好きなものを語る時の表情っていいよね-はんぶんこの日々-
好きな本をわかち合い、つながる私設図書館「はんぶんこ」。
学校司書、絵本専門士、BookCommunicatorとして活動する雪竹ますみさんが、自宅のリビングでひらく文庫。本棚には、様々な方が寄贈してくださった「一番の本」が並んでいます。
大切な本を携えて、今日も「はんぶんこ」にゲストがやってきました。美味しいコーヒーと共に流れる時間と、おしゃべりをおすそわけします。
好きなものについて、話すひとの表情はいい。楽しそうな姿でも憤る姿でも、不思議と引き込まれてしまう。そういう時は「意味」だけではなく、その人から発される熱みたいなものを受け取っている気がする。
はんぶんこにやってきた「みーさん」と言葉を交わして、そんなことを思う。穏やかで丁寧な物腰の彼女は、好きなものを語るときにまなざしにふっと静かに熱が灯る。
「人間よりも、動物や木が多い場所で暮らしているんですよ」
神奈川県の箱根近くの小さなまちで司書として働く彼女は、学校の図書室や公共図書館の分館など、町内の4つの図書館の司書業務を一手に引き受けている。
「午前中は小学校、午後から公共図書館、明日は中学校。そんな感じで、毎日あちこちに行っているんです」
大変なのは、図書館の蔵書データがIT化されていないこと。だから、本を探す時に、どこにその本が置いてあるのか、パソコンで検索することができない。記憶を頼りに、複数の図書館をまわって本を探すのだという。
「『かいけつゾロリ』はどこにあったかな。いやいや、新しく買おうかな?と考えるときが大変なんですよ。毎回頭を悩ませています」
でも記憶頼りの運営では、体調を崩して続けられなくなった時にどうなるかわからない。「大変さをわかってもらえればいいのだけど」とつぶやく言葉から、司書の仕事を心から誇りに思っていることが伝わってくる。
ますみさんとみーさんの共通点は、「絵本専門士」という資格でもある。
国家資格である絵本専門士は、絵本に関する知識、技能や感性を備えた専門家。年に一度公募される養成課程には、様々なバックグラウンドを持つ人が集う。
絵本専門士のネットワークを生かして、絵本の魅力を伝える活動を広げていこうと、みーさんは仲間たちと講演会やイベントを企画・運営し、自分たちで実践的な学びや研究を共有するユニット「Eighth color」という団体をたちあげた。今年度は「図書館総合展」に出展し、ポスターセッションやトークライブを企画。取り組みが評価され、ポスターセッション部門で入賞したのだという。
「みーさんは、本当にできるひとなの。プロデューサーだよ」と、ますみさん。様々な得意分野を持つメンバーのいいところを見出して、活動に繋げていく。色んなひとが集うことで、絵本の楽しさをひろげていける。これから一緒に活動ができたらいいよね、と盛り上がる2人。
さて、美味しいケーキとコーヒーの後は、いよいよ本の受付。みーさんは、どんな本を持ってきてくださったのでしょう?タイトルは「はんぶんこ」に来てくださった方だけの秘密。コメントから想像してみて。
「絶版になっているものもあって、古本屋で取り寄せて持ってきました」と、取り出したのは、なんと全シリーズ19冊の超大作!
「私が司書になる前に、高校生の時に出会った本です。埼玉の作家さんなんですけど、この方の書く女性像が、本当にかっこいいんです」
主人公は傭兵として働く女性。魅力あるキャラクターと共に、シリーズを通して成長していく。
「どうして、その本を選んだんですか?」と聞くと、本の背を撫でながら、口元がほころんで、嬉しそうな表情になる。
「最初に学校の図書館で出会って好きになって、高校まで借りて読んでいました。卒業した後も、その先を買って読んだんです。だからうちにも同じセットがある。長い間、青春と共に読み続けていました」
「出てくるひとがすごく素敵なんです。傭兵なので、中隊に色んなタイプのキャラクターが出てきます。主人公は強くて、鉄仮面のような女性。でも弱みも女性らしさもある。彼女が最終的に地球から飛び出していくSFの物語です」
「ネタバレしないように話すのは難しいですね」と笑いながら、いきいきとした顔で話してくれる。好きなものを楽しそうに語るひとの表情って、本当にいい。
本について語るみーさんのまなざしには光がある。その姿は、紹介してくれた本の主人公の芯の強さとどこか重なる感じもする。
いまの彼女を形作ってきた本当に大切な本なのだな。そう思うと同時に、ある本に惹かれるということは、自分の根っこや魂とその本が共鳴することなのかもしれない。そんなことも思う時間でした。
みーさん、ありがとう。またはんぶんこでお会いしましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?