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ASML Holding(ASML)24’2Q決算前チェックポイント

来週7/10(水)からはいよいよ2Qの決算シーズンが開幕いたします。
今回は半導体製造装置(EUV露光装置)に於いて世界一のシェアと技術を誇るオランダの企業ASMLの決算(7/17予定)前に押さえておくべき点や、
現在の株価は果たしてどこまで織り込まれているのかを見て行きたいと思います。

そしてもう一つ気になる点が中国市場、ASMLの2023年通期の売上で中国は全体のおよそ26%を占めるという台湾に次いで第二位の市場でした。
これは中国が米国の規制が入る前に駆け込みで注文をしていた点もありますが、韓国や米国を上回る市場だった故に今後の中国市場に俄然注目が集まります。
※現在はオランダ政府によって中国向けの機器はライセンスを取得しないと出荷できず、米国政府の影響もありEUVはもちろんDUV(非EUV装置)もライセンス要件の対象になっております。

一番左から2017年、2018年~一番右が2023年の国別売上高推移表

ASMLの大口顧客はTSMC、Samsung、Intelなどファウンドリー企業がメインですが、この3社で事業全体のおよそ80%を占めているという偏重型のビジネスモデルです。
下記にある通りEUV(Extreme Ultravioret)露光装置事業がASMLの収益を牽引しており、新型露光装置NXE:3800E(1億8000万€)や新型高NA露光装置EXE:5000(3億5000万€)の出荷台数が鍵となっております。
※ArF分野(Argon Fluoride Immersion)の売上の大半は部品と消耗品であり、新しい機械ではありません。

ASML 売上比率

※個別銘柄に言及する内容が含まれますが筆者の経験と知識を基に見解を述べているもので売買を推奨するものではありません。
この先に進まれる方はこの件に同意されたものとみなさせていただきます。


2022年ASML 投資家向けプレゼンテーションによるガイダンス

アナリストが今後のASMLの収益予測を立てるにあたり、2022年の投資家向けプレゼンテーションの資料を基にしている事が多い様ですのでまずはこちらに掲載し、2023年の年間収益と比較して見て行きたいと思います。

ASML 2022年投資家向けプレゼンテーション収益予測

2025年の総売上高は中央値で350億ユーロと見積もられています。グレーの列は2021年の予測を示し、水色の列は2022年に更新された予測です。さらに、2025年の売上総利益率は約54%から56%になると予想されています。2023年末のASMLの総売上高は276億ユーロ、システム売上は219億ユーロ、粗利益率は51%でした。

2024年第1四半期の連結決算における売上総利益率は51%で、前年と変わらずでした。営業利益率は26.3%で、640ベーシスポイント減少しました。当期純利益率は23.1%で、590ベーシスポイントの低下を見せました。

ASML 23’1Q~24’1Q業績推移

そして以下のグラフでは24’1Qのフリーキャッシュフローが676M€のマイナスになった事を示しています。以下にロジャー・ダッセンCFOの決算説明会でのコメントを抜粋して掲載します。

ASML 23’1Q~24’1Q キャッシュフロー

第1四半期のフリー・キャッシュ・フローはマイナスとなりましたが、その主な要因は、前四半期に比べて頭金が減少したことと在庫が増加したことです。 現在の環境では、顧客は収益性の回復とキャッシュポジションの強化に努めており、当社は引き続き顧客に対して一定の支援を行っている。

※この支援とは頭金の額を下げる事で、結果的にASML側のキャッシュフロー悪化につながります。

在庫の増加は、来年の需要増に備えた生産能力増強計画の一環として、High NA(Numerical Aperture:開口数)を含む原材料の受け入れ量を増やした結果である。

〈この後2025年~2026年に向けて納品予定の最新EUV露光装置生産に向けての在庫を確保している為、一時的にキャッシュフローが悪化しているものと見られますが次世代チップが大量生産される未来を考えれば有効な先行投資と見れるでしょう〉

24’2Qガイダンス、24年通期ガイダンスと現在の株価の織り込み


経営陣は、2024年第2四半期の総売上高を、昨年の第2四半期の69億ユーロから13.8%減の59億5,000万ユーロと予想した。
2024年の売上高は、前年の276億ユーロと同程度になると予想している。
この予想が維持されれば、経営陣は2024年下半期に約160億ユーロの売上を見込んでいるが、これは無理な注文かもしれない。
しかし、ロジャー・ダッセン最高財務責任者(CFO)は、「予想される好調な下半期 に比べ、上半期が比較的低水準であったことは、 予想される業界の景気後退からの回復に沿ったものである」と述べている(強調)。

