新しい学校のリーダーズライブ考 2023年6月、名古屋編

 中規模なライブハウスで観るのは随分と久しぶりのような気がする。
 MOROHA企画「破竹」。
 MOROHAと新しい学校のリーダーズの2マン。のっけから見た後の感想を述べると、凄いものを見てしまった、である。やはりライブハウスのぎゅっとした空間は濃密だ。
 名古屋クラブクアトロにぎっしりと詰まった観客。前方のほぼ真ん中という超好位置。手を伸ばせば触れるほどのステージ。声出しOKのライブ。新しい学校のリーダーズの久しぶりの名古屋公演。今か今かと待ちかねる観客のじりじりとした熱気を背中に感じる。皆がソワソワしている。私もワクワクしている。そこかしこから声が飛ぶ。19時過ぎ、ライブが始まった。

 照明が落ちいつものチャイムが鳴ると歓声が起きる。ワンマンの時の香港カンフー映画のようなイントロが流れる。映像はなく光だけの演出なのに会場のボルテージは一気に跳ね上がった。物凄い歓声である。かつては男の野太い声援ばかりであったが、今や若い女の子の歓声にかき消され嬌声が飛びかっている。MIZYUへの声が多いか。袖から歩いて入場してくる四人。おお、近い。あれ、女子が叫ぶ大歓声が多いからか、KANONが照れてにやついている? と確認をする間もなくオープニングナンバーが流れる。

 最新デジタルEP「一時帰国」からの「青春を切り裂く波動」はここ最近の不動のトップバッターだ。イントロが流れて四人がフォーメーションに入るや否やまた大歓声。この声援を全身で受けて四人も初っ端から乗っているようだ。いつも通りのっけからアクセル全開。SUZUKAが「名古屋ー!」と叫んで歌が始まる。四人のボーカルがくるくると目まぐるしく変わるがSUZUKAのボーカルがやはり凄くいい。カッコいい。対照的にRINやKANONの女性らしい透き通った歌声がアンサンブルとなる。激しいダンスをしながら歌い舞う四人。ワンコーラスでぐっと心を鷲掴みにする力量。実に見事だ。「僕は誰だ?」と歌うMIZYUのボーカルも良く、かつ面白い。間奏のダンスも素晴らしくて面白い。畳みかけるような展開の楽曲に見どころが多過ぎてとても目が付いていかない。目が八つ欲しい。最低でも四回見返したい。MIZYUへの声援が滅多矢鱈と多い気がするのは名古屋特有のものなのか?

 一曲目に続いて「最終人類」。この独特で組体操的でアクロバティックな動きを多用する楽曲は相当やりこんでおり、体感的にはライブで八割くらいは組み込んでいるように思うが、実際には半分程度であろうか。それくらい印象が強い。曲や詩もさることながら矢張りダンスパフォーマンスの凄さに何度見ても息をのむ。曲がいいのは勿論、SUZUKAのボーカルは二十歳を超えてから落ち着きを増し実にうまくなった。ズチャズダンスを含めて新しい学校のリーダーズのエッセンシャルがここにつまっていると言っても過言ではない。随所に見どころがありつつ、終盤静かになったところから「シンフォニーを!」の後の超絶激烈なダンス。SUZUKAのひとりボーカルと、無言で舞いながら全身でがむしゃらに表現するMIZYU、RIN、KANONの物凄いダンス。同じ楽曲でも見るごとに表現は少しづつ変わっている。常に変化し、成長していく踊り、歌、舞い、表現。数年前とはまるで違う演舞は常に新しいものを追い続ける彼女らの試行錯誤の結晶か。この曲をやり続ける信念が伝わてくる。本当に、実に素晴らしい!

