新しい学校のリーダーズライブ考 ~人間万事塞翁が馬編~

 先日渋谷で開催されたライブ「ASOBE!!」に行った。目当ては新しい学校のリーダーズだが、思うところが多すぎる。

 「ASOBE!!」のライブは同じ事務所に所属するアーティストが参加するイベントで、そのイベント自体を知らなかったのだが、開催前日になって急遽新しい学校のリーダーズがスペシャルゲストとして参加することが発表されてそのライブを知ることとなった。発表されたのは昼過ぎくらいらしいのだが、日中は仕事仕事でスマホをチェックする暇もなくその情報を知る由はない。残業を終えて帰宅し、楽しみにしていたお茶にまつわるオンラインイベントに参加し、そのあとは洗濯に風呂に食事の準備にと生きる時間を費やしていたらとっくに零時を回っていた。そこからようやくメールをチェックしSNSをチェックしていたら、上記の急遽決定したライブの情報が入ってきた。やったーとれたー、行けるー、行けない! などの報告が飛び交う中、取り敢えずチケットを購入しようとしたが購入画面から先に進まない。パソコンだからだめなのか、スマホオンリーなのか、何かの登録が必要なのかと四苦八苦していると、前売り券は零時までとの注意書きにようやく気が付いた。既に零時三十分。そもそもメール等をチェックしだしたのが零時過ぎだから端から詰んでいたのだ。
 世の中は情報社会であるからにして、スマホで常時情報収集に余念がない人だけが貴重な情報を獲得できる世界が形作られた。その世界に順応できる人には素晴らしき世界だが、そうではない人にとっては結構な、かなり絶望的な世の中である。
 今日の明日で仕事を休めるわけもなく、前売り券を買えていたってどうせ行けやしないから金を無駄にすることがなくて却って良かったじゃないかと思い込むことにした。当日券が販売されるようであるが仕事が終わる見込みは薄いし、遅い時間に行って当日券が買える保証もない。が、万障繰り合わせて行けることがあれば行こうと思いながら酒をかっ食らって就寝。翌日のことは後述。
 そしてライブは始まる。

 チャイムが鳴って、肩車が二台、袖から出てきた。KANONがSUZUKAを背負い、RINがMIZYUを背負う。上に乗る二人は満面の笑みを浮かべながら両手を広げてウエルカムのポーズ。担ぐ二人もにっこにこ。見慣れているとは言えなんだこの登場は。この時点で「アイドル」ではない。初見の人々は口をあんぐりとさせポカーンと見ている。ハーイ! と挨拶一閃、ステージが始まった。

1.Freaks。オープニングとしては弱いけれども出囃子や太鼓パフォーマンスを含めての一曲目として見てみると「あり」だ。元元がフィーチャリングで彼女らのオリジナルではないから何か別の一手が欲しい曲。それを逆手にオープニングの肩車というのは、考えてみるだにありと思えるようになってきた。以前の人間太鼓や組体操に代わって、オープニングアクトと曲をまとめてしまうという、ある種「時短」なパフォーマンスにはうってつけな目の付け所だ。

 一曲目が終わって早速のMC。今までの出演者はほぼMCなしのノンストップで楽曲を披露してきたというのにこの余裕。緩急。自己紹介と、次の曲の簡単な振り付け指導を行って、時間も惜しく新曲披露。

2.WOO!GO! ナイキとのコラボのこの曲は観客と一体となって動かないと多分楽しさが伝わらない。新しい学校のリーダーズの曲で観客と一緒に決まった動きをするという曲はほとんどない。それぞれがそれぞれの楽しみ方でノッている。曲によっては腕を突き上げたりジャンプしたりジャンケンをするものもあるが、きちんと一体化した振りというものがあまりない。というのも例えば最終人類のズチャズダンスもやったりやらなかったりと新しい学校のリーダーズのパフォーマンスは変幻自在の進化進行中のものが多く、決められた振りをするなどということははみ出し精神にのっとっていないから今までなかったのではないかと思う。この曲はナイキとのコラボなのである程度決めた動きをしている。きちんと全身運動になるようにしているともいう。勿論随所に出てくるナイキポーズははずせない。ウ・ゴ・コ! で決めたらそのまま
 
3.オトナブルー。この安定感。ジャ、ジャ、ジャーンのイントロで心を掴む。最近のライブではこの曲なしでは引き締まらないと思えるほどの楽曲に仕上がってきた。曲もいいが舞いもいい。勿論SUZUKAの叫びもいい。コミカルで首振りダンスも面白いが歌唱力もあり総合的にきちんと決まっている。「見つけてー」の声がやや枯れたのが残念だが見応え聴き応え十分である。つづいて

