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File.05 演者と裏方、どちらの立場も楽しい 鈴木栄治さん(ミュージシャン)

2000年代なかばには、フジロックやライジングサンといった人気フェスの常連で、海外ツアーも成功させてきたバンド、Dachambo(ダチャンボ)も、2021年で結成20周年を迎える。そんなDachamboのベーシストとして活躍する一方、ソロ活動や音楽制作の現場にも携わる鈴木栄治さんに、京都・鴨川ほとりのカフェで話を聞いた。鈴木さんは、今年(2020年)10月に、5枚目のソロアルバム『hakoniwa / eiji trio band』もリリースしたばかり。
取材・文=竹内 厚(編集者/ライター)

——ジャムバンドとして紹介されることも多いDachamboですが、ご自身ではどのようなバンドだと說明されていますか。

ジャムバンドだ、人力トランスバンドだって言われますけど、僕はジャムという意識もあまりなくて。Dachamboはいろんなジャンル出身のメンバーがミックスされていて、演る音楽も上がる舞台やお客さんの反応とかにあわせて、うまく使い分けています。総じてダンスミュージックと言えるだろうけど、メンバーも行き先のわからない深いジャムセッションを演るときもありますし。昔はとにかく勢いよくやってましたが、最近ではBPM自体も落ちてきて、サウンドの幅が広がってきたなと思います。

——ライブ主体のバンドだと、コロナによる影響は大きかったのではないでしょうか。

僕以外のメンバーはみんな関東近辺に住んでいて、それぞれ家族もいますから、Dachamboとしての2020年の活動は正直、止まっています。来年は20周年だから、なんとか軌道に戻したいというのが本音ですね。
僕自身のことでいえば、2011年の3.11後に関東を離れて京都へ移ってきて、京都の音楽シーンにもちゃんとつながれているし、自分のソロアルバムも出し続けられているから、コロナだろうが何だろうが、僕としてやれることは何も変わらない。音楽をつくることしかないしクリエイティブは止まらないので。

画像1Dachamboのライブ風景。アメリカの「Oregon Eclipse2017」にて

——2020年10月にアルバム『hakoniwa / eiji trio band』をリリースされましたが、これはコロナ禍より前から制作されていたものですか。

そうですね、歌までは入れてなかったけど、ある程度はつくっていたもの。世界中がコロナになって、アルバムを出したところでツアーもできないだろうし、どうしようかなと思ったのですが、参加してもらった人たちからも「やりましょうよ!」と言ってもらって、完成させることにしました。やっぱり、いろんなことがあった2020年の録音と内容にもなっているので、リリースしてよかったと思います。将来、2020年に何をやっていたかを振り返るためのものにもなったかなと。

——アルバムでは、アメリカ西海岸のアーティスト パパ・ベアさんと競演した曲「Bridging the Distance」も収録されていました。

ベアさんは春に来日予定だったのが、コロナでその機会がなくなってしまいました。そこで、1曲ギターを弾いて送ってもらって、こちらでつくっていた曲に足して仕上げました。ベアさんが暮らすロス郊外の映像と、京都の僕のスタジオの映像をつなげて制作したミュージックビデオも公開しているので、見てもらえたらうれしい。今年しか通用しないMVだとは思うけど、テクノロジー的にはもうとっくに遠隔で曲やMVまでつくることができるんですね。

——ゲストミュージシャンとして、曲ごとに3人のシンガーやラッパーが参加しているのも今回のアルバムの特徴です。

ソロで出した前の4作は歌ものアルバムで、自分でアコギをひいて歌ったりしていましたが、やっと今回はベースに戻ってきました。一時期、僕がベースにあまり興味を持てない時期もあったけど(笑)、やっぱり自分がいちばん表現しやすいのはエレクトリックベースなので。けど、20代の頃のように速弾きとかのテクニックを見せるのも違うなと思っていたから、ゆるやかなアンビエントの作品になりました。
ラップを入れてくれた3人は、それぞれ違うタイプで世代も異なるから、10月に京都でだけレコ発ライブをやったんですけど、客層がミックスされてすごく面白かった。今、世代間やジャンル間の分断が如実にあると思うけど、もうちょっとそこをつなげないかなとも思っています。

——ベーシストである鈴木さんのアルバムですけど、特にベースが目立つというような曲はありませんね。

だけど、今回のアルバムは、曲づくりも全部ベースで書いてますよ。コード進行はキーボードの人(家口成樹さん)とすりあわせながら好きにやってもらって、それぞれの音を入れた後にまた最後はベースで調整して。音の多いところ、足りてないところ、自分のベースのサジ加減で最後はなんとかなるんですよ。

