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汚れた手(夢の話)

僕は、ある授賞式に出ていました。
 
大きな会場で、授賞者の方々が並んで挨拶をし、そのあと握手会になりました。
たくさんの来場者が、それぞれの作家に列を作ります。

僕の前にも、僭越ながら、長い列ができていました。
一番前に並んだのは、とても気品ある淑女の方でした。
僕は、ありがとうございますと手を差し伸べると、淑女の表情が急に歪みました。
 
「手を洗ってませんの・・?」
 
はっとして自分の手を見ると、ドブのような絵の具の色で汚れていました。
一気に冷や汗が流れ、服にこすり付けたりと、なんとか落とそうとしましたが、全く落ちる気配がありません。
淑女は、哀れみのような、蔑みのような目をしてその場を去って行きました。

すると、列をなしてた来場者も蜘蛛の子を散らすように去ってしまい、受賞者の中で、僕だけポツンと一人ぼっちになってしまいました。
 
僕はいたたまれない気持ちでその場を離れ、トイレに駆け込みました。
石鹸で、何度も何度も絵の具を落とそうとするのですが、全く落ちません。
赤や青、緑や黄色の、最も不快な部分が混じり合った色です。
まるで、絵画に書き留めた美しい色彩の「残骸」が、手に刻み込まれたかのように。

僕は、その場を逃げ出しました。
 
会場を出ると、先生がいました。
僕は先生に、怒りをぶつけました。
淑女のこと、来場者のこと、そしてこの汚れた手のこと。
先生は、うなずき、静かに微笑んでいました。
僕は、(この人は画家じゃないから、僕の悲しみがわからないんじゃないか)と、余計に腹が立ちましたが、先生はあまりにニコニコしているので、なんとも言えない気持ちになりました。
そして、自分が恥ずかしいな、と思えてきました。
感情は小さくしぼんでしまって、もう一度、その汚れた手を見ました。
 
・・・・
そこで、目が覚めました。
手をみても、綺麗なままです。

しかしはっきりと、汚れた手を思い出すことができます。
不快だと感じたその色は、複雑に絡み合い、独特の存在感を持っていました。
そして、何かを語りかけてくるようでした。

悲しみ、怒り、寂しさ、侘しさ、孤独、絶望・・。

世界に残す美しき色彩は、瑞々しく通り抜ける浄化のようなもの。
手に刻まれる混沌たる色彩は、葬られることを拒んだ、叫びのようなもの。

なぜだろう。何を解き放とうとしているのか。
ますます刻まれてくこの色はなんだろうか。
 
朝からずっとそのことを考えています。

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