 いつものMC。休め気をつけ礼からのポーズで大歓声。やはりこの声援に四人とも照れ笑いをしているような気がする。その声援を受けて次の曲。

 ポップな「CANDY」では低音のビートにボイスチェンジしたコミカルな歌詞が乗り、ププーのところでMIZYUがKANONのスカートをめくったりして自由で和気あいあいな感じだ。
 続く「WOO!GO!」は低いビートがドコドコする楽曲で、サビの振りを教えながら客を一緒に踊らせる。簡単で覚えやすい振りやRINのコミカルな「なんつってー!」の後には四人の技がキラリと光る踊りがあったりしてやはり一筋縄ではいかない芸達者ぶり。最後は「ナイスダーンス!」とSUZUKAが言った。それまでは「ナイスですね~」と言っていたので耳を疑った。コンプラ的なことで変えたのだろうか? 見に来ている年齢層を考えると全裸監督由来なものはやめておいた方がモアベターちゃんではあろう。
 5曲目の「Suki Lie」はSUZUKAの「キラーイ!」で始まるこれも低音ビートが響く曲。サビの振りもキャッチーで独特の振り付け。後半のSUZUKAの歌声の伸びが実にいい。ボーカリストとしてのSUZUKAがとても凄くなっていると、ライブを見る度に思う。
 続いての「AG!SUZAN」はカバー曲というかオリジナルではないのだがよくやる演目で、深い意味はなさそうな歌詞とゆるい踊りでメローでファンキーなのだが、冒頭のMIZYUの首と目の動きが実に激しい。驚愕だ。毎回狂気が宿っている気がするのは私だけであろうか。MIZYU…恐ろしい子! オリジナル曲ではないのに声援があちこちからかかる。「お疲れー!」「鰤!」でキャーって声援が飛ぶのは今までにはなかった光景だ。ここは笑うところだった。「鰤!」でキャー! ってなるなんて考えたこともない。新たな時代に突入しているのかもしれない。

 曲の最後にRINが発する「パイナポー」を受けて、休む間もなく次のイントロが流れると客席から歓声が飛ぶ。勿論「Pineapple Kryptonite」だ。88risingからのシングルカットで、世界進出に向けてマニー・マークのプロデュースによるディストピアな世界観の曲。冒頭からフルバージョンで歌ったのであれっと思う。ショートバージョンではない、ということはここ最近の流れのリミックスはやらないのだろうか、そんなこと考えながら見ていたら、やはり一曲やりきって、リミックスにはつながらなかった。リミックスへの流れを知っているだけに、期待がそがれたという気はある。でも久々にフルを見られたというレア感もある。ファンの心理は難しい。

 が、次の寸劇が始まると、このコミカル寸劇&曲に続けるのであればリミックスは入れられなかった意味が分かる。学ランを着たままじゃこの曲はできない。女の友情が儚く脆く崩れ去る珠玉の名ナンバー、「恋の遮断機」である。親友に気になる彼を奪われる心情を描くのには学ランではなくセーラー服でなくてはならない。このどこぞの小劇団を彷彿とさせる小芝居の前振りを初めて見る人も多いらしく、えーうそだろー、MIZYUひどーい、などの声がそこかしこから上がるのも新鮮だ。そりゃないぜという悲鳴、感嘆、MIZYUの魔性の女っぷり。そして曲紹介の最後にKANONの「曲振りでした」で起き上がる笑い声。これこれこれ、曲や歌やダンスが凄いだけではない。この寸劇やコミカルなダンスなど、面白さを取り入れているのが新しい学校のリーダーズの魅力なのである。贅沢を言えば、この「恋の遮断機」や最近ちっとも演らない「恋ゲバ」などの曲前の寸劇をほかの曲でもやってもらいたいものだ。「楽園にて、わたし地獄」や「キミワイナ’17」とか。

 ということで前置きが長くなってしまったが「恋の遮断機」は昔からよく歌っていた曲だから完成度は高いし、もう云うことがない。曲のお仕舞いはまるでカーテンコールを見ているようだ。敢えて難点を言えば、告白してくるSUZUKAが好きな男の子の設定の名前が山田君ではなくモロハ君だったらなと思う。そうであれば続くMOROHAのライブでここを取り上げていたろう。でも実際にはMOROHAはこの日の新しい学校のリーダーズのライブをいくつも即興で歌に乗せていたので、彼女らはそれを見越して敢えて「ネタ」を出すことを辞したのかもしれない。新しい学校のリーダーズ…なんて恐ろしい子!