——そのあたりはベーシストの特性なのか、あるいは鈴木さんのキャラクターなんでしょうか。

どうなんだろう。ステージの真ん中にベースがいるのも全然ありだと思うけど、今回は全体として“きれいな絵”をつくりたかったので、ベースをフィーチャ―する意識はまったくなく。バンドマンやミュージシャンって自分のルーツや長所を強調する人も多いけど、そもそも僕はそれが全然ない。要求されたら、ジャズでもファンクでも歌モノでも民謡でも、それに合わせて楽しくやれるんです。
あとは最近、映画音楽(『鬼ガール』2020.10.16劇場公開)の仕事をやった影響もあるかもしれない。映画音楽は、音楽が主張する必要はなくて、場合によっては観客が気づかないくらいでちょうどいい。自分のエゴは邪魔なんですね。

画像22019年 ヨーロッパ マルタ共和国にて

——ちなみに、映画『鬼ガール』にはどういった経緯で関わられたのでしょう。

『鬼ガール』の音楽プロデューサーは梶原徹也さん(ex.THE BLUE HEARTS)なんですけど、梶原さんとは京都のFRYING DUTCHMANというバンドに一緒にリズム隊として参加していて、そういうご縁もあって今回、梶原さんから声がかかりました。『鬼ガール』で使う音楽のプリプロ(事前レコーディング)はすべて京都の僕のスタジオで録ったので、すごくいい経験になりました。

——鈴木さんは音楽制作の仕事もされていますね。名刺の肩書きにもステージマネージャー、イベントプロデューサーとあります。

それは、Dachamboでフェスを何度も主催していた経験がもとになっています。バンドが主催するという形では日本でもかなり早かったと思うんですけど、2011年にやったDachambo10周年のイベント(『HERBESTA’11』@長野県こだまの森)では1万人以上の観客を集めました。ブッキングから行政とのやり取り、ステージの組み方、音響や照明のことなど、フェス運営のノウハウがだんだん自分に集まってきて、だんだん大小いろんなフェスやイベントの相談を受けるようになりました。

——たとえばどんなイベントの制作をされていますか。

富山県黒部市の『ホットフィールド』というフェスは、2018年まで毎年、制作を担当していました。完全に制作サイドなので、ブッキングから、イベント当日は本部に詰めてアーティストのアテンドなんかもやってました。イベントによっては、ステージまわりの仕事も受けて、舞台監督や音響や照明を揃えるということもやってますね。

——いわゆる裏方仕事だと思いますが、それは普段の音楽活動にも影響があるものですか。

当然、イベントやステージはミュージシャンだけで成り立たないわけで、自分で裏方をやってみるとイベントの全体もわかるようになってくるから、やっぱり自分がステージに立つときの気持ちが違いますね。ただ結局、ステージに演者として立つこと、袖でスタッフとして見守ること、どちらも生み出そうとしてるものは一緒なんですね。いい1日をつくって、オーディエンスの笑顔を引き出したいってことだから。僕は、どちらの立ち位置でも楽しめます。

——ありがとうございます。最後に、これからの予定なども教えてください。

2021年はDachamboの20周年なので、大々的に活動したいですね。ソロアルバムも出したところですけど、次は何をしようかなってもう考えています。『hakoniwa / eiji trio band』のMVもまだ何曲かつくる予定にしています。やることはいっぱいあるんですよ(笑)。あとは、コロナが収まってきたら、国内も海外にも出かけていきたい。まだまだ行ったことない土地がたくさんあるから。

画像32017年、日本人バンドとして初参加となった、ネバダ州の砂漠で開かれるフェス『バーニングマン』での一コマ

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鈴木栄治(すずき・えいじ)
2001年よりJAM BAND『Dachambo』のメンバーとして9枚のアルバム、3つの映像作品を発表。FUJI ROCK FESTIVALをはじめ、全国数々のロックフェスに出演。3度のアメリカツアー、4度のオーストラリアツアーを成功させ海外フェスティバルのメインステージにも出演。10年より屋号を『鈴木舞台』と定め音楽イベントの制作業務を担当している。11年 よりシンガーソングライターとして4枚のソロアルバムを発表。20年秋公開の映画『鬼ガール』の音楽を担当。
公式サイト http://dachambo.com/eiji/

eijiアー写


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