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05_遺伝子変異が炎症を引き起こす

アルツハイマー病には散発性と家族性がありますが、家族性アルツハイマー病は5%未満です。家族性アルツハイマー病は散発性アルツハイマー病に比べて発症がはるかに早く、場合によっては20代後半に発症することもあります。

家族性アルツハイマー病は症状が重い

家族性アルツハイマー病には3つの遺伝子の関連がわかっており、これら3つの遺伝子のいずれかに変異があると、事実上、若年性アルツハイマー病を発症することが確実になります。一方、散発性アルツハイマー病は遺伝子変異はなく、通常65歳以降に発症し、特定の家族関係はありません。

症状としては、家族性アルツハイマー病と散発性アルツハイマー病に大きな違いはありませんが、家族性アルツハイマー病で見られる症状は一般により重度であり、特にアルツハイマー病患者の脳内に形成されるアミロイドβの沈着はより深刻であると報告されています。

家族性アルツハイマー病は、プレセニリン 1 (PS1)、プレセニリン 2 (PS2)、およびアミロイド前駆体タンパク質 (APP) の 3つの遺伝子の変異によって引き起こされることがわかっています。

PS1 変異マウスは、細菌性のリポ多糖 (LPS) などの免疫攻撃に対する炎症性サイトカインが増加します。これにより、PS1変異マウスの脳内で、TNFα、IL-1β、IL-6をつくるmRNAのレベルが高くなることが報告されています。
PS2 遺伝子の変異もミクログリアの炎症応答に関与していることが示唆されています。またAPP は末梢マクロファージおよび脳ミクログリアで強力に発現します。

したがって、PS1、PS2、および APP 遺伝子の変異によって生成されるタンパク質は実際に炎症を引き起こし、それが家族性アルツハイマー病の発症に寄与する可能性が高いといえます。

遺伝子病であっても、炎症を抑えると病状は収まる可能性がある

これまでは家族性アルツハイマー病のような遺伝子変異を伴う疾患は、遺伝子変異による異常タンパク質が病気をおこすと考えられていました。しかしたとえ遺伝子変異がある場合でも、変異した遺伝子がつくる異常タンパク質が直接病気をつくるのではなく、そのタンパク質などが炎症をおこすことによって時間をかけて病気が進むことが明らかになってきました。

図1 遺伝子変異を伴う病気の新しい考え方

慢性炎症については、前回書いたようにM1/M2表現型を、M2にシフトすることで炎症を効果的に抑えることができます。つまり遺伝子変異を伴う場合であっても炎症を抑えることによって、病状の進行を遅らせる、あるいは進ませない効果を期待できるのではないかと考えられます。

遺伝子変異は家族性アルツハイマー病に限ったことではなく、パーキンソン病(PD)、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、多発性硬化症 (MS)なども遺伝的要因があることがわかっています。さらに全身性エリテマトーデス (SLE)や乾癬などの自己免疫疾患の多くは遺伝子変異を伴うことがわかっています。

これらの疾患では、変異した遺伝子が直接、あるいは産生された異常なタンパク質が病気をつくるのではなく、それらが炎症をおこすことによって病気がおこります。炎症をおこす主体は、マクロファージ(ミクログリア)であり、M1/M2表現型に着目する研究が、ここ10年余りで急増しています。

EVはM1/M2表現型を制御する

これまで、マクロファージ(ミクログリア)の表現型を制御する有力な技術はありませんでした。細胞外小胞EVはM1をM2に変更する有力なツールになると考えられます。その中でもライラEVは強力にミクログリアの自爆死を抑えて、M2型に変更しますので、慢性炎症を抑制して病気の発症を抑えることが期待できると考えています。

次回予定

06_細胞外小胞(EV)って何だろう?
マクロファージ(ミクログリア)の自爆死は炎症をおこし、さまざまな疾患の原因になっています。この炎症を抑えることを期待されているのが細胞外小胞EVです。次回は、「炎症」を抑えるEVについてです。

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