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File.30 聴いて、奏でて人は繋がる 高松聡美さん(打楽器・マリンバ奏者)

打楽器奏者の高松聡美さんはマリンバを中心とする音楽活動で長年にわたって地元・北九州市の文化に息を吹き込んできた。「たくさんの木の板」を意味するマリンバはアフリカ発祥の木琴で、幅広い音域と深い音色が魅力。30年以上にわたる教育や高齢者施設での音楽活動について聞いた。
(取材・文=鉢村優)

——北九州のご出身ですね。これまでの活動を簡単にご紹介いただけますでしょうか。

門司港出身で、大学は山口ですがあとはずっと北九州です。オーケストラや吹奏楽団で演奏したり、「北九州マリンバオーケストラRIM」のメンバーとして、地域文化活動、街づくりに貢献してきました。学校訪問芸術鑑賞コンサートや、高齢者・障がい者施設でコンサートやワークショップを行ったり、保育園や小中高校で合奏の指導や指揮、編曲も行っています。
音楽教室も運営しており、門司港と小倉のちょうど中間くらいのところにある夫の洋菓子店と同じ建物でやっています。全国的にも珍しいマリンバのジュニアアンサンブルも主宰しています。「マリンバフォルテジュニアズ」は20名あまりの幼稚園から大学生の子どもたちや障がい者によるグループで、24年間続いています。

—— 長きにわたって地元の文化をリードし、支えてこられたと思います。特にマリンバフォルテジュニアズについて伺いたいのですが、これまでの24年間を振り返ってどのように思われますか。

私としては地元に育ててもらったと思っていて、音楽で恩返しがしたいという思いで活動しています。24年もやっていますと、子どもだった人が親になり、自分の子どもにもマリンバを……などという話もあったり。設立当時はほんの数名でしたが、すそ野が広がってきてすごくうれしいです。雨の日も風の日も、入院した時も(笑)、毎年演奏会を行っていたのですが、昨年はコロナで初の中止となってしまいました。大切なライフワークの一つです。

マリンバフォルテジュニアズ_1マリンバフォルテジュニアズ

—— マリンバという楽器自体がピアノほどメジャーではないと思いますが、さらにアンサンブルであることの意義はどんなところにあると思われますか。

私も子どものころはピアノをやっていて、ひたすら一人で黙々と練習していたのですが、小学校高学年でマーチングバンドに入り合奏の楽しさを知りました。それまで保健室にこもりがちだった私がマーチングを通じて明るくなり、友達がたくさんでき、学校が大好きになりました。それからずっと人とアンサンブルする事が楽しくて……。ピアノより目立つ楽器がいいな、という下心もありながら打楽器を選びました。マリンバの音が重なった時の重厚感が大好きです。合奏の練習、準備、もちろん本番、打ち上げ……すべてが楽しいです。今はたくさん集まってワイワイ練習ができず寂しいです。

——ご自身で教室をなさるほかに、「アートサポート福岡」の登録音楽家でもいらっしゃいますね。登録のきっかけと活動のあらましを教えていただけますか。

「アートサポート福岡」は、福岡県春日市音楽家派遣事業「音楽の玉手箱」の登録音楽家だった私の演奏を聴いて頂いたのがきっかけで、声をかけていただきました。
活動は高齢者施設の利用者さん、ご家族、職員の方々を対象とした「認知症カフェ」や小学校の体験講座などです。鑑賞だけでなく体験を盛り込んだプログラムが得意です。コロナ禍の現在ではできないこともありますが、高齢者の方向けには例えば「マリンバ体験」として実際にバチを持って演奏していただきます。皆さん積極的に楽器の前に来られて、「メリーさんの羊」など熱演してくれます。車いすの方も、杖を持った方もほぼ全員がやりたいとおっしゃいます。マリンバは叩けばポンと音がするところが魅力でとっつきやすいようです。
そのほかの体験プログラムはネーミングも楽しくなるように工夫していて、例えば「心を合わせてパンパンパン」は紙鉄砲を音楽に合わせてパン!と打ってストレス解消!で盛り上がります。「振って振って踊っちゃお!」はペットボトルにビーズなどを入れて作ったシェーカーでいろんな振り方で演奏します。「え?体が楽器に?」は手拍子やひざなど体を使ってボディーパーカッションなどなど……。

