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UEFAクラブライセンシングおよび財務的持続性規則の概要

FFPからFSへ

2022年4月、UEFAは2010年に導入したFFP規則(Financial Fair Play Regulations)をFS規則(Financial Sustainability Regulations,以下FSR)に改定しました(*1) 。新しい仕組みは "UEFA Club Licensing and Financial Sustainability Regulations" として文書化されています。

導入当初の目的 (*1) を概ね達成したことや、10年以上におよぶ運用とビジネス環境(フットボール産業の拡大やグローバリゼーション)の変化を経て明らかとなった課題への対応が求められたことも改定の大きな理由です。COVID-19のパンデミックがもたらした財務ショック (*2) が改定の大きな契機となったことは言うまでもありません。


*1 UEFAはFFPの成果として、給与や社会保障/税金などの未払い金をほぼ一掃したこととや、2008/09シーズンに欧州の一部リーグ所属クラブが抱えていた約16億ユーロの赤字を2017/18シーズンに1.4億ユーロまで減らしたことを挙げています。
*2 UEFAは欧州全体で約70億ユーロの収益が失われたと試算しています(ゲート収益:44億ユーロ、商業&スポンサー収益:17億ユーロ、放映権収益:10億ユーロ弱)。


FFPに対する誤解と名称の変更

FFPの目的は慢性的な赤字経営を是正することにありました。しかしながら、 "Financial Fair Play" という名称はFFPが競争力の均衡化を主要な目的としているという誤った印象を多くのひとに与えてしまいました。もちろんFFPにもそうした効能はあります。しかし、競技のバランスはスポーツ規則など様々な手段と組み合わせて実現する必要があります。UEFAは財務的持続可能性の実現が最大の目的であることを正しく理解してもらうためにFFPという名称を廃止しました。

3本の矢

財務的な持続可能性を目的とするFSRにおける3つの柱が 1) ソルベンシー、2) 安定性、3) コストコントロール です。FFPが安定性とソルベンシーの2つの柱で構成されていたのに対し、FSRではコストコントロールという新しい柱を加えました。また、ソルベンシーを従来より強化する一方で、安定性の規制は逆に緩和しました。以下では、それぞれの内容について以下で詳しく見ていきたいと思います。

1.FFPの仕組み


FFPからFSRへと改定されたものの基本的な枠組みはかなり似ています。FFPについては(誤解されている部分もありますが)多くの方がある程度の知識をお持ちかと思います。急がば回れではありませんが、最初にFFPの仕組みについて解説し、そのあとでFFPからの変更点を見ていきましょう。FFPの仕組みは @Schumpeter さんが分かりやすく解説されています。会員限定記事ではありますが詳しく知りたい方にはおすすめです。

FFPの規則は "UEFA Club Licensing and Financial Fair Play Regulations" として文書化されています。FSRでも同様ですがクラブライセンシングモニタリングという二層構造の仕組みとなっています。

クラブライセンシング

クラブライセンスUEFA大会(CL/EL/ECL)に出場する全てのクラブが事前に取得すべき参加資格です(*1)。審査項目は、スポーツ部門・社会的責任・インフラ施設・経営管理体制・法務・財務に及びます。各項目において最低要件を満たすクラブにライセンスが付与されます。実際の審査は各国の協会/リーグに委託されていて、審査プロセスや最低要件についての一定の自由度が協会/リーグに与えられています(*2)。


*1 協会/リーグは新シーズンの開始前(5月末)にUEFA大会出場予定クラブにライセンスを付与したことをUEFAに対して報告する義務があります。
*2 各国の協会/リーグは、自身の裁量で最低要件を厳しくしたり審査項目を追加できます。国内リーグ/大会のライセンシングにおいては、UEFAライセンシングの審査項目を全て取り入れる義務を負っています。

モニタリング

モニタリングはUEFA大会出場クラブの財務状況の審査を指します。具体的には、各クラブがブレイク・イーブン要件(Break Even Requirement)と未払い金ゼロ要件(Non Overdue Payables)の2つを満たしているかどうかを審査します。FSRの用語に照らし合わせると、前者が安定性、後者がソルベンシーに対応します。世間で一般にFFPと呼ばれているのはブレイク・イーブン要件のことです。

クラブライセンスとは異なり、UEFAが承認した独立機関である Club Financial Control BodyCFCB)がクラブの提出資料を元に審査します 。審査対象は CL/EL/ECL の出場クラブです。Qualification Round の出場クラブも含めるため、計230以上のクラブが審査対象となります。

ブレイク・イーブン要件

ブレイク・イーブン要件ではUEFA大会の出場クラブが「過去3シーズンに均衡収支を達成していたかどうか」を審査します。2019/20シーズンのUEFA大会出場クラブを例にとると、同シーズン中に2016/17-2018/19シーズンの損益を合算して均衡収支の達成状況を審査します。この例の場合、2019/20シーズンをライセンスシーズン、2016/17-2018/19シーズンをモニタリング期間と呼びます。

ブレイク・イーブンの審査は損益計算書をベースに行いますが、単純な損益の合計額の審査とは以下の点で異なります.

