新しい学校のリーダーズライブ考2021年秋 東京編その1

 新しい学校のリーダーズ「無名ですけど東名阪福ワンマン ~アイツの弱点パイナポー!~」の渋谷でのライブを元につらつらと書いてみる。

「席替ガットゥーゾ」
 狙うなら右奥のあの席、の歌い出しで遠い記憶が甦る。
 中学二年の冬の席替えで私が引いた席は最前列の左側、ストーブのすぐ前だった。一番前なのも嫌だったが、汗っかきの私にとって、ストーブの前というのが一番の難点だった。暑すぎるのだ。当時はエアコンなどなく、夏は窓を開けるだけだったし、冬は一台のストーブで教室全体を暖めねばならなかった。目の前のストーブの小窓から赤々と燃える炎を眺めていると額に汗がにじんだ。これから数ヶ月はこの席で我慢しなければならない。
 せめて隣に気の置けない友人でも来てくれればいいがとあまり期待もせずにうすらぼんやり考えていると「あー、甘木くんだ~。隣になるのは初めてだね。よろしく」と座ってきたのは内藤さんだった。こちらこそよろしく、などと当たり障りのない返事をしたが、内心はドキドキしていた。まさか好きな人と隣同士になるなどとは思いもしなかった。一番前の暑くて嫌な席が一転、神様が与えてくれたパラダイスに転じた。初恋と言ってもいい内藤さんに対して、カッコつけたいとか好かれたいというよりも、バカなことをして笑わせることばかりしていたように思う。多感なこの時期に、好きな女の子の横で過ごすことができたというのはこれ以上にない僥倖だと知るのはもう少し後のことだ。青春の只中にいる者はそれが青春だとは露とも気付けないものだ。
 内藤さんはバレー部だったからか髪は短くおかっぱだった。その頃はボブカットというヘアスタイルの呼称があることすら知らない。聖子ちゃんカットなどと芸能人の髪型で呼ぶのがせいぜいだったか。ポニーテールくらいは言っていたかもしれない。ポニーテールはふり向かないというテレビドラマがあったのがこのくらいの時期だったように思う。それは兎も角、ショートヘアの内藤さんの首筋は透き通るように白く、スラリと長かった。黒板を見るふりをして眺めた横顔の頬は桃色で丸く膨らんでいてしなやかな曲線を描いていた。
 授業中に小声で話したり、ストーブの熱でプラスチックの下敷きがふにゃりと曲がるのを見て笑ったり、休み時間も一緒に話すということはそんなになかったと思うが、朝登校して席に着いておはようと挨拶したり、授業が終わるとそれじゃあ今日もお互い部活に勤しみましょうか、などとわざと変な言い回しをしたり、何でもないようなことばかり覚えている。勿論好きですなどと告白できる勇気もなく、中学二年の冬は浮かれた気分を残したまま過ぎ去っていった。
 その後の学生生活で何度も席替えをしたはずだが、席替えと聞いて思い出すのは中学二年の冬のこの時以外にはない。席替ガットゥーゾで拳を振り上げてジャンケンをしながら、狙ったりしなくても労せずして幸運が舞い込むこともあるんだぜ、フフフと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?