4.恋文。オトナブルーから恋文の流れもすっかり板についた。当時はもう一曲、ケセラセラと合わせて三部作のように発表された。H ZETTRIOの2枚のアルバムと、アメリカデビュー後との間のデジタルリリース曲。当初はアルバムとの曲調の違いになじめなかったが、ライブで見るうちにどんどん良くなっていくのに驚いた。なんというか、オトナブルーはもっとカクカクした感じで、恋文はドタドタした感じだった(※個人の感想によるもので、感じ方には個人差があります)。あれから三年、歌唱力が上がり(特にSUZUKA)、RINの動きも磨きがかかる。ひとんめぼれ~の時のRINのシャープな表情と視線。これがまだ二十歳だと感嘆しつつも、中森明菜や山口百恵の十代の頃と比較するとまだ及ばないか。というか比較対象が現在ではなく往年のアイドルの時点でその先に並ぶべき未来が見えているような気がする。かくあれというか、超えてほしいというか。

 ここまで、RINのキレとMIZYUの可愛らしさが際立っている。そう思うのは会場の見る場所が影響大だ。目の前に来た人を観ていたらこの二人が多かった。或いは無意識下にこの二人を追っているのであろうか。ともあれ、新しい学校のリーダーズが久しぶりに参加するアイドルフェスで彼女らも力みなく楽しんでいるようだ。SUZUKAは落ち着き払っていて、ノリが今一つの会場をどうやってノらせようか企んでいる目をしている。逆にKANONはのほほんと笑って会場を眺めている。これが本当にある意味要で、突飛ではみ出しな言動もKANONの包み込む雰囲気があってこそ発揮されていると言っても過言ではないような気がする。

5.Pineapple Kryptonite remix Version。改めて驚愕。このリミックスはオリジナルを超えている。先日のワンマンで初披露したこの曲、四人バージョンでも先日のズと一緒のライブからスケールダウンした印象は全くない。否、逆に対象が四人に絞られ、集中できる。MIZYUバイクもコンパクトだがダイナミックでカッコいいし、四人の動きがあっていて様になる。そしてオリジナルよりもリミックスの方が曲がとてもよくまとまっている。全編に通底するビートが作品に一体感をもたらした。オリジナルは様々な要素が詰め込まれていて、イメージが散漫になってしまうところがあると思う(ライブではなくMVだと映像のイメージで収斂されている)。このリミックスは速いビートとキレのあるダンスに的を絞り、原曲を凌ぐ凄みとヒリヒリする鋭さを包含している。呼応してダンスも激しさを増し、演劇性をひそめ鋭利な舞いを中心とした一本筋の通った楽曲、パフォーマンスとなった。原曲を凌駕した超攻撃的なキラーチューンが爆誕した。個人的に大絶賛である。最終人類や恋ゲバと比肩するライブアクトだ。

6.NAINAINAI。ヒリヒリした曲から一転、コミカルな振りにキャッチーな歌詞、ステージを右に左に動き回り会場をいじりまくる。前曲とのこの温度差! 客が乗れる振りもあるので会場が一体化しボルテージがあがる。身長おっきいね、おっぱいおっきいねと客とのコンタクトでまたまた盛り上がる。説明不要、文句なしにウケる一曲だ。SUZUKAのプチャハンザァップ! で会場がうねり、最後はバァー! で締め。短いMCを挟んで

7.Free Your Mind。ラストはここ最近定番となった締めの一曲。5曲のデジタルEPを初めて聞いたときに一番ピンときた曲だったが、まさか締めの曲になるとは思わなかった。昨年2021年の年末に伊香保温泉で見たときには衝撃が走った。まさか歴史的和風建築を舞台としてこの曲が締めにしっくりくるとは思わなんだ、と。だがノリのいいビートで曲も明るくシャウトも響く。実に気分のいい曲だ。コミカルな動きもあるが決めるところは決め、締めるところは締め、実に清清しいラストだ。最後の曲で客席は盛り上がっているかなと後ろを振り返ってみると、客の入りは満席ではなかったが全員ノリノリだった。それよりも関係者が占める二階席の凄さよ。全出演者が見に来ているのではと思うほどアイドルたちで一杯だった。その光景が新しい学校のリーダーズの今の勢いを物語っていた。

 急遽組まれた(発表された)ライブであったが、その存在感は凄かった。客を手玉に取るSUZUKAらのMCも堂に入ったものであった。この数年、ライブは散発で次回は数か月後などと待ち遠しかったが、5/20のワンマン以降、今日5/26の渋谷、5/29札幌、6/16渋谷のやついフェス、6/28渋谷ツーマンと、短期間でのライブが続き、昔に戻ったような感覚に陥る。
 この数年、コロナによる雌伏の期間が彼女らには却って飛躍の期間となり、以前とはライブの規模もファン層も大きく広がり、メディアへの露出も桁違いに増えた。八月にはロスで開催される88risingのフェスの参加も2年連続で決まっている。この先の活躍が本当に楽しみでならない。