ASML 24’2Qガイダンス及び24’通期ガイダンス

もし下半期の回復が失敗に終わったり、専門家の予想よりも弱い場合、その企業は2024年の年間ガイダンスを下回るリスクがある。

第1四半期の売上が予想を下回ったことで投資家は不安になっており、ウォール街は今後数四半期にわたって売上の達成度に敏感に反応すると思われます。その為現在の株価はどこまで織り込んでいるのか・・・!?
を予想してみたいと思います。

ASML 7/5時点株価チャート

株価が窓を開けて大きく上昇した6/5、この日はTSMCとSamsungに対して最新高NA露光装置(EXE:5000、1台3億€~3億8000万€)が年内に出荷されるかもしれないという報道が出た日です。という事は現在の株価は2024年の業績をほぼ織り込んだと解釈するのが自然なのではないでしょうか。
この為上記した通り決算前に期待だけでこの銘柄に飛び乗るのは非常に危険かもしれません。

この理由の一つにASMLが昨今導入している高速出荷プログラムが背景にあります。これは出荷前のテストを省き納品速度を速めるプログラムでユニットの最終テストと検収は顧客先で行われます。
迅速な出荷プログラムの欠点は、顧客がユニットを正式に受け入れるまで収益認識が遅れてしまい結果支払いが遅れASML側での売上計上の時期がずれる可能性がある為です。

つまり発表された額面上で出荷された製品代金が計上されない可能性がありこの点を知っておけば仮に決算発表で大幅な売上未達が出たとして投げ売られたとしたら、買い増しをするという選択肢も生まれると思います。

対中国ビジネスについて

決算資料によるとASMLの24’1Qの対中国向けの売上比率はなんと全体の約49%と約半分を占めている様です(23’4Qは約39%)
これは周知のとおりオランダ政府と米国政府による輸出規制の強化による反動で、最新露光装置が買えない分レガシー装置を大量に購入しており中国市場の需要が依然としてかなり強い事を示しております。

同時に中国政府は国内半導体産業への投資を拡大させており、EUV開発ではまだ遅れをとっているかもしれませんが、Huawei、中国の大手エッチング装置メーカーNaura(顧客にはYMTCやSMICが含まれる)、SiCarrierなど複数の企業が、代替技術を開発するために協力していると報じられております。

ASMLの経営陣は今後も中国向けのビジネスは問題ないとの見解を示している様ですが、政治的な側面が多分に絡んでいる為過度に楽観視はできないかもしれません。

とはいえ中国企業はASMLにとって大事な顧客であることは間違いないので、今後も規制の合間を縫って取引を続けて行き貴重な収益の柱になってくれる点は期待したいですね。

※中国市場はいずれ細っていくかもしれませんが、その前に多方面に販路を拡大する事によって減収のリスクをヘッジしてほしいと思います。

まとめ

現在出ている情報をもとに決算前のポイントとしてまとめさせていただきましたがいかがでしょうか、参考になりましたでしょうか?

冒頭に書いた投資家向けプレゼンテーションは今年の11月に開催される様ですのでその際2030年に向けてのガイダンスが出されると思われます。

その際新たな受注状況、EUV市場の今後の見通しなどの指標が示されると思いますので今後の業績予想はこの数字が基になるでしょう。

EUV露光装置は特許の関係もあり2030年まではASMLしか製造ができない製品ですので、業績は需要というよりASML側のサプライヤーとしての供給能力に左右されるという事になります。

以下は業績を左右する最新露光装置の製造目標推移です。

ASML EUV露光装置生産、出荷目標と価格

2028年までのロードマップとして最新露光装置NKE:3800E(1億7200万€)を年平均成長率(CAGR)22.5%で製造出荷、最新高NA露光装置EXE:5000(3億5000万€)を年平均成長率77.8%で製造、出荷していく目標を掲げております。
市場の川上にいるASMLがこういった強気のロードマップを出すという事はその先にいるTSMC、NVIDIAや数多の関連企業にとってある程度強気の見方ができるのではないでしょうか。

この意味で私はASMLの現在の業績や近未来のガイダンスよりも数年先の市場動向の方が重要だと思っており、今年11月に開催されるASMLの投資家向けプレゼンテーションは俄然注目したいと思っております。
※ここでAI半導体市場の今後の動向が見える可能性がある為です。

最後までお読みいただきありがとうございました。
17日の決算発表後にまた続きを書きたいと思います。

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