  • 男子11人サッカーのトップチームの関連収益関連費用を用いて損益を計算します。関連収益として計上されるのはマッチデイ収入、放映権収入、コマーシャル収入、移籍収益などです。関連費用として計上されるのは主に選手やコーチの給与と移籍金(減価償却費)です。女子サッカーチームやアカデミーの人件費、施設整備費(施設の減価償却費)といったサッカーのすそ野の拡大に貢献する費用は計上されません。

  • スポンサー収入や外部サービス委託費、選手売却益などは、フェアバリュー(市場での適正評価額)で計上する必要があります。例えば、マンチェスター・シティとパリ・サンジェルマンはオーナー関連企業から得ている高額のスポンサー収入(の一部)が、CFCBによりフェアバリューより高いと判断されています。その結果、両クラブは実際に受けとるスポンサー収入より低い全額しか関連収益として計上することが認められません。

  • モニタリング期間の合計損失が500万ユーロ以下であれば均衡収支を達成したと判定されます。ただし、オーナーの増資や寄付で損失が補填される場合には、最大3,000万ユーロの損失まで認められます。内部留保(利益剰余金)を取り崩す場合も同様です。

  • モニタリング期間に均衡収支を達成できなかった場合、モニタリング期間の直前2シーズンの損益を加えることが認められています。過去5シーズンの合計損失が500万ユーロ以下(又は3,000万ユーロ以下)となった場合には均衡収支を達成したと判定されます。

ブレイク・イーブン要件は全てのクラブに適用される訳ではありません。シーズンT-2とT-3の関連収益と関連費用がいずれも500万ユーロを下回るクラブについては、ライセンスシーズンTにおいてブレイク・イーブンの規制が適用されません。

COVID-19への特例

COVID-19がもたらしたシーズンの中止や延期、無観客での試合開催による収益の大幅な減少に対応するため、UEFAは2つの特例措置を導入しました。1つは モニタリング期間の変更、もう1つは損益悪化の軽減措置の導入です。

2019/20シーズンが中断され、FY2020の期末までに終了しなかったことから2020/21ライセンスシーズンでは2017/18-2018/19の2シーズンをモニタリング期間とする一方で、2021/22ライセンスシーズンでは2017/18-2020/21の4シーズンをモニタリング期間としました。2022/23も同様に2018/19-2021/22シーズンの4シーズンがモニタリング期間となります。

損益悪化の軽減措置は2種類あります。1つは COVID-19 との直接的な関係が明白な損失(例えば、マッチデイ収入やコマーシャル収入の減少)を2019/20-2020/21シーズンの損益計算から控除する措置です。もう1つは2019/20シーズンと2020/21シーズンの損益を合計して1/2倍する措置です。COVID-19 との直接的な関係が明白とはいえない負の影響(例えば、移籍市場が不活性化したことによる移籍収益の減少)を1/2倍に薄める措置といえます。

未払い金ゼロ要件

UEFA大会に出場するすべてのクラブは未払い金ゼロ要件をクリアする必要があります。審査対象クラブは6月末日と9月末日の2時点において(*1)、他のクラブや(選手やコーチを含む)従業員、社会保障/税金に対する未払い(Overdue payables)がないことをUEFAに証明する必要します。未払い金がある場合には、ブレイク・イーブン要件に対する違反と同様にCFCBが処罰を決定します。


*1 6月末日と9月末日の2時点における未払い金ゼロの要件に加えて、UEFAライセンスの取得には3月末日において前年12月末日を期限とする支払いの未払いがないことを証明する必要があります。こちらの要件はUEFA大会出場クラブだけでなくUEFAライセンスを申請する全てのクラブが対象です。

FFPの運用

FFPの運用を担っているのがCFCBです。CFCBは第一委員会(First Chamber)と裁定委員会(Appeals Chamber)という2つの独立した委員会から構成されています。

