想いを形に
〜選択肢〜
昔、東京へ仕事探しに出たことがあります。
どうすれば絵を描く仕事に就けるのか模索していたということもあります。その時は既に写真の仕事を経験していました。その世界にはボクの想い描いたような生活はなく、撮影の予定が入れば休日もなくなるような日々の中で希望を見出せなくなっていました。軌道修正の必要を感じていました。いくらか社会の厳しさらしきものも経験していたもののまだ夢を捨てることも出来ずもがいていたのです。ボクは美術系の学校で学んだことがないのでどういう仕事を経験するかによって、夢の実現がかかっていると思っていました。
東京へ行ったのは、言ってみれば思いつきの苦し紛れです。デザインの仕事に関われば少しは絵を描く機会もあるのではないかと思っていました。
車で東京入りしたものの仕事探しと言えばハローワークくらいしか思いつかないのでコンビニで地図を買い、一晩過ごすために健康ランドのような施設に一泊。今でもそうですが、東京でデザインの仕事を探すならどこがいいとか言う知識は全く持っていません。夜が明けて駆け込んだのは町田辺りのハローワークだったと思います。
右も左も解らないのでまずは相談窓口に行って開口一番「デザイン関係の仕事がしたいんですが。」と言ってみました。
担当者もいささか困惑したようでした。
「あのねぇ。一言でデザインと言ったって商業デザインとか工業デザインによっても違うし…ほら、パン屋さんのパンだってデザインなんだよ。」
「絵が描きたい。」
たったそれだけのことだけしか考えていませんでした。ハローワークの職員さんの言葉には眼からウロコがポロポロ落ちました。言われてみればそうなのです。形あるもの全てにデザインがある。
「さすが東京…そんなにたくさんのデザイナーが活躍しているなら、ボクの仕事もあるかもしれない。」
若さゆえの過ち…どこまでも脳天気。
そしていくつかの質疑応答の後、職員さんが数件のデザイナー求人をピックアップしてくれました。ところが、その内容を聞いていたら急に現実に引き戻されました。
「やっぱり東京だって甘くない。」
当たり前です。
直前までのポジティブさはどこかへ行ってしまい気持ちが萎んで行くのを感じました。でも、せっかくここまで来たのです。思いつきとは言え、許された時間の中で最大限の努力をして、せっかくのチャンスを活かそうと思いました。
職員さんのピックアップしてくれた求人の中から一件に絞り込んで問い合わせしてもらいました。アポが取れたら滞在期間を延ばして面接まで行けるでしょうか。ちなみに財布事情は、帰りのガソリンと高速代くらいしか持っていなかったと思います。
電話で問い合わせする職員さんの様子を固唾を呑んで見つめるボク…。
程なくして職員さんは電話を終え、ボクに向き直ると告げました。
「なんか…数日前に決まっちゃったらしいんだよねぇ。求人を取り下げてなかったんだって。」
がっかりしたようなホッとしたような…。
「解りました。ありがとうございます。今日はこれで帰ります。また改めて…。」
もう二度と来ないであろうことは職員さんもお気づきだったろうと思います。
そしてボクはそのまま帰途に就きました。
「また東京に来よう…。」
そんな想いとは裏腹に苦手意識が芽生え始めていたかもしれません。
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ご精読ありがとうございました。
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