見出し画像

新しいドローイング発案顛末 (上)

ネットのこれからは動画の時代と思っていたので、昨年暮れから今年初夏にかけて、プロモーション活動としてYouTubeを中心に据えました。ところで、私の作品制作は様式や技法の性質から時間を多く要し月に一点完成させるのが限界です。

そうすると、作品を紹介する動画だけでは量が全く足りません。そこで量を補うために制作過程の披露となります。これはYouTubeに限らず美術系制作者動画の主流になっているようです。

始めは油彩作品の制作の様子を動画にしていましたが、撮影が制作そのものの邪魔になることなどから敬遠するようになりました。

そして次に候補として浮かんだのが、人物デッサンの制作を見せることです。SNSを見渡すと写真を元にした人物描写動画が主流となっていたので、差別化も考え現実のモデルを傍らに直接見て描く動画を撮りました。

最初は15分前後で描いたものをそのままノーカットで出していました。しかし、それでは完成度に満足いかず次は倍以上の時間で描き、また、観る人があまり退屈しないように短く編集もしました。

このタイプの動画では、制作過程を見せると同時に画面を分割して完成したデッサンの全体や細部も見られるようにしました。これは世の中の流れに迎合している自分への妥協案でもあったのです。基本的には制作過程は人に見せるものではありません。芸術鑑賞は描かれた作品から始まるもうひとつの創作であり、そのような行為は芸術鑑賞を始めるべきところでそれを終わらせてしまいます。

さらにYouTubeでのプロモーション活動の根本的問題に気が付きました。動くホームページと思って始めたYouTubeですが、そこで見せるものは決して作品そのものでなく、作者自身だったのです。YouTubeで行うプロモーション活動とは画家のタレント化です。

作家とは彼の全作品を通して鑑賞者の創造の中に見えてくるものです。この忍耐を要する努力を抜きにして作者を知ることはできません。ですから、作者本人を見せて簡単に何かしらわかったような気にさせることは私の考えと全く逆です。

と言うことで、このような宣伝目的の人物デッサンもやがて続ける気はなくなり、自分の能力にも考えにも合わないYouTubeは、単なる優秀な動画サーバーとなりました。

つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?