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思い出は幾年の氷につもる。

「まるで氷のようだね」

 細くて柔らかな曲線を描くチェーンの先にあるトップ。
 水の中に沈めたら、トップの線が判らなくなってしまいそうに思えるほどに透き通っていて、それゆえに儚く感じた。

 これをくれたあの人は、「南極の奥の奥の奥、とんでもなく透き通った氷を取り出した時、君の好きな色を入れてあげなければと思ったんだよ」と笑った。
 その言葉を嬉しく思っても、また彼の地へ行ってしまうことに胸の締め付けを感じて苦しくなる。ついで、鼻の奥が激臭を嗅いだわけでもないのに痛くなって、目の奥が熱くなった。

 記録写真とともに、風景、人、動物の、彼の地でのなんてことのない習慣を撮ったあの人の写真も好きだけれど、どうしようもできない不安がなくなるわけじゃない。物理的距離が生む圧倒的な不安は外国とはまた別もの。

 またほどなくして行ってしまうことに気を取られて、顔を上げられないでいると息をゆっくりと吐くのが聞こえた。あきられたかもしれないと揺らいだ時に少ししゃがんで顔を覗き込んでくる。

 「君といられないことを辛い、寂しい、と思っているよ」

 手のひらに転がっているトップに指先を伸ばして転がす。無機物特有の冷たさも動く。このネックレスがなくても、あの人が記録係に選ばれて初めて渡る時も言っていた。

 「自分勝手な言い分だけど、君が遠いところで待っていてくれるんだなと思い返す度に帰らなくちゃと思うんだよ」

 ただ、淡々と続く言葉を聞き漏らさないように、胸の内で揺れるものを聞き取った言葉で押さえる。あの人は少し厚くなった手で、そっとネックレスを持った手を挟む形で包んだ。

 「だから、僕の命は君がいてこそなんだ。きっと君と一緒にならなかったら、何かを見せたいと思うよりも一人占めしていただろうし、いつかの時に死んでいたかもしらん」

 少し震えていた手は、いつもここで震えていてその理由を判るようで判らなくて、また言葉を受け取る。

 「また僕が、世に広めることで君に届くように、帰れるように「待ってる」と言ってほしい」

 震えながらも入る力と願われたことに、小さく返す。口から出た声は話したとは言えないほどに小さな声でも届いたらしい。

「ちゃんと帰ってくる」

 背中に回した手を優しく添えて抱き寄せながらあの人ははっきりと言った。
 とんとんとも、ぽんぽんとも、表しにくくもあたたかな揺れが着物越しに伝わる。また決めたのだから、惜しく思うより今のこのあたたかさに手を伸ばした。

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コミティア行かれる方はぜひ。
繊細な装飾の他、ぽこっと愛らしい作品も持っていかれるようです。

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