第一委員会の主な役割は、審査対象クラブの提出資料(提出期限は10月中旬頃)を元にFFPの規制に違反していないか審査することです。裁定委員会の主な役割は、違反があった場合にその程度に応じた罰則を決定することと、(第一委員会の決定に対する)異議申し立てがあった場合に審理と裁定をすることです(*1)。罰則は以下の9種類のいずれか又はいくつかを組み合わせたものとなります。

  • 注意

  • けん責

  • 罰金

  • 勝ち点のはく奪

  • UEFA大会のプライズ・マネーの減額

  • UEFA大会のスカッド・リストへの新規登録の禁止

  • UEFA大会のスカッド・リストの登録可能人数の制限

  • UEFA大会の出場禁止処分

  • UEFA大会のタイトルや賞金のはく奪

違反があったからといってUEFAが直ちに罰則を加えるとは限りません。当該クラブと協議した上で2-4シーズンを計画期間とする財務改善計画を立てて、計画内で定められた中間あるいは最終目標を達成できない場合に段階的に処罰を加えるのが一般的です。財務改善計画と違反時の罰則内容を文書化したものは和解協定(Settlement Agreement)と呼ばれます(*2)。


*1 裁定委員会の決定に対する異議申し立てがある場合は、スイス・ローザンヌに拠点を構えるスポーツ仲裁裁判所(Court of Arbitration for Sport)に対して行うこととされています。
*2 クラブと協議して和解協定を締結するのは第一委員会の役割、和解協定に違反した場合に罰則の適用を最終決定するのは裁定委員会の役割です。

2021/22ライセンスシーズンの審査結果

UEFAは8月に2021/22ライセンスシーズンの審査結果を公表しました。通常は春先の公表ですが、今回はCOVID-19 の影響もあり公表が遅れました。以下に示す計8クラブがブレイク・イーブン要件に違反し、UEFAはそれらのクラブと協議して和解協定を取り交わしました。

  • ミラン (€15m)

  • インテル (€26m)

  • ユベントス (€23m)

  • ローマ (€35m)

  • パリ・サンジェルマン (€65m)

  • マルセイユ (€2m)

  • モナコ (€2m)

  • ベシクタシュ (€4m)

ブレイク・イーブン要件に違反したクラブ名のあとに書かれている数字は罰金額です。違反したクラブは直ちに全額を納入する必要はありません。15%の金額だけ納入して、残りの85%は和解協定で定めた数値目標を達成できなかった場合に段階的に納入します。

UEFAは以下に示す19クラブをウォッチリスト(監視対象リスト)に追加したことも公表しました。該当するのは、1) COVID-19による特別損失を控除すればブレイク・イーブン要件をクリアするけど控除しない場合には違反するクラブと、2) 特別損失を控除してもブレイク・イーブン条件に違反するけれど2015/16-2016/17シーズンの損益まで含めればブレイク・イーブン要件をクリアするクラブです。

  • マンチェスター・シティ

  • チェルシー

  • ウェストハム・ユナイテッド

  • レスター・シティ

  • バルセロナ

  • セビージャ

  • レアル・ベティス

  • ボルシア・ドルトムント

  • ウニオン・ベルリン

  • ヴォルフスブルク

  • ナポリ

  • ラツィオ

  • オリンピック・リヨン

  • フェイエノールト

  • アントワープ

  • レンジャーズ

  • バーゼル

  • トラブゾンスポル

  • フェネルバフチェ

ちなみに上記の審査結果の公表前にアーセナルがウォッチリストに加わったと報じられました。しかし、これは原理的におかしな話です。なぜなら2021/22シーズンにUEFA大会に出場できなかったアーセナルはモニタリングの対象から外れていたからです。

FCポルトの事例

FFP違反と和解協定が移籍市場に与える影響を知るうえでの興味深い事例としてFCポルトを取り上げてみましょう。

FCポルトは2016/17ライセンスシーズンに2013/14-2015/16のモニタリング期間にブレイク・イーブン要件に違反したことが発覚しました。UEFAとFCポルトは協議して「2020/21ライセンスシーズンにブレイク・イーブン要件をクリアすること」を最終目標とする和解協定を2017年6月に取り交わしました。ところが途中でCOVID-19が発生しました。2020年に最終目標が「2021/22ライセンスシーズン(モニタリング期間は2017/18-2020/21の4シーズン)にブレイク・イーブン要件をクリアすること」へと変更されました。

