非弁行為の弊害~会社分割コンサルティングの事例~

非弁行為の規制


弁護士法72条は、非弁行為を禁止しています。

非弁行為が禁止されている理由は、非弁行為が事件当事者の利益を害したり、社会全体に悪影響及ぼしたりすることがあるため、と説明されています。

非弁行為の具体例~会社分割コンサルティング~

上記のような趣旨で非弁行為が禁止されている理由がわかる事例として、東京地方裁判所平成23年4月27日判決・平成22年(特わ)第2060号(D1law掲載)を見てみたいと思います。
本件は、被告人ら3名が、弁護士法に違反したとして処罰された事案です。

事案の概要

本件で被告人らは、債務がかさんで事業の継続が危ぶまれる状況にある会社に対してコンサルティング業務を実施しました。

被告人らはこのような状況にある会社の経営者に対して、会社を分割して、事業継続に必要な設備や売掛債権を新しい会社に移し、負債のみを元の会社に残すことを提案しました。

助言の内容に関する補足説明

被告人らが行った助言について補足説明します。
例えば、A社という会社があったとします。
そして、A社は借金がかさんで、返済に行き詰っていました。
A社の債権者(お金を貸した銀行など)としては、貸したお金を回収する必要がありますから、どうしても返済してもらえなければ、A社が保有している土地建物や設備などを差し押さえることになります。
このように事業に必要な財産を取り上げられてしまっては、A社が事業を継続することはできず、破産に追い込まれるでしょう。

このA社の経営者に対して、被告人は、A社を分割してB社という新しい会社を作ることを提案したのです。
そして、A社には借金を残したままにして、土地建物や設備など、事業に必要な財産をB社に移すことにします。
そうすると、債権者はA社に対してしか借金の返済を請求できず、B社の持ち物は差し押さえられませんから、借金は返さないのに、差し押さえを免れながらB社で事業を継続することができる、というわけです。

ただし、以下でも触れますが、このような会社分割は許容されない可能性が高いと考えられます。

助言の結果

被告人らは以上の方針に基づいて、実際に会社分割の手続きを行いました。

起訴されているだけでも、被告人らは6社ほどに対してこのような業務を行い、その対価として1件当たり630万円から735万円ほどの報酬を受け取っていたと認定されています。

しかしながら、経営者たちは被告人らの助言に基づいて会社分割を実行したものの、新設した会社(B社)にちゃんと財産が引き継がれていなかったために、事業の再建がうまくいかなかったようです。
裁判所は次のとおり述べています。

結局、本件で被告人らに会社分割手続きを依頼した上記経営者らの会社は、必ずしも事業の再建に成功していないし、会社分割の必要性があったか疑問に感じている。

また裁判所はそもそも、

倒産寸前の会社について、負債を旧会社に置いていき、優良資産のみを新設会社に承継させる一方で、新設会社に債権が承継されない債権者に事前の説明を全くせず、クレームなどをよせてきた債権者に対しては、何らの対応もせずに放置しておくという、手法自体が詐害的・濫用的な会社分割と評価することができ、

とも述べています。

債権者としては当然、A社が持っていた財産を差し押さえたいところ、「この財産はB社のものになりましたから差し押さえられません」と言われても全く納得できないでしょう。

本判決は刑事事件ですので、債権回収がどうなるかについて詳しく述べられていませんが、民事上は、債権者がB社に対して借金の返済を請求する(B社に移った財産を差し押さえる)ことができる可能性もあると思います。

このように、被告人らの行った会社分割は、不当に債権者の利益を害しようとしたものともいえるでしょう。

裁判所の判断

少し長くなりますが、判決理由のうち、被告人らの情状について述べた部分を引用します。

被告人らは、依頼会社の資産及び負債の状況や事業の収益性等を具体的に分析・検討するなどして、事業を再建できる見込みを判断せずに、倒産寸前の会社について、負債を旧会社に置いていき、優良資産のみを新設会社に承継させるという詐害的・濫用的と評価できる会社分割を指南し、その手続きを主導して進めた。すなわち、被告人らは、多額の報酬を得ることを目的として、困っている依頼会社の経営者らに対し、会社分割をすればうまく行く旨告げ、それにより依頼会社が再生する目処については考慮することなく、何とかして会社を存続させたい、従業員の生活を守りたいという強い気持ちから、藁をも掴む思いで相談してきた経営者らを食い物にしたのである。被告人らが手がけた案件の中には、被告人らの杜撰な対応ないし不正確な助言により、新設会社に承継されるべき財産を承継できずに財産を喪失させ、事業継続に支障を生じさせたものもあり、弁護士法が非弁行為を、罰則を持って禁止している趣旨からみても実害が生じている。本件は、弁護士法の趣旨を損なう非常に悪質な犯行というほかない。

経営者の方は当然、苦しい中でも何とか事業を継続したいという強い思いを持っていたでしょう。裁判所は、被告人らがそのような経営者の思いに付け込んで、「多額の報酬を得ることを目的として(中略)藁をも掴む思いで相談してきた経営者らを食い物にしたのである」と厳しく非難しています。

本件はまさに、この記事の冒頭で述べた非弁行為禁止の趣旨、すなわち非弁行為が事件当事者の利益を害したり、ひいては社会全体に悪影響及ぼしたりすることがある、という点が妥当するケースといえるでしょう。

弁護士資格の意義

さて、弁護士としては、このようなケースを紹介することで、非弁行為はいけませんよ、法律事務は弁護士に任せないと大変なことになりますよ、と主張したいところです。

ただこのような主張に対しては、「弁護士だって横領して依頼者を食い物にしているじゃないか」という反論があり得ます。
そして残念ながら、依頼者を食い物にする弁護士がいることは事実です。

このような反論に対しては、弁護士資格を設けて非弁行為を取り締まることで、事件当事者の利益を害したり、社会全体に悪影響及ぼしたりすることを根絶はできないが、きわめて少なくすることができるという再反論が考えられます。

このあたりのことも、またおいおい考えて記事にしたいと思います。


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