 間髪入れずに「乙女の美学」。世界デビューしてからは、今までの二枚のアルバムとは曲の方向性が変わっていたが、昭和歌謡曲風のオトナブルーがフィーチャーされたからであろうか、数年ぶりに前二枚のアルバムを手掛けたH ZETTRIOのMパイセンによる楽曲が発表され、昔からのファンには嬉しい報せであった。ワンマンで見たときよりも役割分担や振りがまとまっていた。SUZUKAのボーカルを、MIZYU、RIN、KANONのシュビドゥワパッパヤーのコーラスが支える。スカートをマントにした大正浪漫風な舞いも見事である。ワンマンではピンとこなかったが、これからますます磨きがかかりそうな予感がした。最後にSUZUKAが「令和の女、なめたらあかんで~」というと女子がキャー! と黄色い声援が飛びまくる。こんな光景、今まで見たことがない。新しいステージに入ったのだと実感した。

 曲が終わるとそのままするりと「オトナブルー」が始まる。なんと言っても今の新しい学校のリーダーズを象徴する曲なのに実にあっさりとした入り方。歓声が凄いかと思いきやそれほどでもない。おやっと思うと、みんな、見入っている。否、魅入られている。固唾をのんで目に焼き付けようとしているようだ。だが、欲しんでしょや、首振り、オーの時に腕を前に出すポーズではみんなで盛り上がる。二番でSUZUKAが例のポーズ(欲しんでしょ)をするとギャーっと盛り上がる。そして間奏の個人紹介的なパートでも大きな歓声が上がり、その勢いのまま最後四人のハチャメチャダンスと可愛いポーズで黄色い声援と赤い絶叫と青い溜息と桃色吐息が入り交じって凄い盛り上がりとなった。

 ここでようやく二回目のMC。突っ走ってる。何曲連続で演ったのだろうか。MCのSUZUKAが、残り三曲となりましたOMG(オーマイガー)! 観客えー!? 今日はコスプレの人多いなー、わし、あいつのことが気になってんねん、とSUZUKAっぽい髪型のセーラー服を着た男子を指さすとKANONが「SUZUKAの色違いだ~」みたいな素人の感想を言うのもいとおかし。SUZUKAが、これからはみんなもコスプレしてきてねーと会場の観客を見まわしながらいじっていくのは場数を踏んできた証か。MIZYUが二つしばりをしてきてくれている人もいて…とちっちゃな子が二つしばりしているのを見つけると「回せる?」と言って自分の髪をブンブン回してみる。すると親に抱っこしてもらって見ていたそのちっちゃな女の子も自分の髪の毛をふわんふわんと回し始めて拍手喝采、会場中がほわーんとした気持ちになった。そんなMCが終わり次の曲は…
「NAINAINAI」プチャハンザップで会場の皆が手を挙げて波打つ光景はいつ見ても見事だ。盛り上がれる曲だからもっと前に持ってきてもいいのかなと思うが今日のこの構成ではベストだろう。RINの個人技も光る。おっぱい大きいねではいつもはKANONがその役を担っていたが四人で揃ってやっていた。毎回違ったことをやるから目が離せない。後ろを振り返ったときのプチャナンザップの腕のうねりが物凄かった。

 ラス前は「じゃないんだよ」。映画の主題歌にもなった曲だ。ボーカルがクルクル変わり、引き金を引くバーンでは皆が知っててポーズを合わせて盛り上がる。アップテンポでラストに向けて加速していき、勿論最後はこの曲。
 「迷えば尊し」
 冒頭のハイハイハイハイ! が一時期はハイハイ! と二回だったのが四回に戻って盛り上がる盛り上がる! SUZUKAが、手を伸ばして~引いて~と会場が一体になる振りを教え、一番のサビ終わりでのジャンプにヘドバン、スカートを舞い散らかした後は、SUZUKAが恒例の?各席へのダイブで満員の客席の前方右側が大混乱。心の叫びを歌詞に乗せて最後は全員ジャンプして大団円。

 響き続ける声援。物淋し気なチャイム。四人の挨拶。濃密なライブが終わった。
 これだけはみ出していながらも曲終わりにすぐMOROHAパイセンへの感謝と今日来てくれた観客へのお礼を述べて、いつもの休め気をつけ礼下校で締める。
 軸がぶれない。続けることの大切さというものを改めて知らされた。何十歳も下の子らから。
 この後、初めて聴いたMOROHAの独創的な表現に、今日のこの日のツーマンの意義というかメッセージが勝手に心に響いた。沁みた。ああ、ライブって凄いなと改めて思った。もうこんなに近くで新しい学校のリーダーズのライブを体感することもないかもしれない。八階から階段をぐるぐると下りながら、火照った耳の奥で今日のライブの曲もぐるぐると回っていた。


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