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03_ライラEVはミクログリアの自爆死を抑制する

ミクログリアの自爆は、積極的な防衛戦略であることがわかりました。しかし病原体がなくてもミクログリアは自爆します。その謎は、いま世界が注目する最先端の研究テーマです。

自然免疫は初歩的な免疫ですか?

ミクログリアなどの食細胞は、病原体や死んだ細胞を飲み込んだり、その病原体の情報を提示することで獲得免疫を起動します。それだけはなく、「自爆死」は外敵に対する積極的な防御戦略だったのです。

しかしミクログリアの自爆死は神経細胞に炎症を起こして、細胞死の連鎖を引き起こす危険なプロセスであることもわかってきました。さらにこの炎症が老化を進めてしまいます。

しかし重要なポイントは、ミクログリアの本来の役割は、細胞の損傷を修復して脳内の細胞を維持することなのです。この裏腹の機能を正常に動作させることが重要です。

パイロトーシスが神経疾患を引き起こす

マクロファージの自爆死は1986年に発見されましたが、2001年にパイロトーシス(「激しい死」)という名称が与えられました。

神経細胞のニューロンがパイロトーシスを起こすことは2014年に発表され、グリア細胞のミクログリアとアストロサイトも同様にパイロトーシスを起こすことが発表されたのは、2019年になってからでした。

ミクログリアは脳内のマクロファージです。マクロファージが病原体の特徴を察知すると、インフラマソームというタンパク質が活性化してガスダーミンという分子が細胞膜に孔をあけます。また炎症性サイトカインをつくって、この孔から放出します。孔からCaイオンなどが侵入し、破裂して細胞死を起こします。

パイロトーシスはアミロイドβ、タウ、αシヌクレインなどの異常タンパク質の凝集とよく一致しており、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病(HD) 、多発性硬化症(MS)などの神経疾患に関与すると考えられています。

ライラEVは、ミクログリアの自爆死を抑える

ミクログリアの自爆死はなぜ起きるのでしょうか。最も研究されているのが、LPS(リポ多糖)です。LPSは細菌のうちのグラム陰性菌の細胞膜についている内毒素(エンドトキシン)で、大腸菌のEVにもLPSがついていることが確認されています。

私たちは、大腸菌のEVとライラEV(Lilac01-EV)を生きたミクログリア細胞にかける実験を行いました。
図1は、それぞれのEVをミクログリアにかけて、2日たった後のミクログリア細胞の様子を写したものです。

(a)の大腸菌のEVをかけた方は、ほとんどの細胞が破裂して死に、パイロトーシスの特徴を示しています。
(b)のライラEVをかけた方は、ミクログリアはまったく破裂せずに残っています。
また赤色は一緒にかけたアミロイドβ、青色は細胞核で、ライラEVは大腸菌EVよりもアミロイドβを多く取り込みました。


図1 ミクログリアにEVをかけたときの変化

ミクログリアは、いろいろな刺激を感じて自爆死を起こしますが、LPSがミクログリアの自爆スイッチを押すことがわかっています。

この実験から、ライラEVをかけて生き残ったミクログリアは、アミロイドβ(赤)を取り込む能力があるということがわかります。これは修復タイプ(抗炎症性、M2型といわれる)のミクログリアの特徴で、アミロイドβを取り込んで分解することができます。

一方で炎症性マクロファージはM1型といわれ、大腸菌EVをかけたミクログリアはこのタイプといえます。ちなみにM1とかM2と呼ばれる分け方は古い呼び方で、私たちは細胞死と関連するのがM1型で、平常時はM2型と考えています。

このように、ライラEVをかけるだけで、ミクログリアの自爆死をコントロールすることができることがわかりました。


Brain network

ライラEVはミクログリアの細胞死を止め、脳内炎症を抑制する可能性がある

ミクログリアは神経細胞(ニューロン)のすぐ脇にいるので、その影響がニューロンに及ばないはずがありません。自爆テロに巻き込まれたようなもので、実はこの自爆死は脳内炎症の始まりなのです。

ミクログリアの自爆死に連動して、脳内のも自爆死を起こし、相互に影響しあいながら炎症を広めることがわかってきたのです。

脳内の細胞は、約9割がグリア細胞といわれています。アストロサイトというグリア細胞は、脳の血管と神経細胞をつなぎ、血液脳関門(BBB)という関所を形成します。炎症を起こすとこの関所が壊れて、脳を守ることができなくなります。

このようにミクログリアが起こす炎症は、アストロサイトやニューロンを巻き込んで、認知症などの神経疾患の原因になっている可能性が高いことがわかってきたのです。

次回予定

04_脳内炎症の真相に迫る
ミクログリアの細胞死を抑えることはどうやらできそうです。次回はこの炎症が脳内でどのように波及していくか、その真相に迫ります。

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