新しい学校のリーダーズと伊香保温泉2

MCもそこそこに曲を続ける。

3.パイナップル・クリプトナイト まさかここでやるとは思わなかった。和風建築とステージとの違和感。どうなるのだろうと思ったらのっけからアレンジしてきた。四人がてんでバラバラに日舞というか盆踊りのような手つきで踊り、うねる。手からビームは出ていないが照明が素敵で映える。そう、照明が素晴らしかった。ライブハウスとは違ったショーのような派手な色の照明が、質素な木造家屋と制御不能な新しい学校のリーダーズをしっかりと結び付けていた。
 今までこの曲はライブでは刺激的に表現していたと思うが、この日は怒りの表情やどぎつくやったりやられたりするのを敢えて出していなかったように見えた。ひとつには激しい動きができないという建物の制限、もうひとつは二階という視野角度の制限のためだろう。今までのライブが鋭く猟奇的でR指定の映画だとしたら、この日は流麗で雅なスタイリッシュな映画に変わっていた。バカスカ殺すのに綺麗でカッコいい「キングスマン」のような演出というと言い過ぎだろうか。ステージが二階のため、倒れこむと姿が消えるので違う人物が次々と出てくるようにも見えたし、間奏のクルクルシャキーンもMIZYUの二つしばりではなくRINとSUZUKAが表現していたのも新鮮だ。その二人が殴り合い、KANONが消えMIZYUが消え、そして最後に誰もいなくなる。ララバイでバイバイ。少し切なくなる。

 照明が明るくなって芸妓さんが出てきて、次が最後と曲紹介。

4.FREE YOUR MINDの曲が流れてやおら立ち上がる四人。ニコニコして、はい始まりますよーとでも言わんばかり。芸妓さん二人を真ん中にしてノリノリでダンシング。見ているこちらも楽しい。まさかマニー・マークとの世界がハワイ大使の別邸とこんなにマッチするとは思わなかった。最後に明るく楽しくはみ出せる曲を持ってきたのもドンピシャで、歩き回ったり走り回ったり面白おかしいけれどばっちり決める振り付けもディモールトいい。SUZUKAが叫び、手拍子でノリノリになった私は先ほどまで寒さに震えていたことなど忘れてしまっていた。英語と日本語を混ぜているけれどやっぱり和に寄っている独特な彼女らの世界観に魅せられた。
 思うに、ロサンゼルスでの二か月半の滞在が日本を見直す機会になったのではなかろうか。私は以前、日本の芸能を海外で披露するツアーに同行したことがあったが、そこで現地の人に聞かれたことは日本の文化に関してであった。例えば食べ物だったり生活様式などを聞かれるのだが、改めて尋ねられてきちんと答えることが意外と難しかった。外国人がスシ、フジヤマ、ゲイシャガールと言ったとして、いやいや日本はそれだけではないよと言ったとしよう。じゃあほかに日本の特色はなんだと言われて咄嗟に返すことができない。知っているということと、知っていることを他人に説明できることは大きな違いであり、そこから少し日本の文化を考えることが増えた。
 それと同様に彼女ら四人も海外で楽曲を製作中に、ここで少し日本らしさを取り入れてみようと考えたときに、さてその日本らしさとはいったい何なのかという疑問にぶち当たったのではないか。自分たちでは意識していなかった日本や、自分たち新しい学校のリーダーズはなんなのかというアイデンティティ、その模索がこの曲に見事に発現していると思えた。ネットのデジタル音源を聴いただけでは「まあ、ありかな」程度の印象だったのだが、ライブを目の当たりにして、ここ伊香保でキラーチューンが爆誕したことを実感した。聴きなじみのない日本でのライブ初披露の曲が胸にズキューンと突き刺さり嬉しかった。来た甲斐があった。来た甲斐があった(大事なことなので二回言う)。

 チャイムが鳴ってもうお仕舞い。それでも4曲演ってくれたから十分なステージだった…、と思ったら「それではこれから芸者さんとのコラボをお楽しみください」とSUZUKAが言う。一旦下校して(ダッシュではなく楚々とした摺り足で)暗転後、三味線の音がベベンと響く。照明が当たり、一階で芸妓さんたちが踊り始めると、新しい学校のリーダーズが二階に出てきて一緒に踊り始めた。まさに二階建ての構成で、ここでしか見られないスペシャルステージが始まった。

 曲は伊香保小唄とでもいうのか、♪伊香保に来てよね、ハァーちょいちょい、みたいな曲で、芸妓さんたちが一階で唄って踊り、新しい学校のリーダーズの四人は曲に合わせてソロで踊った。
 一番手はKANON。長い手足と髪の毛が、しとやかなしぐさでひらひらと舞う。ダンスなのに日本舞踊のようで、「可憐だ…」と思わずカリオストロの五ェ門の気持ち。
 続いてRINの登場。SUZUKAが言うところのチリチリダンスではあるが、今日は一味違って丸みを帯びた流麗な舞いが最後まで途切れずに続き見惚れる。行く川の流れが絶えぬ水のよう。
 三番手のMIZYUは打って変わってコミカル。クルクル回って右へ左へ。でんぐり返しに髪の毛ブンブンくーるくる。可愛さ満載、愛嬌満点。一番年上なのに一番かわいいって、ずるい。
 四番手のSUZUKAは床から這い出てきた。妖怪か。和の要素は一切ないかと思いきや、手摺に足を乗せて歌舞伎よろしく見得を切り、艶っぽく投げ接吻という独自の世界を見せてきた。
 最後は四人揃って本日の決めポーズである、口元に手を当ててにっこり。芸妓さんともども挨拶をして締めくくった。

 伊香保温泉での特設ステージショーはこうして幕を閉じた。五十人に満たない観客、正味30分に満たないステージだったが、内容も見どころも満載の貴重なショーであった。ライブハウスやホールだけでなく、こういった場所でも柔軟に対応していつもとは一味違ったパフォーマンスを見せる。凄いことだ。楽しいものだ。ぜひ他の地方でもこのようなステージを見てみたい。日本各地の行く先々で、観光と温泉とライブが一度に楽しめるなんて、どう控えめに言っても、最高である。
 

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