——ご自身から、しかもほぼ全員がやりたいとおっしゃるのは驚きです。誰でもすぐに音が出せる打楽器だからこその体験プログラムですね(音が出せても奥が深いのはもちろんなのですが)。しかもマリンバは多くの打楽器と違って音階があるのもメリットですね。

はい、演奏に合わせて歌ってもらうこともあるのですが、言葉が出にくかった方が大声で歌っていたり……音楽療法的な効果もあるのでは?と思っています。私は大学ではどちらかというと太鼓専攻だったのですが、こうした活動を通じて音程のあるマリンバの魅力に取りつかれました。

—— AUFの応募書類で、「コロナで距離ができた人と人を繋ぐために芸術文化は大きな役割を担う」とお書きでした。こちらについて、ぜひ詳しく伺えますでしょうか。

アートサポートふくおかの活動では、これまで本能的に(笑)やっていた音楽活動を文章などで形にしていただいており、自分のやっていることが何なのか見えてきました。
以前お客様から「先日夫が亡くなり後を追いたい気持ちでいました。今日のコンサートに友達から誘われ、重い足取りで来ましたが、来てよかったです! 明日から生きていく希望が湧きました!」と言われたことがあります。こんなエピソードからも音楽は心をつなぐと確信しています。コロナ禍で行われる最近のコンサートでは、涙を流して聴いている方を多く見かけます。
昨今は施設の訪問演奏ができないので動画で演奏をお届けしていますが、お年寄りの方々が演奏を聴いて私に感想を書いてくださるなかで、昔を思い出したり、お仲間と感想を共有したりされている。コロナ禍で遠くなっていた人と人をつなげたのでは……と思います。演奏を聴いていただいた方々からは、「現在の嫌な事ばかりの霊肉自粛ライフ。音楽によって精神的にも肉体的にも疲労回復。 ミュージックを取り入れる効果多大と実感しました」という声や、「心が乱れる時に鎮静剤代わりに見聞きさせていただきました。 あなたは音楽という生き抜くための大変良い道具を持っていますね」というお言葉をいただきました。

——最後に(2021年)2月11日に公演が予定されている北九州マリンバオーケストラRIMについて少し伺えましたら幸いです。緊急事態宣言のため客席定員が上限50%となり、残念ながらチケットは売り止めとのことですが、RIMの魅力を改めて教えていただけますでしょうか。

RIMは北九州に住んでいたり、北九州に縁がある奏者たちによる地元愛に溢れたプロのマリンバ集団です。マリンバのために書かれた作品を演奏するほか、オーケストラの楽曲をアレンジしてマリンバ20台という大編成で演奏します。年齢も幅広く、私の師匠も、マリンバフォルテジュニアズ出身の弟子もいます。昨年はコロナギリギリの2月にマレーシアでの公演も果たしました。ますます羽ばたきたいです。

言葉の出にくかったお年寄りが演奏に呼応して自ら歌い、楽器を奏でる、というエピソード。歌いたい!と思ったからこそ言葉が出たのかもしれない。新しいことをやってみたい、素敵なことに触れてみたい、という積極的な気持ちの生まれない日々がどんなに辛いか、コロナ禍の自粛生活で共感される読者も多いと思う。そして、音楽を聴いて・奏でて、人はつながることができるということ。物理的に離れていても、離れている今だからこそ、心をつなぐ音楽や文化が必要なのだと思わされる。目の前の一人ひとりに語りかける地道な活動から、人間の根幹に触れる音楽と文化のあり方を教えてもらった。

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高松聡美(たかまつ・さとみ)
山口芸術短期大学音楽科打楽器専攻卒業。北九州市消防音楽隊を経て、1994年よりフリーの打楽器演奏者としてスクールコンサート、イベント、オーケストラに客演。中高等学校の吹奏楽の講師のほか、「音楽工房 ぼっこ」を経営し、後進の指導にあたる。春日市ふれあい文化センター音楽家派遣業「音楽の玉手箱」登録音楽家、アートサポート福岡登録音楽家、北九州市音楽協会理事。2014年より北九州マリンバオーケストラRIMメンバー。

音楽工房 ぼっこ http://www.hinata-s.jp/bokko/

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