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ソロモンの塗油

こんにちは!先日、国立西洋美術館の企画展、ハプスブルク展に行ってきたのですが、下の写真の『ソロモンの塗油』という作品がとても自分の好みにヒットしました

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ちなみに僕の場合、美術館で一番テンションが上がるポイントは、お目当の作品を見たときよりも、「全然知らないけどめっちゃいい!」という作品を見つけた時です。

それは多分、僕が美術館へ行きたくなる理由が、もちろん単に「綺麗なものを見たい!」とか「歴史的芸術作品を見たい!」ってのもあるのですが、一番の理由が「作品を見た時の感情を元に、自分についてもっと良く知りたい」からなのかなと思います。

だからこそ、全く新しいお気に入りの作品を見つけた時は、自分の感情を探るための新しい手がかりを見つけたようで、大収穫があったような気持ちになれるのです。それが今までになかったタイプであればあるほど、大きな収穫です。


そして今回の作品がまさにそれでした


しかし、以前簡単に旧約聖書に関する本を読んだことがあったので、タイトルを見て、ソロモン=イスラエルの王というくらいは分かったのですが、本の内容はすぐ忘れるもので

「あれ、、、、誰の息子でなにした人だっけ、、、、、。。」

となってしまいました。

なかなか聖書の人物は複雑で、頭の中で人物がごちゃごちゃになってしまっています。そこで今回は、この作品がいつの時代で、一体何を描いているのかを理解するために、

①いつの時代の作品か? ②ソロモンとは誰なのか? ③なぜ油をかけているのか? 

の3つのテーマから紹介していきたいと思います。


1.いつの時代の作品か?

→1630年頃

作者はCornelis de Vos(コルネーリス・デ・フォス)[1584-1654]というフランドル地方で活躍した画家です。当時、フランドルではルーベンスが活躍していた時代で、当時のフランドルでは肖像画で非常に有名だった画家のようです。

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心なしかソロモンを見守る人たちに温かみを感じるのは、もしかすると普段から家族の絵を描いていたからかもしれません。


2.ソロモンとは誰なのか?

旧約聖書に登場する古代イスラエル第3代の王

ソロモンとは旧約聖書に登場する古代イスラエル第3代の王で、紀元前1011年頃から紀元前931年頃の人物です。

両親はあのダヴィデ像で有名なダヴィデバテシバという女性です。

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ダヴィデ像(ミケランジェロ)

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ダヴィデ王の手紙を手にしたバテシバ(レンブラント)


旧約聖書の人物はエピソードから、どんな雰囲気の人か印象が残る気がします。例えばソロモンの父、ダヴィデであれば、ペリシテ軍の巨人ゴリアテを倒したエピソードが印象的です。

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ダヴィデ像(ドナテッロ)


それに対してソロモンには知恵に関するエピソードが印象深いです。以下の話は聖書を読んだことがない方でも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

ソロモンの元に自分の子供だと主張する母親が二人来ます。本当は片方の親の子供は既に死んでしまったため、嘘をついてます。審判を頼まれたソロモンは兵士に対して「子供を真っ二つにして、半分ずつ分け与えろ」と言いました。偽物の母親がそれを止めなかったのに対し、本物の母親が、その子を殺すなら女に渡すよう叫んだことで、子供の命を優先させた方が本物と判断され、子供は本物の母親に返されました。

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ソロモンの審判(ニコラ・プッサン)


このエピソードの他にも、経済や自然科学にも精通していたようで、知恵を武器にダヴィデを継いでイスラエルの黄金時代を築いた王が、このソロモンです。


3.なぜ油をかけているのか?

→正式に王になったことを示すため

旧約聖書において頭に油を注ぐことは、王や司祭が公式に認められた証を意味します。


実際にソロモンの父のダヴィデもこの儀式を行っている姿が描かれています。

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ダヴィデの塗油式(ヴェロネーゼ)


実はソロモンは、ダヴィデの王を継承するにあたって、本来それほど有力な血筋ではなかったようです。実際に、ダヴィデがバテシバと結婚する以前に作った子であるアドニヤという人物が、先に王を宣言していました。しかし、ダヴィデや他の支持者などからの信頼も厚かったことから、最終的に、ソロモンが王位を継承しました。つまり、まさに今この絵画に描かれている瞬間に、ダヴィデを継ぐ王がソロモンに決定したことになり、ソロモンだけでなく、周りの支持者にとっても非常に劇的な瞬間だったに違いありません。


まとめ

今回は僕がハプスブルク展で一番気になった、ソロモンを題材にした作品を紹介しました。

知識がなくてももちろん楽しめますが、どんなシーンかを知った上で見ることで、よりドラマチックに見えてくるのではないでしょうか。この機会にぜひ生で鑑賞してみてください!

文:Yamma Hiroki