数か月間滞在制作し、休み時間等に覗きに来た子供たちと交流するという居方がとても良いなと思っています。ダンサーに仕事を提供することにも繋がりますし、目的を持たずに何か作り始めることがあるアーティストのやり方や存在が「学校」という場で肯定されることは、双方にとってプラスになる気がします。路上生活の人の中には小学校の時点でドロップアウトした人もいたことを思うと、こういった根源的な部分を常に意識して活動していく必要性を痛感しています。

ソケリッサ!に密着したドキュメンタリー映画『ダンシングホームレス』は、2月4日まで京都の出町座で公開中。街の真ん中で、全身の感覚を開いて生き生きと踊る彼らの姿は、社会のシステムに飲み込まれて強張った私たちの身体と狭窄的な価値観を、内側から揺さぶってくる。ダンスを通じて真の自由と豊かさを取り戻すために、アオキさんは独自の挑戦を続けていく。

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アオキ裕キ(あおき・ゆうき)
振付家。タレントのバックダンサー業などを経て、「日々生きることに向き合わざる得ない体」を求め、路上生活経験者を集めた「新人Hソケリッサ!」を2005年より開始。2004年NEXTREAM21最優秀賞、コニカミノルタソーシャルデザインアワード2016グランプリ受賞。一般社団法人アオキカク代表。活動を追ったドキュメンタリー映画「ダンシングホームレス」全国公開中。

アオキプロフィール写真


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