2021年の晩秋から2022年の春先にかけてUEFAはFCポルトの提出書類を審査したのですが、この段階でブレイク・イーブン要件に違反したこと、すなわち和解協定の最終目標を達成できなかったことがおそらく判明しました。

UEFAとFCポルトが取り交わした和解協定には「最終目標を未達の場合にはCFCBの裁定委員会が罰則を決定する」という規定があり、UEFAはこれに従い2022年8月に「2022/23ライセンスシーズン(モニタリング期間は2018/19-2021/22の4シーズン)にブレイク・イーブン要件に違反した場合はFCポルトのUEFA大会への出場を1シーズン禁止する」と発表しました。

UEFAの上記処分は少し変な感じがします。なぜなら2022年8月の時点では2021/22シーズンの会計年度が既に閉じていたからです。FCポルトが2022/23ライセンスシーズンにブレイク・イーブン要件に違反しそうだった場合、何の手も打ちようがありません。

ここからは推測ですが、舞台裏では次のような動きがあったのではないでしょうか。

  • 2022年春先にブレイク・イーブン要件に違反したことをFCポルトに通告

  • 双方で協議して「2022/23ライセンスシーズンにブレイク・イーブン要件に違反した場合には厳しい処分を下す」ことに合意

2022年夏の移籍ウィンドウにおいて、FCポルトはファビオ・ヴィエイラをアーセナルに、ヴィティーニャをパリ・サンジェルマンに売却しました。移籍が発表されたのは6月21日と6月30日で、両選手の売却でFCポルトは約7500万ユーロの売却益を得ました。2022/23ライセンスシーズンにおけるブレイク・イーブン要件をクリアするため、何としてでもFY2022内に利益を上げる必要があったのだと思います。

FFPの課題

冒頭で述べたとおり、2022年4月にFFPはFSRへと改定されました。以下のような課題への対応が求められたことが改定のドライビング・フォースになったと思われます。

  • COVID-19で棄損したバランスシートを回復するために増資や新規投資を呼び込む必要があった。

  • 資金力や事業再生ノウハウをもつPEファンドなどが投資しやすい環境整備が求められた。

  • 損益の管理を基本とするFFPはバランスシートの悪化を防ぐうえでは効果があるものの、既に存在する負債の管理という点で限界がある。

  • 過去3シーズンの損益に基づく遡及的な仕組みであるFFPは、クラブの財務安定性を予防的に管理する点において限界がある。

  • 各リーグが課している基準とのすり合わせが求められた。例えばプレミア・リーグではUEFAのFFPと似た仕組みが導入されているが、ブレイク・イーブン要件の基準が非常に緩い。一方、ラリーガではリアクティブなFFPとは異なりプロアクティブにスカッド・コストを管理している。

  • マンチェスター・シティやパリ・サンジェルマンといったステイト・オウン・クラブによる市場破壊的な投資に対してより効果的な規制が求められた。

2.FSRの仕組み

FSRの3本の柱である 1) ソルベンシー、2) 安定性、3) コストコントロールのそれぞれについてFFPとの違いに注意しながら説明したいと思います。

ソルベンシー

ソルベンシーはFFPにおける未払い金ゼロ要件に対応します。FSRでは7月15日、10月15日、1月15日の3時点において支払い期限を15日以上過ぎた未払いがないことを証明する必要があります。FFPの場合と同じくUEFA大会に出場する全てのクラブに対して課されます。2022年6月からさっそく運用が開始しています。

FFPの未払い金ゼロ要件と比較して以下の点で規制が強化されました。

  • 未払い金がないことの証明が2時点から3時点への増えた(*1)。

  • 3時点での書類提出が義務づけられた(FFPでは6月末日時点での未払いについては全てのUEFA大会出場クラブに書類提出の義務があったが、9月末日時点については一部のクラブしか書類を提出する必要がなかった)。

  • 違反を問われる遅延債務の対象に、サッカークラブ、選手・職員の人件費、社会保障/税金に加えて、UEFAならびにUEFAライセンスの認証組織が加わった。

  • 支払遅延に対する寛容さがなくなる(運用方法は不明)。


*1 UEFAライセンスの取得においても、2月末日を期限とする支払いの未払いが3月末日時点においてないことを証明することが必要となり、FFPよりも規制が強化されました。

安定性の審査

安定性はFFPにおけるブレイク・イーブン要件に対応します。選手や職員の総人件費(給与や社会保障費の合計)が500万ユーロを超えるクラブに対してのみ課されます。

ライセンスシーズンやモニタリング期間の考え方は同じですが、均衡収支の基準が大きく緩和されました。従来は3年間で最大3,000万ユーロの損失まで認められていましたが、FSRでは最大6,000万ユーロの損失までが認められます。更に「財務状態が良好」(*1) と判断された場合には追加で年間1,000万ユーロの追加損失が許容されます。

