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15_アレルギーは寄生虫に対抗するシステム

花粉が飛散する時期になると、毎日がつらいと感じる人は多いかもしれません。花粉症は、食物アレルギーや喘息などと同じメカニズムが働いています。それは寄生虫に対抗するために獲得した仕組みなのです。

その仕組みさえわかってしまえば、花粉症対策に悩む必要はありません。花粉症が簡単に治り、しかも短時間に効果が出る方法があります。

花粉症は免疫の誤作動ですか?

花粉症は、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎などと同じアレルギー疾患の一つです。アレルギー疾患が手ごわいのは二つの理由があります。

一つは、アレルギーを起こす本当の原因がわかっていないことです。よくアレルギーは、免疫の誤作動によって起こると説明されてきました。しかし、たくさんの人の免疫が同じように、しかも頻繁に誤作動を起こすのは、そうなる原因があるはずです。

例えば、誤作動ばかり起こす車があったら、それは誤作動ではなくて故障です。故障は修理すれば治ります。免疫が故障して花粉症になるとしたら、その原因は何だろうと考えなければなりません。

花粉症は、アレルギー反応によって、鼻や目、食道などが炎症をおこす現象です。腸や皮膚の炎症とも関連しており、食物アレルギーとも関連していて、いわゆる交差反応がおこります。

例えば、シラカバ花粉にアレルギーある人が、リンゴやサクランボなどのバラ科の果物や、大豆などのマメ科の食物を食べたときに、口や喉などに痒みや腫れを感じることがあります。

これが交差反応です。これらの食品に、シラカバ花粉のアレルゲンと形が似たタンパク質が含まれることが、交差反応の原因です。
花粉症は、さまざまな植物がつくる花粉によって引き起こされることが多いので、花粉症と呼ばれますが、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎なども含めて、共通のメカニズムがあります。

しかし、これらのアレルギーに対する特効薬はいまのところありません。治療の選択肢としては舌下免疫療法があります。舌の下に少量のアレルゲンを投与することで、アレルゲンに対する耐性を高め、時間の経過とともに症状を軽減します。 治療期間は通常3~5年かかります。

ただし3 年間の遵守率は約 40% であり、費用負担が最も多い中断の理由とされています。3年後で鼻炎の症状が約 70% 軽減されたと報告されています。

寄生虫対策の強力な装備がアダとなった

小麦入りの石鹸を使用していた2000人以上の人が小麦アレルギーになって、注目されました。いわゆる「茶のしずく事件」です。

この事件のあと、厚労省は「加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上の注意事項について」という注意喚起を発表しました。

一般に、食品成分は安全だという認識があるかもしれませんが、食品成分を肌に塗ると、食物アレルギーになるリスクがあります。実は肌とアレルギーは密接な関係があるのです。

皮膚がまだ不完全な赤ちゃんが、アレルギーになりやすいのも、皮膚から異物が体内に入る経皮感作が影響していると考えられています。
アトピー性皮膚炎では、猛烈な痒みが起こることがあります。このアレルギーと経皮感作、痒みの関係は、動物がある外敵との戦いで獲得した進化と関係しています。

それは寄生虫への対応です。動物の体に寄生虫がはい回ったりすると、を感じてつい掻いてしまいます。この痒みやアレルギーは寄生虫に対抗するためにシステムなのです。

痒みも寄生虫対策のひとつ

アレルギーの原因は、適応免疫ではなく自然免疫にあった

免疫には自然免疫と適応免疫がありますが、異物を記憶するのは適応免疫の細胞です。一度出会った異物を記憶すると、次に出会ったときにすぐに対応できるようになります。

しかし、敵でないものを「敵」と覚えてしまうと、アレルギーになる可能性があります。免疫細胞は一度覚えてしまった敵は、簡単に忘れることはありません。

異物を記憶する細胞は、B細胞といわれる適応免疫の細胞で、指令を出して肥満細胞にヒスタミンなどの炎症物質を放出させます。そうすると鼻や目などの炎症がおこります。
B細胞はなぜ、間違って覚えてしまうのでしょうか。しかも多くの人の免疫が、同じように間違う理由というのは何でしょうか。

B細胞が間違って覚える理由は、実はその前の段階にあります。それが自然免疫です。最初に異物に出会うのは自然免疫の細胞で、B細胞は自然免疫の細胞が提示する抗原に対して反応します。

自然免疫細胞の抗原提示が、その後の運命を決めます。しかし抗原提示の強さは、常に一定ではありません。つまり抗原を提示するかしないかは、抗原提示をする細胞のコンディションによって変わるのです。

具体的に見ていきましょう。
抗原提示をする細胞は、最初に抗原に出会うマクロファージや樹状細胞です。マクロファージはこのnoteで何回も出てきましたが、体中の組織にいて普段は死んだ細胞などを食べて片付ける担当の食細胞です。しかしいったん外敵を見つけると、自爆攻撃を仕掛けます。この自爆死(パイロトーシスなど)から慢性炎症が始まります。

アレルギーでは樹状細胞の抗原提示がメインになります。これまで樹状細胞の自爆死はほとんど報告がありませんでしたが、昨年樹状細胞の自爆死(パイロトーシス)がアレルギー性鼻炎(AR)のアレルゲン誘発において重要な役割を果たすことが報告されました(Qiao et al, 2023)。

これまで、マクロファージの自爆死についての非常に多くの研究が報告されており、他の免疫細胞の活動に大きな影響を与えることがわかっています。マクロファージの自爆死は樹状細胞の自爆死にも影響しますし、樹状細胞の抗原提示にも関係があるのです。

アレルギーの発症を決定する感作と免疫寛容

アレルギーが発症する経路として、肌から(経皮感作)と、腸から(消化管上皮感作)の二つがあります。

以前は、特定の食べ物を食べすぎるとアレルギーになると考えられていました。つまり腸から体内に侵入するタンパク質が多いとアレルギーになりやすいと考えられていたわけです。

しかし、腸よりも先に肌からタンパク質が体内に侵入すると、アレルギーになるということが報告されるようになりました。

むしろ無害な抗原を口から摂取することによって、アレルギーを防ぐことができることがわかってきたのです(経口免疫寛容)。

経皮感作と消化管上皮感作の違いは、肌は直接外界と接するのに対して、消化管は粘膜でおおわれており、その中には多様な微生物叢があって、寛容を誘導することができます。

次回の予定

16_アレルギーの主役、好酸球の自爆
アレルギーの原因は、マクロファージや樹状細胞の自爆死にあることがわかってきました。しかし、さらに隠れた強力な主役がいるのです。それが好酸球です。

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