新しいドローイング発案顛末 (下)
YouTubeのプロモーション動画を作るために人物デッサンを描いていたら、いつの間にかその人物デッサンそのものに興味が移り、動画制作の意欲は萎えても、このまま人物デッサンを続けたくなりました。もう束縛なく自由に描けます。
写真的な人物描写は人間の目が捉えた人物像とは別物と思っていますから、より自然に見える絵画的なリアリティの追求を目指しました。理想はベラスケスの油彩です。印象派の先駆とも言える彼のタッチをモノクロームの鉛筆に変換できないかと考えました。
大まかに言えば、細部の説明的な描写を抑えて、明暗の階調変化で人物の存在を表現することです。この段階の人物デッサンでは線描をできるだけ避け、非常に柔らかい鉛筆をコンテやパステルのように使いました。
制作活動の中で人物デッサンの比重が高まって来ると、今度は、その習作的な扱いに物足りなくなり、ドローイング作品として制作したくなりました。実は、自分の油彩作品の高彩度に対する反動なのかモノクロームの作品を描きたい気持ちが募り昨年から何かしらの考えがあったのです。それは形を結ばず一旦は消えかかりましたが、ここへ来て蘇りました。
実際にポーズをとるモデルのスケッチから始まったとしても、独立した作品とするためには、目前の現実が及ぼす強い拘束力と混沌から離れる必要があります。まずは実写スケッチから始めたデッサンを記憶に依って描き込み、または省き、完成させてドローイング作品としました。
それでも何か物足りない、不満が残りました。これは結局モデルの肖像を出ないのではないかとも思いました。そこで、モデルに別のイメージを重ね、誰なのか分からない特定できない、しかし、何処かで見たことのあるような人物像にしたのです。また、線描を控えるコンテ調の描き方も偏屈な拘りに思え、その縛りを解きました。
これまで、作品は油彩であれデッサンであれ、ネットに載せる時は写真撮影で複写画像を作って来ました。出来るだけ元の絵に近付くよう高性能のカメラ・レンズを使っていましたが、紙に描いたドローイングならフラットベッドスキャナでのスキャンが可能です。これをしなかったのは作品サイズの問題からです。しかし、画像処理ソフトの進化で分割スキャン合成が簡単完璧になっていました。
そこで、同じドローイングからカメラ撮影とスキャンで複写画像を作り比べてみると明らかにスキャンの方が高画質です。そして、この作業をする中で思い出したのが、元の絵と複写画像はどうやったとしても結局は別のものだと言うことです。ならば、紙のドローイング作品から生まれた画像は、その代替であると同時に、もうひとつの作品ともなり得るはずです。
複写画像は元のドローイングに忠実である必要はなく、自由に編集してかまいません。現実のドローイングのサンプルとして示すのでない限り、それ自体としてはいかようにしても良いはずです。これは、油彩の複写画像でも同じことですが。
コンセプトは大きく変わりました。複写画像は編集を経て新たなデジタルデータのドローイング作品となり、ネットはこれまで代替画像で現実の作品を紹介する場でしたが、これらの作品にとっては作品自体を見せる場となりました。
不本意ながらの実写パフォーマンスとして始めた人物デッサンが、全く予想をしていなかったデジタルのドローイング作品を創るきっかけとなったのです。
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