 さて、前夜前売りを買えなかったところからライブ当日までを振り返ってみよう。
 知ったときには前売りの時間が既に過ぎていた。
 常時スマホをチェックしていれば主催者からの一次情報を知れるし、TwitterやInstagramで二次情報を知ることもできよう。だが日ごろあまりスマホをチェックしない前時代に生きる民には知るところではない。
 前日発表では、行けたはずのライブに行くこともできない。
 情報に疎い旧人類は置いてけぼりですか、ああそうですか、じゃーもーいーですよ、とやさぐれていた前売り券締め切り後の零時半。世を恨んでいたと言っても過言ではないような気がする。
 ところが当日、今の今まで忙しかった仕事が夕方になってエアポケットのようにぽっかりと空いた。
 あれ、これ、今日行けるんじゃない? しかも、早く。
 新しい学校のリーダーズが出るのは20時くらいだから、前売り券を買っていれば最悪直前に行っても後方で見ることはできる。だが当日券は遅い時間で売っているかの確証はない。だから確実を期すために早めに会場に行って当日券を買うことにしたいが仕事があればそれもできない相談だ。だがしかし、急に眼前の仕事がなくなり、早く仕事をあがることができた。ノロノロしていると突発的な仕事が降って湧いて出ることはこの三十年でいやというほど知っているので即退散。

 昨夜には空想すらしなかった開演前に当日券を買うことができ、始まるまでどこかで軽く一杯飲むところでもないかとうろうろする。ビール? 日本酒? ハイボール? いやいやギムレットには早すぎる、などと考えて歩いていたら、前方の曲がり角からOTAが現れた。おっと思ったその後ろに続いてRINとMIZYUが三人で何か話しながらやってきた。狭い道ですれ違いざま目があったのでぺこりと頭を下げ今日も楽しみにしていますと告げると三人ともそれに応えてくれた。残りの二人はいないのかなと数メートル先の角を曲がると、笑いながら二人でだべっているKANONとSUZUKAがいた。やはりすれ違いざま、ぺこり、どーもっす、みたいな感じで通り過ぎた。良かった、Pineapple KryptoniteのTシャツを着ていて。渋谷の奥路地でばったり会うとは。予想もしていなかったので何も気の利いたことも言えなかったが、なんだかもうこれだけで今日来た甲斐があった。めざましの占いでは最下位だったのにこの僥倖。一位だったら宝くじ10億円が当たってたんじゃなかろうか。


 前売り券を買っていれば仕事を切り上げることなく19時過ぎに向かってフツーにライブを楽しんでいただけであったであろう。
 前売り券を買えなかったからこそ、早めに会場に向かってチケットを確保し、時間が余ったから私服で会場入りする四人とばったり会うことができた。
 人間万事塞翁が馬。
 世をはかなんだ昨夜は一体何だったのであろう。
 いやー、それにしてもいい一日だったと思うが、もしかしたら仕事終わりに駆けつけたら見知った常連が後方に陣取っていて「間に合ったんですね~」などとファン同士で盛り上がってそれはまた違った楽しみ方があったのかもしれない。
 などと考えると一体何がどう転ぶのか分からなくなる。
 だが抑、一緒に「間に合ったんですね~」と言い合える知り合いはいないという現実に直視していないのは問題だ。
 ん? いないのか? いやいるでしょ。あの人とか、この人とか。たまたまみんな来ていないだけなんじゃないかな。あれ、なんだか分からなくなってきたぞ。
 見知った人には会えなかったけれども、新しい学校のリーダーズには会えたし、ライブは良かったし、飲みに行きたいのをぐっとこらえて帰宅して新しい学校のリーダーズが出たテレビを見ながらお酒を飲んでご満悦だし、でも新しい学校のリーダーズを知らなければ今夜のこの楽しみや感激は生まれないわけであって、新しい学校のリーダーズを知らない世界に生きる私は違うことでもっと幸せになっていたかもしれないし或いは逆にどん底に突き落とされて辛酸をなめている人生をおくっているのかもしれないと考えると塞翁が馬というのはいいのか悪いのかグルグルグルグル灰色の脳細胞の中をヒヒンと駆け巡る。だいぶお酒が回ってきた。
 答えが出ない問いに考え続けるのも悪くはない。でもああ、もうすぐ朝日が昇りそうだ。曇天だけれど。

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