安定性の運用は2023/24ライセンスシーズンから始まります。同シーズンは2022/23シーズンの損益を提出させますが均衡収支の達成状況は審査しません。2024/25ライセンスシーズンは2022/23と2023/24の2シーズンの損益で審査を行い、2025/26ライセンスシーズン以降は3シーズンの損益で審査を行うこととなります。

従来のブレイク・イーブン要件が緩和される一方で(*2)、クラブのバランスシートの強化を目的とする資産超過規制がクラブ・ライセンシングの段階に新たに加わりました。UEFAライセンスを申請するすべてのクラブは、締切日前の12月31日時点において債務超過状態にないこと、または債務超過状態にある場合には債務超過額が前年より10パーセント以上減ってることを、UEFAライセンスの認証組織に対して証明する必要があります。

資産超過規制は2023年6月1日に施行され、2024/25ライセンスシーズンから適用されます。すなわち、UEFAライセンスを申請する全てのクラブは、2023年12月31日時点において債務超過状態にないことを証明する必要があります。


*1 純資産、流動比率、純負債と収益の比率、GC注記という4つの基準により判断されます。
*2 FFPでは関連主体(related party)との取り引きにのみ適用していたフェア・バリューの適用範囲を拡大するなど規制を厳しくする方向での変更も一部あります。

コストコントロール

コストコントロールはFSRで新たに加わった規制です。選手や職員の総人件費(給与や社会保障費の合計)が3,000万ユーロを超えるクラブに対してのみ課されます。トップクラブの選手とコーチの人件費をクラブ収益の70%以下に制限します。モニタリング期間は安定性とは異なり1年間です。また、会計年度ではなく暦年の情報に基づきます。

人件費には選手とコーチの給与に加えて、勝利給やタイトル獲得の各種ボーナス、社会保障、肖像権対価、移籍金(減価償却)、代理人フィーなどが含まれます。モニタリング期間に発生した人件費をそのまま計上します。クラブ収益はマッチデイ・放映権・コマーシャルの各種収入と選手売却益で主に構成されます。前者についてはモニタリング期間に得た収入がフェア・バリューから乖離していなければそのまま計上します。一方、シーズンごとの変動が大きい選手売却益については過去36ヵ月に得た売却益の1/3の金額を計上します。

コストコントロールは2023/24ライセンスシーズンから段階的に開始します。同シーズンにおけるコストコントロールのモニタリング期間は2023年1月から同年12月で、2024年5月には違反の有無が公表される予定です。移行期間の特例として、人件費とクラブ収益の比率は70%以下ではなく90%以下に緩和されます。選手売却益についても、過去12ヵ月の売却益、過去24ヵ月の売却益の1/2、過去36ヵ月の売却益の1/3の中から一番大きい数字を用いることができます。

2024/25ライセンスシーズンでも、人件費とクラブ収益の比率が80%以下に緩和され、選手売却益についても過去24ヵ月の売却益の1/2もしくは過去36ヵ月の売却益の1/3のいずれか大きい数字を用いることができます。本来の運用が始まるのは2025/26ライセンスシーズン以降となります。

コストコントロールの規制に違反すると、違反の程度(クラブ収益と人件費の超過額の比で判断)と過去4シーズンにおける違反の回数により段階的に制裁が厳しくなります。最悪の場合には、人件費の超過額が罰金として科されます。

3.おわりに ~FSRのインパクト~

レアル・マドリードやユヴェントス、マンチェスター・ユナイテッドが2021/22シーズンの決算を発表しましたが、どこも芳しくないですね。スタジアムに観客が戻ってきたにも関わらず、依然としてパンデミックの影響が明らかです。

2023/24シーズンにはFSRのコストコントロール規制が始まり、人件費を90パーセント以下にすることが求められます。既に説明したとおり、対象は2023暦年です。そのため、今シーズン(2022/23シーズン)、CLのグループステージで敗退したり、CLに不出場のクラブはハンデキャップを負った状態になりえます。

FFPの導入がミランやインテルの長期的な低迷を引き起こしたように、FSRの導入も欧州主要クラブの経営や移籍オペレーションに混乱をもたらす可能性があります。FSR導入がもたらすインパクトはとても興味深いので、別の記事であらためて議論してみたいと思います。


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